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乙女ゲームの舞台で

ショッピング

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    「手芸屋さん、ですか……?」
    商会の長になって忙しくて、元の露店で売っていた様な商品の大半の製作はアイデアと見本品以外は人に任せる様にしていたから。
    こんな風に個人的にこういう店に来たのはいつぶりだったっけ?
    「これから学校に行くのに必要な物を揃えるのに、既製品を買うのも良いけれど、アンリなら自分で作った方が良い物が用意出来そうでしょ?」
    お母様が笑う。
    学用鞄なんかは学校指定の物を買う必要があるけど、ちょっとした小物とか下宿で必要になるアレコレとか……まあスキルを駆使すればまたレイフレッドか呆れるような物を作ってしまうから加減は気を付けないといけないけど。それだってその辺の市販品よりは良い物を作る自信は当然ある。
    そうだな。これから行くのはお貴族様のお嬢様お坊っちゃんの通う学校だ。
    お約束みたいなテンプレ展開があるかもしれない事を考えたら、オーダーメイドの制服にもちょっと対策を施しておくのが良いかもしれないし、他の持ち物も然り。
    「そうですね、ありがとうございますお母様」
     糸や布は勿論ボタンは数千種類、ファスナーなどの小物も種類の揃った店内は見ているだけで楽しい。
    うん。最近は食べ物や魔道具にばかりかまけてたど、やっぱりこういうの良いなぁ。
    山と買い込んで店を出た頃にはルカがぐったりしていたけど、お母様はまだまだ元気一杯だった。
    「さぁ、次に行くわよ!」  
     次は何と宝石店。
    「えっ、お母様……。流石に宝石なんて……」
    「何を言っているの、貴女が行くのは貴族のお嬢様が居る学校なの。アクセサリーの一つや二つ……どころか宝石箱一杯に持っている子達の中に、宝石の一つも持たせずに娘を送り出せますか!」
    あー、そうか。そうだよね。そこは前世の記憶でも庶民でしかなかった私じゃ……大金持ちになった今でもこんな子供の内から……とつい思ってしまったよ。
    あんまり派手なの付けてても目を付けられそうだしな……。
    「お母様、ここのお店はオーダーメイドも出来るそうです。良い魔石を持っているので、ワンセット注文しても良いですか?」
    魔石を御守りまどうぐに加工したものなら、後々自分の装備に使おうと常にストックしてある。
    幾つかこっそりバックの中から――と見せかけ空間から取り出し店員に見せる。
    「何と!     こんな上等の石を預けていただけるとは……ウチの職人も腕が鳴ることでしょう!」
    と、物凄い興奮された。
    「……そんなに凄い物なんですか?」
     アクセサリーに興味なんかあるはずもない五歳の男の子ルカは、しかしその店員の興奮具合に魔石に興味を示した。
    「それは勿論!    例えばこの小さな石、これは走竜の物です。亜竜の中ではランクは低くとも竜は竜、それも退治が面倒で高値が付きやすい石が、こんなに状態の良いままこんなに沢山あるだなんて!   この石一つで我が店の商品なら十は確実に買えるでしょうに」
    そう、それはいつかの掃討戦で大半売ったけど、アイテムボックスにはまだ×85もある石だ。
    「それにこれはクラーケンの魔石!    海でであったら死を覚悟しろとまで言われる魔物の魔石をこうして目に出来るなど……!」
    「……お姉、様はその様な魔石をどうやって手に入れたのですか?」
    「どうやって……って、そりゃ魔物と戦って、よ。私は冒険者でもあるんだもの」
   「お姉様が、冒険者……?」
   「ええ、そうよ。ほら」
     ステータスノートを見せる。
   「なっ……!    で、伝説の黄金級の冒険者様でしたか……!    し、失礼致しました、今すぐ支店長を呼んで参ります、おい誰か、この方をVIPルームへご案内しろ!」
    「あ、あの、お気遣いは結構ですわ。確かに私は高ランク冒険者ですけれど、あまり大袈裟なのは好まないから。それよりデザインについて話を詰めさせて貰っても?」
    「はいっ、勿論でございます!    只今担当の者をお呼び致します」
    ルカはそれを子供らしい大きな目を更にまん丸にしてポカンとそれを眺め。
    「お姉様が、英雄ヒーロー……?」
    ……まさか走竜やクラーケンでここまで大騒ぎになるなんて。――やっぱり自重して正解だった。
    竜を倒したことがある、なんて言ったら……。
    二人は、どんな反応するんだろう?
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