唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜

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目指せ勝ち組!~君と歩む花道~

研修 ~見張り当番~

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    リン、と鈴の音が聞こえる。……どうやらもう時間らしい。
    私はもそもそと寝袋から這い出て思いっきり伸びをする。――辺りは真っ暗。
    前世ではそこそこの都会に住んでいたから、真夜中でも街灯の光が窓から入り込み、闇に目が慣れさえすれば、夜中にトイレに起きた時等に困るなんて事もまず無かった。
    けど、ここは街灯どころか月明かりや星の輝きすら半分くらいは木々の葉に遮られて目減りするため、部屋の中はかなり暗い。
    「お嬢様、お早うございます」
    ……まだ夜中だけど、一緒に当番する予定のレイフレッドがそっと近づいてくるのが、気配で分かる。
    彼は吸血鬼だ。人間よりも暗闇を得意とする種族だけあって、危なげも迷いもなく私の元へ辿り着く。
    「手拭いを絞って来ました。これで顔を拭いてください」
    ……うん。相変わらず出来た従者だ。
    少なくとも現時点では彼はお貴族様で、私は平民なんだけど。
    あー、でも冷たい濡れタオルが気持ちいい。特に寝ぼけ眼をスッキリさせるのにとても良い仕事をしてくれる。
    「さあ、参りましょう」
     レイフレッドが手を差し出してくれるから、彼について外へ出る。
     部屋の中よりは若干明るい夏の夜は、程よく涼しくて気持ちいい。
    「……交代の時間です。お疲れさまでした、ごゆっくりお休み下さい」
    前の当番に声をかけ申し送りを済ませてから、彼らが居たたき火の前の席を譲り受ける。
    少し先には別の班のたき火もぽつぽつと、暗闇の中で赤くパチパチ弾ける炎がよく見える。
    空を見上げれば、やっぱり外周は木々に覆われてしまっているけれど、広場のスペースだけ拓けた夜空には無数の星が散りばめられていて。……月は既に山の向こうに沈みかけているから、もう少ししたらもっと綺麗に見えるはず。
    ……レイフレッドとは常に一緒にいて、冒険中だってそれは変わらなくて。だけど大概の場合で私の空間の屋敷を使って夜明かししてたから、そう言えばこういうシチュエーションはかなり珍しく、実際には久々だったと思い出す。
    「ほら、お嬢様」
    毛布をマントのように羽織ったレイフレッドが両手を広げて待っている。
    ……つまり、彼の隣の席とかじゃなくあそこに座れと?
    はぁ。まあ血を吸うのに周りの目もあるし……。そう自分に言い聞かせながら、私は羞恥を堪えて、彼に抱き包まれる様にして座る。
    案の定、体育座りした彼の両足の間に私の体はきっちり嵌め込まれ、両腕でしっかり抱き込まれたその体勢は、毛布でばっちり隠蔽される。
    あ、毛布って言っても冬に使うようなもふもふ厚いやつじゃなくて、厚手のタオルケットみたいなのだけど。
    ……暑くはないけど、この体勢にうっかり安心を覚える私はもうかなり末期だと思う。てか、この体勢で手首噛むのは不自然極まりない。つーかこれ、首筋一択だよね。狙ってやったな?    ……まーいいけどさ。
    さっさと観念して上の方のボタンを一つ二つ外して襟元を開いて首筋を晒す。
    「一日くらいなら我慢できるとは言いましたけど……。やっぱりダメですね。機会があればやはり欲しくなってしまいます」
    「――それだけの理由ではないけれど、それでも私があなたのパートナーになったのはその為だもの。今更でしょ?」
    「あはは、それはそうなんですけどね。――今日一日……いえ、実を言えばこの研修の間中、お嬢様の噂をする男共にイラついてたもので。……お嬢様は私のものだと牙が疼きまして」
    だから、今日は手加減出来ませんよ?
    そう耳元で囁いたレイフレッドはそのまま牙を突き立てた。
    瞬間、無いはずの痛みの代わりに強烈な快楽が私を襲う。周囲の事なんか気にしていられない程の甘く熱い疼き。
    体から力が抜け、彼の胸板に身体を預けてその衝動に必死に抗う。
    だってここは屋外、それも山の中な上に今は学校の研修中なんだから、と。
    ああ。やっぱり早く婚約破棄を成し遂げて、彼と居ても誰にも咎められない立場を手に入れたい……。
    そんな事をぼんやり思っていた私も、吸血に夢中なレイフレッドも気付けなかった。
    こちらに向けられた、不自然な視線の気配に。
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