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領主のお仕事

乱闘騒ぎ

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    ビルの命令一つで、静かだったはずの地下牢は一気に騒がしくなった。
    肉体の大きい獣人を中心にして、一斉にかかってくる。……誰もが嫌々ながら、しかし肉体を支配する術式に従わされて、痛みから逃れるために武器を振るう。
   「チッ、」
    それを分かっているから、レイフレッドは舌打ちをして彼らに当て身を食らわせ動けなくしていくけれど、狭い室内で稼働範囲が酷く狭く、当て身を食らわすまでに幾度か武器が肌を掠めていく。
    私は……手足の自由は取り戻したけれど、魔法はまだ使えない。
    弓矢を放つには部屋が狭すぎる。
    私は、私に向かって来た者達を気絶させるのに精一杯で、レイフレッドの手助けどころではなく。
     狭い室内に、ヒトの呻き声と肉体のぶつかり合う音が響き、だんだんと血の臭いが濃くなっていく。
    そして、ようやく静けさが戻った頃にはもう――
   「……逃げられた、クソッ!」
    ビルの姿は既に無く。
     とにかく外へ出てここがどこか確かめなければ、と上の階へと登り玄関を開けて外へ出れば……。
    「ここは……」
    そこは、見覚えの無い場所だった。
    ごく小さな砦。
    だけど周囲の景色に見覚えがない。
    ここは何処だ?
     乱闘騒ぎの間に夜が明けかけ、東の空が薄明かるくなり始めていた草原。
     人の姿はない。
    「あの男……いったい何処へ……?」
     隠れる場所など無いのに。あんな体で長く走れるわけもなし、本当に何処へ行ったのか。
   「……とにかく、あの奴隷の人達を何とかしないと」
   「レイ、でもその前に……」
    武器で切り刻まれた衣服が赤く染まっていた。
    「有難うございます」
    「ううん、私こそ……。助けに来てくれてありがとう」
    私はレイフレッドに血を飲ませてから、地下の人達を拘束した。
    ……どうも室内にいると魔法の使用が阻害され、地下牢では全く使えなくなるらしい。
    「空間伝いに帰るにしても、一度外まで彼らを運ばないと……」
    「なら、俺が運んでおきます。アンリは先に城へ戻って人手を連れてきていただけませんか?」
    「……そうね、これだけ居るんだし」
     なんて、呑気なことを喋っていたところ……
     またしても突如上が騒がしくなり始めた。
     先程見た時は誰も居なかったはずなのに……?
     何だ何だと出てみれば、ウチの兵ではない騎士達に槍の穂先を幾つも向けられた。
    「いたぞ、盗賊だ!」
    「殺せ!」
    ……あの男の仕業なんだろうか。
    私達は彼らに盗賊として討伐されようとしているらしい。
    「話を聞いて貰える状態じゃなさそうだね?」
    「――ええ、やむを得ません。少々大人しくなっていただきましょう」
    私達の乱闘、第二ラウンドが開始されたのだった。
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