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領主のお仕事

その頃城では……

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    「……どう言う事だ」
   その日、城でレイフレッドを迎えた臣下達は揃って蒼白な顔色で頭を下げられるだけ下げていた。
    外交から帰ったレイフレッドが見たものは、空っぽの執務室。
    食堂にも寝室にも彼女の姿は無かった。
    ――ランチを食べたまでは城のメイドが見ていた。
    その後、少々休むと言って――その後、彼女を見た者が居ない。
   「彼女が黙って居なくなるはずがない。勿論、誘拐されようとすれば魔法なりで抵抗するはずだ」
    なのに誰も気付かなかった……?
    「昼食を作った者と運んだ者、彼女の皿に触れた者を至急調べろ」
    レイフレッドはすぐさま指示を飛ばした。
    「念のため城と城下に兵を放て。不審な人物が居れば職質をかけろ。あくまで紳士的にご協力いただけ」
   「門の通過記録を調べろ。不審な記録があれば全て追って確認しろ」
    そして、全ての指示を終えて。
   「……じゃあ、行って来る」
    それは、アンリもすっかり忘れていた、吸血鬼の能力の一つ。パートナーを守る為のスキルを、レイフレッドは発動させた。
    ――これを使ったのは過去に一度だけ。
    まだ、契約も交わしていない頃に、ビルに放られたお嬢様を助けるために使って……力を使いすぎて彼女を体調不良にしてしまう量の吸血をしてしまった黒歴史の一つでもあって。
   だけど今はもう契約も交わして、力の使い方も覚えて大人になった。
   だからもう、黒歴史は繰り返さない。
   「さぁ、アンリを拐った馬鹿は何処のどいつなのか……。覚悟してくださいね?」
    その相手がまさか当時と同一人物とは思わず使い。
    するりと影から飛び出した。
   「お、お前は……っ、どうしてここに……!」
    背にアンリを庇い、目の前の醜い豚を蹴り飛ばす。
   「レイ……!」
    彼女の手枷足枷に気付いたレイフレッドはすぐさまそれを外しにかかった。
    単純な力業での解除を想定しない作りの枷は、吸血鬼の力を以てすれば難なく破壊出来た。
    枷の痕が少しばかり赤くなっているけれど、特に怪我もなく無事だった。
    ……あともう少しで無事じゃなくなる所だったけど。
   「お、お前……レイフレッド!」
   「――もしかしなくてもこれ、ビルですか?」
   「ええ、そうよ。私の元婚約者様だったビルに間違いないわ」
    「へぇ、それはそれは……」
    良いことを聞いたとばかりに目を輝かせ、拳の骨を鳴らすレイフレッド。
    「ひ、ひぃぃぃぃ!」
    腰を抜かして後ずさる、顔を青ざめさせたビル。
    「くそっ、お前たちっ来い!」
    大声で叫ぶと、階段の向こうからどやどやと大勢の気配が雪崩れ込んできた。
    妖精、獣人……。それは恐らく奴隷として買われた者達だ。そして、少なくとも今主の権限を持っているのは――ビル。
    「そいつらを殺せ!」
    彼らの主は声の限りに命じた。
    奴隷達が武器を構え――一斉に私達に向かって来た。
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