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元平民の悪役令嬢、世界を救う

対峙

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    野宿の拠点とした村の外れからそこまでは、歩いても一時間はかからなかった。
    村の中心はもっと先のはずだったけど……?
    怪訝な顔をしていたのだろう。
    奴は――邪王となったまだ少年らしい特徴を多く残した若い青年が、明らかにイラッとした様子で冷たく指摘した。
     「昨夜、近くに強敵の気配を感じたので応戦のため移動してきたのに決まっているだろう。俺は強大な力を得たが、まだ大軍と真っ向からぶつかって勝つには少々足りない。その上まだこの力を使いこなせていないのだから、悠長にふんぞり返っていては負けてしまう。お前らを倒して、俺はもっと強くなるんだ!」
    そう必死に叫ぶ彼の姿は、こうならずに済んだかもしれない道を知る私にとって目にも耳にも痛いもので。
    だけど為政者として、そして彼を屠る者として目を背けてはいけないものだった。
   「貴方の嘆きや怒りは理解できる。……だけど今の貴方はこの世界に居てはいけない存在なの。だから悪いけど討伐させて貰う。せめて来世はもっとましな生が望めるよう神に祈っておくわ」
    その私の言葉にも当然のように憤る彼は「ほざくな!」とその力を私に向けて放った。
    ただがむしゃらに打ち出されただけの力など、避けるのは容易い。逸れていった力は私の背後の地面にクレーターを深々と穿って消えた。……もし直撃していたら、私など粉々にされていた事だろう。
    やはり油断は禁物だ。
    彼の周囲に立つ魔物達も臨戦態勢をとっている。
    ジリジリと、相撲で見合う力士のように互いの隙とタイミングをはかり初撃の瞬間を見出だす静な戦いがしばし続いた後。
    まず飛び出して行ったのはレイフレッドで。
    それを合図に私も魔法を連撃で放ち、レイフレッドの援護射撃とする。
    魔物達はそれを避けるべく動きだし、邪王となった彼も私の魔術に対抗するため力を放つ。
    彼が放つ邪気に満ちた力の塊と、私の魔術の応酬が始まる。
    その均衡をあちら側に傾けようと魔物が妨害に入るけれど、それもレイフレッドに軽く捻られ狩られていく。
   ……ああ、やっぱり。
   私はため息をつきたくなる。
   邪王と化したせいで力の出力は馬鹿みたいにあるのに、私達のフェイントにまるでついて来れてない。
   戦いに対する経験値が圧倒的に足りていない。
   力はあるから、私達もヒヤリとする場面はあったけれど、魔物との連携もまるでなってない。
   これなら、倒せる。
   戦いの素人や、プロでも、隊員を揃えた軍隊では力で押しきられてしまいかねないけど。
    少数精鋭の私たちなら。
    その確信を、レイフレッドと共有し。
    レイフレッドの刃が、邪王の首を狙って振り下ろされた。
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