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領主のお仕事

助言者 - ビル視点 -

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    「……はぁ。それで奴隷を犠牲に逃げ帰って来た訳ですか」
    「うっ、いや女を拐ったまではアンタの言う通りに運んで上手くいってたんだ。なのに何故か突然アイツが……あの男が現れて……全部滅茶苦茶に……」
    「ふむ。あの男は吸血鬼だと聞いています。そう言えば吸血鬼にはパートナーという者が居て、それを守る為の固有スキルを有している、そんな情報がありましたね」
   「そ、そうなのか……?」
   「――知らなかったんですか?    幼い頃から貴方の婚約者の側に居た者の情報を……」
   「きょ、興味がなかったんだ、地位を欲するだけの平民など!」
   「しかし……どうしましょうかね。既に彼女は身二つになってしまった様ですし。新しく策を労するなら……。ああ、貴方はしばらく好きにしていて構いませんよ」
    「あ、ああ……」
    男は何やら一人で紙に何かを書き付け始めた。――こうなるともう何を言ってもうんともすんとも返ってこなくなる。
    黒い髪色があの男の様で気に入らないが、体格は男にしては小さく、ひょろい。そして肌の色は黄色。――勿論真っ黄色ではない。白くもないし、黒くもない。少し黄色味がかった色をしていた。
    書き物をしながら眼鏡の位置を直す手首の細さは、労働を知らない貴族の姫の様。
    ――だがこの男、あのムカつく女と同様に全属性の魔法が使える。……空間魔法も、だ。
    体格差を利用すれば簡単に組伏せられる様に見えてこれがとんでもない。そんな真似をしようとした時点で明日の朝日は拝めなくなる。
    そんな同輩の姿を何度も見てきた。
    だから、この男にだけは文句は言っても決定的に逆らうことだけはしなかった。……文句を言うくらいなら許されていたから、そこは自重なんかしてやらないけど。
    この男は肉体的暴力の才能は可哀想なほどに無い。
    ――が。
    それを補って余りある頭脳と才能を秘めていた。
    優秀な策士であり拷問者でもあった。魔法を使っての拷問。言葉を使って精神的に追い詰める。……そういう類いの仕事は彼の十八番だった。
    今や彼なしに闇ギルドは存続出来ない。それほどまでにギルドは追い込まれていた。
    自分も父親もギルド員として働き、基本は彼の命令で動いている。
    彼が好きにしろ、と言うならしばらく仕事は無いのだ。
    だから、いつもの小遣い稼ぎの任務に戻る。
    ――ただ、それだけの事……。だけど何だか面白くなくて。
   「誰か女でも引っかけてくるか」
   ……奴隷の、魔族か獣人の女だけど。
   「あーあ、たまには人間の女とやりてぇ……」
   愚痴をこぼしながら、街の闇の中へと身を投じた。
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