唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

領主のお仕事

お勉強を始めよう

    カイルが前世の記憶を持っている事については、当分私達だけの秘密とする事に決めた。……やっぱりおおっぴらにする様な事柄ではないからね。
    ……でだ。
    早速この世界の事を色々と教えていく事にする。
    基本は本を与えて自習し、分からないことがあれば私かレイフレッドに聞く形で勉強を開始した。
    ……魔法や戦闘はどうしてもスキルや適正を見ないと適切な授業は難しいから、三歳まで待てと言い聞かせてある。
   「はは、前からどちらかというとインドア派なので……」
    と、戦闘訓練には消極的な彼は、むしろ商会の商品開発に興味を持っていた。
   「魔道具でプログラミングみたいな事をしたらどうなるのか……やってみたい」
    「プログラミングってのが何かは良く分からんがとにかく、神眼石をいただくまでは待て」
    事情は理解しても、この世界の者であるレイフレッドには地球の事情を理解しきる事は無理だ。だからカイルの言う事は分からなくても、こちらの常識なら私より知っている。
    息子と父との関係を模索しながらもまぁ上手くやっているようだ。
    「……ゲーム通りならさ、俺は娘として生まれてるはずなんだよ。そいつは、ヒロインへのヒント出しする親友キャラなんだ」
    そんなカイルはゲームについてそう言った。
    「けど、領主も違ければ俺は息子として生まれてる。バグだらけで始まるゲームがどうなるかは分からないよ」
    と、肩を竦めながら。
    「そもそも、初代の攻略キャラの一人がクズ、初代ヒロインもポンコツで、悪役令嬢の一人はモブキャラとくっついて大活躍って時点で既にバグだらけじゃないか」
     溜め息を吐いて。
   「……まぁ、モブ扱いするにはちょっと無理があるけどな、父さんは。実は隠しキャラでしたって言われても納得できそうだぜ」
   「うん。それは私も日々常々思ってる……」
   「あ、アンリ!?」
   「……既に五人もの子持ちが死んだ頃の前世の俺と大して変わらない歳に見える辺りは詐欺だけどな」
   「カイル！」
     ああ、あわあわしてるレイが可愛い。
   「ふふ、私の自慢の旦那様だもの」
   「はいはい、息子の前でのろけないでくれよ」
    前世はあっても、ちゃんと私達の息子でいようとしてくれるカイルは、前世の名は教えてくれなかった。
   「前世の事で思うことは……まぁ、ある。でも生まれてきたのがアンタ達の息子で良かったと思うから」
    彼はそう言ってくれたんだから、私達は精一杯息子を愛そうと思う。
    「カイルー！」
    「たっだいま～！」
    「遊ぼう、カイル！」
    何も知らない姉兄は、普通に遊んでいるつもりでいるけど。
    「……本物の子供はもっと手のかかるものなんだけどね」
    「いつか誤解の溶ける日が来ることを祈りましょう」
    私達は生ぬるくその光景を見守るのだった。