161 / 370
目指せ勝ち組!~君と歩む花道~
領地経営研究部
しおりを挟む
私がそれを提出したのは。
現時点では私には全く以て不要であると思われる技能を磨くための部である。
だから。
私の入部届けを見た部長――上級学校領主候補生コース三年、ブラウン・フォン・スミス先輩が私を不愉快そうに睨み付けて来るのは……まあ当然だろう。
そのクラブの部室のプレートに記された名は――「領地経営研究部」。
文字通り領地経営について研究する部なので、この部に所属しているのは大半が後継ぎの長男。たまに下克上を狙う次男以下の男子も居る。そして極々希に、城で役職に付く、或いはその予定の男性との婚約が決まり、将来は家令と共に家と領地を守る必要のあるご令嬢が所属する場合もあるらしいけど、しつこいようだけど私の今の身分は平民の商家の娘。
この部は決してお遊びの部ではなく、かなり真剣に活動している部なのだから、平民の小娘が何の用だと言わんばかりの表情も無理はない。
だけど、私には間違いなくこの部で得られる知識と経験が必要なのだ。
しかも攻略候補で領主になるのはビル――私の婚約者だけなのだが、彼がゲーム通りに動くなら、女の子と触れ合う機会の多い楽奏部あたりを選ぶはず。
ちなみに楽奏部というのは吹奏楽の進化系みたいな部で、金管楽器や木管楽器だけの吹奏楽ばかりでなく、バイオリン等のオーケストラ楽器も含めた演奏技術を高めつつ、観賞も楽しめる部だ。
貴族は大抵教養として何かしら楽器演奏は学ばされてるからね。奴でも最低限の演奏はできるのだろう。……いや、少なくともゲームの中のビルは確かにその演奏で女の子を喜ばせていたから――出来ると、信じたい。
そしてこの部は上級学校と共同で運営されている。
だから――
「済みません、私の入部届けも受け取って下さいませんか?」
レイフレッドと同じ部で活動出来る。
「部長、私は確かに今現在は平民であり商家の娘でございます。……しかし、婚約者が貴族でありその家のご長男となれば、無知は恥となります。……どうか私にも学ぶ機会をいただけないでしょうか」
丁寧に、カーテシーをしてみせながら懇願する。
「……今月中は仮入部扱いとなる。その間、貴重な機会を不意にするような不真面目な活動をしたなら即座にこの届けは破り捨てるぞ」
「はい」
「――いいだろう。……アッシュ」
部長が中へ呼び掛ける。
「彼はアッシュ・フォン・シレーネ。初等部三年Sクラス、我が部の副部長だ」
「……よろしく」
部長と副部長が私達の入部届けにそれぞれサインを済ませると、どこからか分厚い冊子を持ってきた。
「これを。まずは明日までに読み込み、明日の放課後にまた来てくれ。他の部員への紹介はその時にする」
授業で使うどの教科書より分厚く重たい本。
「これは……今夜は徹夜になりそうですね」
「そうね。でも適当にして行って明日いきなり退部宣告受けるなんて嫌だもの。頑張りましょう」
現時点では私には全く以て不要であると思われる技能を磨くための部である。
だから。
私の入部届けを見た部長――上級学校領主候補生コース三年、ブラウン・フォン・スミス先輩が私を不愉快そうに睨み付けて来るのは……まあ当然だろう。
そのクラブの部室のプレートに記された名は――「領地経営研究部」。
文字通り領地経営について研究する部なので、この部に所属しているのは大半が後継ぎの長男。たまに下克上を狙う次男以下の男子も居る。そして極々希に、城で役職に付く、或いはその予定の男性との婚約が決まり、将来は家令と共に家と領地を守る必要のあるご令嬢が所属する場合もあるらしいけど、しつこいようだけど私の今の身分は平民の商家の娘。
この部は決してお遊びの部ではなく、かなり真剣に活動している部なのだから、平民の小娘が何の用だと言わんばかりの表情も無理はない。
だけど、私には間違いなくこの部で得られる知識と経験が必要なのだ。
しかも攻略候補で領主になるのはビル――私の婚約者だけなのだが、彼がゲーム通りに動くなら、女の子と触れ合う機会の多い楽奏部あたりを選ぶはず。
ちなみに楽奏部というのは吹奏楽の進化系みたいな部で、金管楽器や木管楽器だけの吹奏楽ばかりでなく、バイオリン等のオーケストラ楽器も含めた演奏技術を高めつつ、観賞も楽しめる部だ。
貴族は大抵教養として何かしら楽器演奏は学ばされてるからね。奴でも最低限の演奏はできるのだろう。……いや、少なくともゲームの中のビルは確かにその演奏で女の子を喜ばせていたから――出来ると、信じたい。
そしてこの部は上級学校と共同で運営されている。
だから――
「済みません、私の入部届けも受け取って下さいませんか?」
レイフレッドと同じ部で活動出来る。
「部長、私は確かに今現在は平民であり商家の娘でございます。……しかし、婚約者が貴族でありその家のご長男となれば、無知は恥となります。……どうか私にも学ぶ機会をいただけないでしょうか」
丁寧に、カーテシーをしてみせながら懇願する。
「……今月中は仮入部扱いとなる。その間、貴重な機会を不意にするような不真面目な活動をしたなら即座にこの届けは破り捨てるぞ」
「はい」
「――いいだろう。……アッシュ」
部長が中へ呼び掛ける。
「彼はアッシュ・フォン・シレーネ。初等部三年Sクラス、我が部の副部長だ」
「……よろしく」
部長と副部長が私達の入部届けにそれぞれサインを済ませると、どこからか分厚い冊子を持ってきた。
「これを。まずは明日までに読み込み、明日の放課後にまた来てくれ。他の部員への紹介はその時にする」
授業で使うどの教科書より分厚く重たい本。
「これは……今夜は徹夜になりそうですね」
「そうね。でも適当にして行って明日いきなり退部宣告受けるなんて嫌だもの。頑張りましょう」
0
お気に入りに追加
1,081
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
転生したらチートでした
ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!
戦犯勇者の弟妹~追放された弟妹の方が才能あるけど、人類がいらないなら魔王軍がもらいます~
アニッキーブラッザー
ファンタジー
「お前たちの兄の所為で魔王軍に負けた」、「償え」、「王国の恥さらしは追放だ」。人類と魔王軍の争い続く戦乱の世で、人類の希望といわれた勇者の一人が戦死し、人類の連合軍は多大な被害を受けた。勇者の弟である『エルセ』は故郷の民やそれまで共に過ごしてきた友たちから激しい罵詈雑言を浴びせられ、妹と共に故郷を追放された。
財を失い、身寄りもなく、野垂れ死ぬかと思った自分たちを保護したのは、兄の仇である魔王軍の将だった。
「貴様等の兄は強く勇敢な素晴らしき武人であった。貴様らの兄と戦えたことを吾輩は誇りに思う。生きたくば、吾輩たちと共に来い」
そして、人類は知らなかった。偉大な兄にばかり注目が集まっていたが、エルセと妹は、兄以上の才能と力を秘めた天賦の超人であることを。本来であれば、亡き兄以上の人類の希望となるはずの者たちを自分たちの手で追放したどころか、敵にしてしまったことを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる