277 / 370
領主のお仕事
助言者 - ビル視点 -
しおりを挟む
「……はぁ。それで奴隷を犠牲に逃げ帰って来た訳ですか」
「うっ、いや女を拐ったまではアンタの言う通りに運んで上手くいってたんだ。なのに何故か突然アイツが……あの男が現れて……全部滅茶苦茶に……」
「ふむ。あの男は吸血鬼だと聞いています。そう言えば吸血鬼にはパートナーという者が居て、それを守る為の固有スキルを有している、そんな情報がありましたね」
「そ、そうなのか……?」
「――知らなかったんですか? 幼い頃から貴方の婚約者の側に居た者の情報を……」
「きょ、興味がなかったんだ、地位を欲するだけの平民など!」
「しかし……どうしましょうかね。既に彼女は身二つになってしまった様ですし。新しく策を労するなら……。ああ、貴方はしばらく好きにしていて構いませんよ」
「あ、ああ……」
男は何やら一人で紙に何かを書き付け始めた。――こうなるともう何を言ってもうんともすんとも返ってこなくなる。
黒い髪色があの男の様で気に入らないが、体格は男にしては小さく、ひょろい。そして肌の色は黄色。――勿論真っ黄色ではない。白くもないし、黒くもない。少し黄色味がかった色をしていた。
書き物をしながら眼鏡の位置を直す手首の細さは、労働を知らない貴族の姫の様。
――だがこの男、あのムカつく女と同様に全属性の魔法が使える。……空間魔法も、だ。
体格差を利用すれば簡単に組伏せられる様に見えてこれがとんでもない。そんな真似をしようとした時点で明日の朝日は拝めなくなる。
そんな同輩の姿を何度も見てきた。
だから、この男にだけは文句は言っても決定的に逆らうことだけはしなかった。……文句を言うくらいなら許されていたから、そこは自重なんかしてやらないけど。
この男は肉体的暴力の才能は可哀想なほどに無い。
――が。
それを補って余りある頭脳と才能を秘めていた。
優秀な策士であり拷問者でもあった。魔法を使っての拷問。言葉を使って精神的に追い詰める。……そういう類いの仕事は彼の十八番だった。
今や彼なしに闇ギルドは存続出来ない。それほどまでにギルドは追い込まれていた。
自分も父親もギルド員として働き、基本は彼の命令で動いている。
彼が好きにしろ、と言うならしばらく仕事は無いのだ。
だから、いつもの小遣い稼ぎの任務に戻る。
――ただ、それだけの事……。だけど何だか面白くなくて。
「誰か女でも引っかけてくるか」
……奴隷の、魔族か獣人の女だけど。
「あーあ、たまには人間の女とやりてぇ……」
愚痴をこぼしながら、街の闇の中へと身を投じた。
「うっ、いや女を拐ったまではアンタの言う通りに運んで上手くいってたんだ。なのに何故か突然アイツが……あの男が現れて……全部滅茶苦茶に……」
「ふむ。あの男は吸血鬼だと聞いています。そう言えば吸血鬼にはパートナーという者が居て、それを守る為の固有スキルを有している、そんな情報がありましたね」
「そ、そうなのか……?」
「――知らなかったんですか? 幼い頃から貴方の婚約者の側に居た者の情報を……」
「きょ、興味がなかったんだ、地位を欲するだけの平民など!」
「しかし……どうしましょうかね。既に彼女は身二つになってしまった様ですし。新しく策を労するなら……。ああ、貴方はしばらく好きにしていて構いませんよ」
「あ、ああ……」
男は何やら一人で紙に何かを書き付け始めた。――こうなるともう何を言ってもうんともすんとも返ってこなくなる。
黒い髪色があの男の様で気に入らないが、体格は男にしては小さく、ひょろい。そして肌の色は黄色。――勿論真っ黄色ではない。白くもないし、黒くもない。少し黄色味がかった色をしていた。
書き物をしながら眼鏡の位置を直す手首の細さは、労働を知らない貴族の姫の様。
――だがこの男、あのムカつく女と同様に全属性の魔法が使える。……空間魔法も、だ。
体格差を利用すれば簡単に組伏せられる様に見えてこれがとんでもない。そんな真似をしようとした時点で明日の朝日は拝めなくなる。
そんな同輩の姿を何度も見てきた。
だから、この男にだけは文句は言っても決定的に逆らうことだけはしなかった。……文句を言うくらいなら許されていたから、そこは自重なんかしてやらないけど。
この男は肉体的暴力の才能は可哀想なほどに無い。
――が。
それを補って余りある頭脳と才能を秘めていた。
優秀な策士であり拷問者でもあった。魔法を使っての拷問。言葉を使って精神的に追い詰める。……そういう類いの仕事は彼の十八番だった。
今や彼なしに闇ギルドは存続出来ない。それほどまでにギルドは追い込まれていた。
自分も父親もギルド員として働き、基本は彼の命令で動いている。
彼が好きにしろ、と言うならしばらく仕事は無いのだ。
だから、いつもの小遣い稼ぎの任務に戻る。
――ただ、それだけの事……。だけど何だか面白くなくて。
「誰か女でも引っかけてくるか」
……奴隷の、魔族か獣人の女だけど。
「あーあ、たまには人間の女とやりてぇ……」
愚痴をこぼしながら、街の闇の中へと身を投じた。
0
お気に入りに追加
1,081
あなたにおすすめの小説
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
悪役令嬢キャロライン、勇者パーティーを追放される。
Y・K
ファンタジー
それは突然言い渡された。
「キャロライン、君を追放する」
公爵令嬢キャロラインはダンジョンの地下100階にて、いきなり勇者パーティーからの追放を言い渡された。
この物語は、この事件をきっかけにその余波がミッドランド王国中に広がりとてつもない騒動を巻き起こす物語。
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました
竹桜
ファンタジー
自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。
転生後の生活は順調そのものだった。
だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。
その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。
これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる