上 下
128 / 370
独りで立てる様に

カーライル商会

しおりを挟む
    かの日より、カーライル商会では度々幹部会議が召集される様になった。
    ……無理もない。
    シレイドでも有数の商家、カーライル。その業績を遥かに上回る実績すうじを見せつけられたのだ。それも、まだ未成年の少女に。
    商会の会頭であり、その少女の実の父親でもあるユーリ・カーライルは渋い顔でその資料にある事実を何とか飲み込もうと苦労していた。
    「何とも、いやはや。誕生日パーティーなどでお見かけし、聡く賢い子とは思っておりましたが……いやはや、口惜しい。貴族に唾を付けられていなければ、女だてらにも素晴らしい次期会頭となられたでしょうに……」
    「これだけの才能なら、我ら人事部はその持ち主が孤児であっても幹部と同等の待遇て迎え入れましたぞ」
    幹部は悔しがりながらも、その手腕を讃えずにはいられなかったらしい。同業だからこそ、その凄さが実感できてしまうから。
   「むしろ既に三国全ての皇帝陛下が動いているなら、シレイドの一子爵家、それもこう言っちゃ何ですがあの程度の家がお嬢様に難癖つけて害を与えれば、むしろ子爵家の方が大変な事になるのでは?」
   「……ならば我ら程度の平民なら言わずもがな、ですか」
    「ええ、お嬢様がご用意なされた交渉点からみても、カーライル商会と敵対するつもりは無いものと思われます。この通り、お嬢様の稼ぎを見せられてしまうと惜しく思えてしまいますが、それを除けばカーライル商会の利益が削られるような案件はありませんし、いくつかの魔道具については冷蔵庫と空調同様量産可能な物の利権を分けていただけるようですし。ここは一つ大人の度量を見せて笑顔で見守りつつ今後も友好的な取引おつきあいを願う方が、見苦しくあれこれ欲張るより得策かと」
    ユーリはかつて魔帝国の皇帝に言われた事を思い出していた。
    「……一人の娘の父親として、あの歳の娘ごに既に他から宛がわれた婿がおるのは複雑な思いもありましょう。しかし、既に弟君を正式に跡取りと発表してしまわれた以上、お嬢様はいつかは嫁がなければなりませぬ」
    そもそも生まれる前から貴族に奪われる運命が決まっていたはずの子。
    その子が持つ富を欲して奪おうとする者と、それを惜しんで囲いこむ者。果たしてどちらがよりあさましいのか。
    「……あの娘が拾った子供が貴族になって、娘はその妻になる、か。自らを救う者を自らの手で救ったのか。……そしてそれを許可したのは私で、あれを見限ろうとしたのも私か」
    既に彼の娘は彼の手を離れ、その庇護を必要としなくなってしまった。
    親としても、会頭としても、彼女にしてやれそうなのは本当にその程度しか無さそうだった。
    「細かい手続きや取り決めは別として、大筋の合意には応じよう」
    ユーリ・カーライルは後日改めて開かれた娘と各ギルマスとの会合でその決定を正式に告げた。
    ――アンリ・カーライルを会頭とする疾風の牙商会が正式に独立を果たしたのはそれから一月後の事だった。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

父は異世界で魔王してます。

ファンタジー
平凡な毎日をおくっているつもりです。ただ、父は異世界に単身赴任中。魔王してます。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...