196 / 370
目指せ勝ち組!~君と歩む花道~
研修 ~見張り当番~
しおりを挟む
リン、と鈴の音が聞こえる。……どうやらもう時間らしい。
私はもそもそと寝袋から這い出て思いっきり伸びをする。――辺りは真っ暗。
前世ではそこそこの都会に住んでいたから、真夜中でも街灯の光が窓から入り込み、闇に目が慣れさえすれば、夜中にトイレに起きた時等に困るなんて事もまず無かった。
けど、ここは街灯どころか月明かりや星の輝きすら半分くらいは木々の葉に遮られて目減りするため、部屋の中はかなり暗い。
「お嬢様、お早うございます」
……まだ夜中だけど、一緒に当番する予定のレイフレッドがそっと近づいてくるのが、気配で分かる。
彼は吸血鬼だ。人間よりも暗闇を得意とする種族だけあって、危なげも迷いもなく私の元へ辿り着く。
「手拭いを絞って来ました。これで顔を拭いてください」
……うん。相変わらず出来た従者だ。
少なくとも現時点では彼はお貴族様で、私は平民なんだけど。
あー、でも冷たい濡れタオルが気持ちいい。特に寝ぼけ眼をスッキリさせるのにとても良い仕事をしてくれる。
「さあ、参りましょう」
レイフレッドが手を差し出してくれるから、彼について外へ出る。
部屋の中よりは若干明るい夏の夜は、程よく涼しくて気持ちいい。
「……交代の時間です。お疲れさまでした、ごゆっくりお休み下さい」
前の当番に声をかけ申し送りを済ませてから、彼らが居たたき火の前の席を譲り受ける。
少し先には別の班のたき火もぽつぽつと、暗闇の中で赤くパチパチ弾ける炎がよく見える。
空を見上げれば、やっぱり外周は木々に覆われてしまっているけれど、広場のスペースだけ拓けた夜空には無数の星が散りばめられていて。……月は既に山の向こうに沈みかけているから、もう少ししたらもっと綺麗に見えるはず。
……レイフレッドとは常に一緒にいて、冒険中だってそれは変わらなくて。だけど大概の場合で私の空間の屋敷を使って夜明かししてたから、そう言えばこういうシチュエーションはかなり珍しく、実際には久々だったと思い出す。
「ほら、お嬢様」
毛布をマントのように羽織ったレイフレッドが両手を広げて待っている。
……つまり、彼の隣の席とかじゃなくあそこに座れと?
はぁ。まあ血を吸うのに周りの目もあるし……。そう自分に言い聞かせながら、私は羞恥を堪えて、彼に抱き包まれる様にして座る。
案の定、体育座りした彼の両足の間に私の体はきっちり嵌め込まれ、両腕でしっかり抱き込まれたその体勢は、毛布でばっちり隠蔽される。
あ、毛布って言っても冬に使うようなもふもふ厚いやつじゃなくて、厚手のタオルケットみたいなのだけど。
……暑くはないけど、この体勢にうっかり安心を覚える私はもうかなり末期だと思う。てか、この体勢で手首噛むのは不自然極まりない。つーかこれ、首筋一択だよね。狙ってやったな? ……まーいいけどさ。
さっさと観念して上の方のボタンを一つ二つ外して襟元を開いて首筋を晒す。
「一日くらいなら我慢できるとは言いましたけど……。やっぱりダメですね。機会があればやはり欲しくなってしまいます」
「――それだけの理由ではないけれど、それでも私があなたのパートナーになったのはその為だもの。今更でしょ?」
「あはは、それはそうなんですけどね。――今日一日……いえ、実を言えばこの研修の間中、お嬢様の噂をする男共にイラついてたもので。……お嬢様は私のものだと牙が疼きまして」
だから、今日は手加減出来ませんよ?
