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第一章 緋川兄弟の秘密

壱話 熊親子を倒せ!

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    それは、特に暑い日の午前中の事だった。
    ……暑すぎて木陰の少ない下の道を行くのは躊躇われた為、山の中の木立の中を歩いていた。――それでも暑いのだけど、川の近くを歩くだけで随分と楽になる。
    だけど、真夏の水辺は涼しい分危険も増すのだ。
   「グルルルル……」
    低い唸り声をあげながらゆっくりと近付いてくるのは――熊……の、魔物だ。それも子連れ。二頭のまだ小さな子熊だけど、魔物のせいかちっとも可愛いらしくない。親子揃って凶悪な面構えをしている。
    「おおっと、これはいきなり厄介な奴が来ちまったなぁ」
    蒼月さんが早速武器を構えて親へと突っ込み、華乃さんは鋼糸で子熊を狙う。
    だけど親熊の体格は北極熊を越え、子熊でさえ月ノ輪熊の大人位に大きい。
    蒼月さんの刀は親熊の前足に軽く弾かれ、華乃さんの鋼糸も、首を落とすには至らず、パッと血の飛沫が散った。……血の臭いを周囲に撒き散らして。
    血の臭いに親熊は興奮し、頻りに吠える。
   「……チッ、面倒な!」
    華乃さんが連続で子熊を狙うけれど、中々決定打を与えられず、周囲の緑がどんどん赤く染まっていく。
    私もまだ未熟ながら霊力弾で連中を牽制したりして手伝うけれど、まだ戦力と言うには程遠い。
    「クッ……」
     顔色の悪い草治さんが薬を塗った針を投擲する。
     華乃さんの戦いを見て、適当に投げても弾かれると考えたのだろう、目を狙って当てると言う……エグい方法を選択した。
     子熊は悲鳴をあげて倒れた。しばらくピクピクしていたけれど、やがて動かなくなる。
     ――親熊は……子熊を殺された事に……ではなく、どんどん濃くなる血の臭いと、目を潰された怒りに我を忘れた様に暴れ回る。
     子熊は倒れたけれど、親の方は良く見ると手足が痙攣しているのに、倒れるまでには至っていない。
     蒼月さんも、柔らかいところを狙って突き攻撃を繰り返すけれど、中々致命傷にはならずに苦戦していた。
    ……子熊相手でも怪我をさせるのが精一杯だった華乃さんの鋼糸は尚の事。でも少しでも弱らせられればと攻撃を加え続け――。
    一体交戦を始めてどの位経ったのだろう?
    ようやく対象が沈黙した頃には蒼月さんでさえ肩で息をしていた。
    「ああ、くそっ、場をこんなに血塗れにしちまった。早いとこ離れねぇとヤバイ奴がどんどん集まって来るぞ」
    ――だけど。
   「草治さん?    優菜ちゃん?    大丈夫?    顔色が……!」
    緋川兄妹は随分と青ざめた顔で踞っていた。まるで吐くのを堪えているかの様に――。
    「しまった、マズい!」
     蒼月さんはそれを見て顔色を変えた。
    「おい、走るぞ!」
     彼は両脇に兄妹の身体を抱え、川に飛び込んでいった。
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