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領主のお仕事
対策同盟
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その一報を聞いたとき、アンリはすとんと足腰から力が抜けて立てなくなるという現象を初体験した。
――正直二度と味わいたくはない。
けれど、もしもこちらにレイフレッドが居て、あちらに居なかったら……? どうなっていたかはまぁ想像に難くなく。
危うく大事な臣下や民、そして子供達に危害が及ぶところだった。
「この画策もアンタの策略かい?」
厳しい声音でシリカが王太子に――半分は血の繋がった兄に詰問した。
しかし、くつくつと笑いを噛み殺すばかりで答えやしない。
「……私や領地の方はこの男ではなく元子爵の依頼によるものかもしれません。――最も本当に〝襲撃したい〟と思っているのは闇ギルドそのもので、でも、依頼無しには動けないから彼らを利用してるんじゃないかと」
アンリの考えを聞いていた皇帝が視線を向けた。
そう言えばお前達、会談前にも闇ギルドを気にしていたな?
「はい。ここに来る前にマルクニア、ヒューリアと回ってきましたが、そのどちらも闇ギルドに関係ありそうな貴族に絡まれましたから」
……先に調べさせていた報告も、襲撃の件と合わせて聞かされた。その結果は。
「直接の証拠はありませんが、闇ギルドと関係していたのはほぼ間違いないかと」
「成る程、それはあからさまに怪しいな」
これまで王太子の企みについては徹底的に問い詰めるつもりでいたものの、闇ギルドについてはあまり真剣でない様子だった皇帝が興味を示した。
なので、シレイドでの襲撃を皮切りに始まった一連の事件を彼の耳に入れてみた。
「ああ、確かにそれなら絶対にレイフレッドは領地を空けられまい。――それを空けさせてしまった。その原因が闇ギルドの関係者、か。それは怪しいよなぁ。下手をすれば私が画策したようにも見えてしまうじゃないか!」
と、彼は大袈裟に嘆いて見せた。
「闇ギルド、これまでは必要悪とあえて見逃してきたが、これはちとやりすぎだ。――たまには灸を据えてやるのも良いかもしれんの」
ニヤリと悪魔らしい笑みを浮かべる。
「私の意向を各皇帝にも通達しようぞ」
それは、闇ギルドをこの大陸から一掃する勢いの企画になりうる勢力の立ち上げに他ならない。……これは乗り遅れる訳にはいかない。
「私も是非参加したく存じます」
「だろうな?」
……そして、恐らくは利用されただけの哀れな王太子は、と言うと。
「お前は私を害すつもりは無かったと言うが、実際巻き込まれ、アンリが適切に対応せねば死んでいた可能性とてあった。……到底無罪では済まされんが、お前はおそらく闇ギルドに利用されただけであろう。故に、そなたのみの処罰で済まそうと思う」
「あ、有難うございます……!」
ドルトムント王が皇帝に感謝の言葉を述べる。
「だが、その者は近日中に処刑せよ。これは決定である。覆る事はありえんと心得よ」
「はっ……!」
こうして、ドルトムントは王太子を失う事となったのである。
――正直二度と味わいたくはない。
けれど、もしもこちらにレイフレッドが居て、あちらに居なかったら……? どうなっていたかはまぁ想像に難くなく。
危うく大事な臣下や民、そして子供達に危害が及ぶところだった。
「この画策もアンタの策略かい?」
厳しい声音でシリカが王太子に――半分は血の繋がった兄に詰問した。
しかし、くつくつと笑いを噛み殺すばかりで答えやしない。
「……私や領地の方はこの男ではなく元子爵の依頼によるものかもしれません。――最も本当に〝襲撃したい〟と思っているのは闇ギルドそのもので、でも、依頼無しには動けないから彼らを利用してるんじゃないかと」
アンリの考えを聞いていた皇帝が視線を向けた。
そう言えばお前達、会談前にも闇ギルドを気にしていたな?
「はい。ここに来る前にマルクニア、ヒューリアと回ってきましたが、そのどちらも闇ギルドに関係ありそうな貴族に絡まれましたから」
……先に調べさせていた報告も、襲撃の件と合わせて聞かされた。その結果は。
「直接の証拠はありませんが、闇ギルドと関係していたのはほぼ間違いないかと」
「成る程、それはあからさまに怪しいな」
これまで王太子の企みについては徹底的に問い詰めるつもりでいたものの、闇ギルドについてはあまり真剣でない様子だった皇帝が興味を示した。
なので、シレイドでの襲撃を皮切りに始まった一連の事件を彼の耳に入れてみた。
「ああ、確かにそれなら絶対にレイフレッドは領地を空けられまい。――それを空けさせてしまった。その原因が闇ギルドの関係者、か。それは怪しいよなぁ。下手をすれば私が画策したようにも見えてしまうじゃないか!」
と、彼は大袈裟に嘆いて見せた。
「闇ギルド、これまでは必要悪とあえて見逃してきたが、これはちとやりすぎだ。――たまには灸を据えてやるのも良いかもしれんの」
ニヤリと悪魔らしい笑みを浮かべる。
「私の意向を各皇帝にも通達しようぞ」
それは、闇ギルドをこの大陸から一掃する勢いの企画になりうる勢力の立ち上げに他ならない。……これは乗り遅れる訳にはいかない。
「私も是非参加したく存じます」
「だろうな?」
……そして、恐らくは利用されただけの哀れな王太子は、と言うと。
「お前は私を害すつもりは無かったと言うが、実際巻き込まれ、アンリが適切に対応せねば死んでいた可能性とてあった。……到底無罪では済まされんが、お前はおそらく闇ギルドに利用されただけであろう。故に、そなたのみの処罰で済まそうと思う」
「あ、有難うございます……!」
ドルトムント王が皇帝に感謝の言葉を述べる。
「だが、その者は近日中に処刑せよ。これは決定である。覆る事はありえんと心得よ」
「はっ……!」
こうして、ドルトムントは王太子を失う事となったのである。
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