そう耳元で囁いたレイフレッドはそのまま牙を突き立てた。
瞬間、無いはずの痛みの代わりに強烈な快楽が私を襲う。周囲の事なんか気にしていられない程の甘く熱い疼き。
体から力が抜け、彼の胸板に身体を預けてその衝動に必死に抗う。
だってここは屋外、それも山の中な上に今は学校の研修中なんだから、と。
ああ。やっぱり早く婚約破棄を成し遂げて、彼と居ても誰にも咎められない立場を手に入れたい……。
そんな事をぼんやり思っていた私も、吸血に夢中なレイフレッドも気付けなかった。
こちらに向けられた、不自然な視線の気配に。
私はもそもそと寝袋から這い出て思いっきり伸びをする。――辺りは真っ暗。
前世ではそこそこの都会に住んでいたから、真夜中でも街灯の光が窓から入り込み、闇に目が慣れさえすれば、夜中にトイレに起きた時等に困るなんて事もまず無かった。
けど、ここは街灯どころか月明かりや星の輝きすら半分くらいは木々の葉に遮られて目減りするため、部屋の中はかなり暗い。
「お嬢様、お早うございます」
……まだ夜中だけど、一緒に当番する予定のレイフレッドがそっと近づいてくるのが、気配で分かる。
彼は吸血鬼だ。人間よりも暗闇を得意とする種族だけあって、危なげも迷いもなく私の元へ辿り着く。
「手拭いを絞って来ました。これで顔を拭いてください」
……うん。相変わらず出来た従者だ。
少なくとも現時点では彼はお貴族様で、私は平民なんだけど。
あー、でも冷たい濡れタオルが気持ちいい。特に寝ぼけ眼をスッキリさせるのにとても良い仕事をしてくれる。
「さあ、参りましょう」
レイフレッドが手を差し出してくれるから、彼について外へ出る。
部屋の中よりは若干明るい夏の夜は、程よく涼しくて気持ちいい。
「……交代の時間です。お疲れさまでした、ごゆっくりお休み下さい」
前の当番に声をかけ申し送りを済ませてから、彼らが居たたき火の前の席を譲り受ける。
少し先には別の班のたき火もぽつぽつと、暗闇の中で赤くパチパチ弾ける炎がよく見える。
空を見上げれば、やっぱり外周は木々に覆われてしまっているけれど、広場のスペースだけ拓けた夜空には無数の星が散りばめられていて。……月は既に山の向こうに沈みかけているから、もう少ししたらもっと綺麗に見えるはず。
……レイフレッドとは常に一緒にいて、冒険中だってそれは変わらなくて。だけど大概の場合で私の空間の屋敷を使って夜明かししてたから、そう言えばこういうシチュエーションはかなり珍しく、実際には久々だったと思い出す。
「ほら、お嬢様」
毛布をマントのように羽織ったレイフレッドが両手を広げて待っている。
……つまり、彼の隣の席とかじゃなくあそこに座れと?
はぁ。まあ血を吸うのに周りの目もあるし……。そう自分に言い聞かせながら、私は羞恥を堪えて、彼に抱き包まれる様にして座る。
案の定、体育座りした彼の両足の間に私の体はきっちり嵌め込まれ、両腕でしっかり抱き込まれたその体勢は、毛布でばっちり隠蔽される。
あ、毛布って言っても冬に使うようなもふもふ厚いやつじゃなくて、厚手のタオルケットみたいなのだけど。
……暑くはないけど、この体勢にうっかり安心を覚える私はもうかなり末期だと思う。てか、この体勢で手首噛むのは不自然極まりない。つーかこれ、首筋一択だよね。狙ってやったな? ……まーいいけどさ。
さっさと観念して上の方のボタンを一つ二つ外して襟元を開いて首筋を晒す。
「一日くらいなら我慢できるとは言いましたけど……。やっぱりダメですね。機会があればやはり欲しくなってしまいます」
「――それだけの理由ではないけれど、それでも私があなたのパートナーになったのはその為だもの。今更でしょ?」
「あはは、それはそうなんですけどね。――今日一日……いえ、実を言えばこの研修の間中、お嬢様の噂をする男共にイラついてたもので。……お嬢様は私のものだと牙が疼きまして」
だから、今日は手加減出来ませんよ?
そう耳元で囁いたレイフレッドはそのまま牙を突き立てた。
瞬間、無いはずの痛みの代わりに強烈な快楽が私を襲う。周囲の事なんか気にしていられない程の甘く熱い疼き。
体から力が抜け、彼の胸板に身体を預けてその衝動に必死に抗う。
だってここは屋外、それも山の中な上に今は学校の研修中なんだから、と。
ああ。やっぱり早く婚約破棄を成し遂げて、彼と居ても誰にも咎められない立場を手に入れたい……。
そんな事をぼんやり思っていた私も、吸血に夢中なレイフレッドも気付けなかった。
こちらに向けられた、不自然な視線の気配に。
0
お気に入りに追加
1,087
あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。


転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる
盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる