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第一章 もしかして異世界……?
参話 ある日森の中出会ったのは……
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こういう風景は、一応見た覚えがあった。
小学校の春の遠足で山登りさせられた時に散々見た風景にとてもよく似ている。
……どう見ても町中の神社の境内にある鎮守の森とは別物な景色。
それに、境内こそ静かでも町中の神社には近くを走る車のエンジン音や、その先の踏切の音や列車の音といった環境音は常に聞こえていたはずが、それらがさっきから全く聞こえなくなっている。
代わりに鳥のさえずりがあちこちから聞こえてくる。
それもカラスや鳩、雀みたいな町中で聞くような鳥の声ばかりでなく、何の鳥かも判別出来ないものばかりが沢山聞こえる。
……目を閉じてみたはいいけど、要らない過去の白昼夢に思わず目を開けてしまった陽彰は、ため息を吐くしかなかった。
「何でいきなり山の中に居るのか分からないけど」
突然の落雷、あれが何らかの一因な気がしてならない。
そしてもう一つの心当たり。
「……奴らの仕業?」
落雷直後、気絶してた自覚はないのだけど、もしかすると実はそれなりの時間気を失い、その間に奴らにこんな場所まで運ばれた?
――誰にも見つからず怪しまれずにそんな事出来るのか、とか疑問も多いけど、今こうして居たはずの場所に居ない以上はもう今更だ。
とにかく門限までには帰らないと大変だし、最悪怒られるのは覚悟するにしても暗くなる前に森を出ないと危険だ。
早く、立って歩かなくては……。
高校の制服――ブレザーにスカートに革靴――は、ハイキングに全く向かないけど、文句も言っていられない。
落ち葉が厚く降り積もった地面を踏みしめ、立ち上がる。左右はともかく方角も分からないし、どちらへ行けば良いのかもよく分からないまま、それでも道のように拓けている方へと歩き始めた。
荷物は通学鞄のみで、中に入っているのは教科書とノートと文房具、それと図書館で借りた本くらい。
正直邪魔だから置いて行きたいけど、新しく買って貰えるかも分からないのに捨てては行けなくて。
ガサガサと余計な音を立てながらのそのそ歩き、度々鋭いトゲ付きの蔓や木の枝に引っかけたり、下草の葉で切ったりと手足があっという間に小さな切り傷で一杯になって、僅かずつながらも血が出て、転々とその跡を残していたから。
音のせいか、血の匂いのせいか、その両方か。
それは分からないけど。
そいつは私の前に現れた。
――見た目は猪の様な……だけど、確実に違う何か。
いつも目にする妖怪やあやかしとも何か違う何か。
……自分でも何言ってるか分からないけど、自分がいま命の危機だって事だけは分かる。
だって、猪っぽい牛サイズの獣が立ちはだかってるんだよ?
こっちは丸腰どころか制服なんて動き難い格好してるんだよ?
……勝ち目なんかあるはずないし、逃げるにしたってどうすれば?
パニック寸前の私に向かって、獣が突進してくる。
――絶体絶命ってまさにこの事。……うん。これ死んだな。
小学校の春の遠足で山登りさせられた時に散々見た風景にとてもよく似ている。
……どう見ても町中の神社の境内にある鎮守の森とは別物な景色。
それに、境内こそ静かでも町中の神社には近くを走る車のエンジン音や、その先の踏切の音や列車の音といった環境音は常に聞こえていたはずが、それらがさっきから全く聞こえなくなっている。
代わりに鳥のさえずりがあちこちから聞こえてくる。
それもカラスや鳩、雀みたいな町中で聞くような鳥の声ばかりでなく、何の鳥かも判別出来ないものばかりが沢山聞こえる。
……目を閉じてみたはいいけど、要らない過去の白昼夢に思わず目を開けてしまった陽彰は、ため息を吐くしかなかった。
「何でいきなり山の中に居るのか分からないけど」
突然の落雷、あれが何らかの一因な気がしてならない。
そしてもう一つの心当たり。
「……奴らの仕業?」
落雷直後、気絶してた自覚はないのだけど、もしかすると実はそれなりの時間気を失い、その間に奴らにこんな場所まで運ばれた?
――誰にも見つからず怪しまれずにそんな事出来るのか、とか疑問も多いけど、今こうして居たはずの場所に居ない以上はもう今更だ。
とにかく門限までには帰らないと大変だし、最悪怒られるのは覚悟するにしても暗くなる前に森を出ないと危険だ。
早く、立って歩かなくては……。
高校の制服――ブレザーにスカートに革靴――は、ハイキングに全く向かないけど、文句も言っていられない。
落ち葉が厚く降り積もった地面を踏みしめ、立ち上がる。左右はともかく方角も分からないし、どちらへ行けば良いのかもよく分からないまま、それでも道のように拓けている方へと歩き始めた。
荷物は通学鞄のみで、中に入っているのは教科書とノートと文房具、それと図書館で借りた本くらい。
正直邪魔だから置いて行きたいけど、新しく買って貰えるかも分からないのに捨てては行けなくて。
ガサガサと余計な音を立てながらのそのそ歩き、度々鋭いトゲ付きの蔓や木の枝に引っかけたり、下草の葉で切ったりと手足があっという間に小さな切り傷で一杯になって、僅かずつながらも血が出て、転々とその跡を残していたから。
音のせいか、血の匂いのせいか、その両方か。
それは分からないけど。
そいつは私の前に現れた。
――見た目は猪の様な……だけど、確実に違う何か。
いつも目にする妖怪やあやかしとも何か違う何か。
……自分でも何言ってるか分からないけど、自分がいま命の危機だって事だけは分かる。
だって、猪っぽい牛サイズの獣が立ちはだかってるんだよ?
こっちは丸腰どころか制服なんて動き難い格好してるんだよ?
……勝ち目なんかあるはずないし、逃げるにしたってどうすれば?
パニック寸前の私に向かって、獣が突進してくる。
――絶体絶命ってまさにこの事。……うん。これ死んだな。
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