唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

領主のお仕事

カイルの過去

    「俺の享年は二十四歳だった。そういう意味ではその……か、母さんより歳上だったけど、母さんが死んだ年が20XX年だってんなら、俺はその当時まだ高校受験本番だったんだから年下……って事になる」
    と、カイルはそう言って話を始めた。
    「中学まではさ、学校は普通に楽しかったんだよ。そりゃムカつく先生がいたり、気に食わないやつは居たけど……まぁ無難にやり過ごしてたし」
    が、高校に行って――状況が激変した。
   「まぁありがちな話だけど……俺苛められてさ、不登校になったんだ」
    だけど親は厳しい人で、学校を休むことを許さない人だった。苛めの事を言っても「やり返せ」と言われるばかりで話にならない。
    だから学校へいくふりをして町をさ迷い歩いて補導員に捕まるなんて事もあったりした。……勿論親にはこっぴどく叱られたが。
    「で、そんな頃だったよ。母さんが言ったゲームに続編が出たのは」
    何と、盛りすぎてアウトになったはずのゲームに続編が出たとは……ビックリである。
    「知ってるとは思うけど、タイトルは乙女ゲームでも中身はRPGみたいなもんだろ？    買ってプレイしてたのは幼馴染みだったけど、その後お下がりでちょっとプレイしてさ。まぁ暇潰し的な？」
    家にも学校にも居場所がなくて、女の家に転がり込むってのも何というか情けない話ではあるんだが。
    「で、結局両親に頼み込んで通信式の高校に転校して高校は卒業して、プログラミングとか学べる学校へ行ってそういう系の会社に入社して……。まぁ、早い話がその会社が、とんだブラックでな。死因は多分過労死的なもんなんだろうな」
    あの日、いつもの通りに仕事をしていたはずが、途中から記憶がない。
   「んで、気付いたら赤ん坊ライフしてたんだ」
    と、カイルは言った。
   「――この世界が、母さんが言う初版のゲームの世界だって言うなら多分、そう遠くなく続編が始まるはずだ。舞台は――この領地で」
    「……え？」
    「ただ、俺の記憶と今の領主夫妻……つまりアンタらの名前が一致しない。この領地の領主は、前作のヒロインと、落とされた男のはずだ。しかもこんな子沢山じゃなかった。子は一人で……。まぁ、彼らはゲームじゃ大した役目も無かったからだけど……」
    せいぜいが、ゲームの舞台となる学園の入学式および卒業式で挨拶する程度。
    「……でも、そう遠くなくウチの学校でトラブルが起きる、と？」
    「ええ。卒業式で断罪イベント的な事が起こる可能性は大です」
    「……情報をありがとう。ゲームについてはまた後で詳しく聞くとして」
    私はカイルをそっと抱き上げた。
   「カイル、ウチの子として生まれてきてくれて、ありがとう」