上 下
267 / 370
領主のお仕事

対策同盟

しおりを挟む
    その一報を聞いたとき、アンリはすとんと足腰から力が抜けて立てなくなるという現象を初体験した。
    ――正直二度と味わいたくはない。
   けれど、もしもこちらにレイフレッドが居て、あちらに居なかったら……?    どうなっていたかはまぁ想像に難くなく。
    危うく大事な臣下や民、そして子供達に危害が及ぶところだった。
    「この画策もアンタの策略かい?」
    厳しい声音でシリカが王太子に――半分は血の繋がった兄に詰問した。
    しかし、くつくつと笑いを噛み殺すばかりで答えやしない。
    「……私や領地の方はこの男ではなく元子爵の依頼によるものかもしれません。――最も本当に〝襲撃したい〟と思っているのは闇ギルドそのもので、でも、依頼無しには動けないから彼らを利用してるんじゃないかと」 
    アンリの考えを聞いていた皇帝が視線を向けた。
   そう言えばお前達、会談前にも闇ギルドを気にしていたな?
    「はい。ここに来る前にマルクニア、ヒューリアと回ってきましたが、そのどちらも闇ギルドに関係ありそうな貴族に絡まれましたから」
    ……先に調べさせていた報告も、襲撃の件と合わせて聞かされた。その結果は。
    「直接の証拠はありませんが、闇ギルドと関係していたのはほぼ間違いないかと」
    「成る程、それはあからさまに怪しいな」
    これまで王太子の企みについては徹底的に問い詰めるつもりでいたものの、闇ギルドについてはあまり真剣でない様子だった皇帝が興味を示した。
    なので、シレイドでの襲撃を皮切りに始まった一連の事件を彼の耳に入れてみた。
   「ああ、確かにそれなら絶対にレイフレッドは領地を空けられまい。――それを空けさせてしまった。その原因が闇ギルドの関係者、か。それは怪しいよなぁ。下手をすれば私が画策したようにも見えてしまうじゃないか!」
    と、彼は大袈裟に嘆いて見せた。
   「闇ギルド、これまでは必要悪とあえて見逃してきたが、これはちとやりすぎだ。――たまには灸を据えてやるのも良いかもしれんの」
    ニヤリと悪魔らしい笑みを浮かべる。
    「私の意向を各皇帝にも通達しようぞ」
    それは、闇ギルドをこの大陸から一掃する勢いの企画になりうる勢力の立ち上げに他ならない。……これは乗り遅れる訳にはいかない。
    「私も是非参加したく存じます」
    「だろうな?」
     ……そして、恐らくは利用されただけの哀れな王太子は、と言うと。
    「お前は私を害すつもりは無かったと言うが、実際巻き込まれ、アンリが適切に対応せねば死んでいた可能性とてあった。……到底無罪では済まされんが、お前はおそらく闇ギルドに利用されただけであろう。故に、そなたのみの処罰で済まそうと思う」
   「あ、有難うございます……!」
    ドルトムント王が皇帝に感謝の言葉を述べる。
   「だが、その者は近日中に処刑せよ。これは決定である。覆る事はありえんと心得よ」
   「はっ……!」
    こうして、ドルトムントは王太子を失う事となったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...