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独りで立てる様に
カーライル商会
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かの日より、カーライル商会では度々幹部会議が召集される様になった。
……無理もない。
シレイドでも有数の商家、カーライル。その業績を遥かに上回る実績を見せつけられたのだ。それも、まだ未成年の少女に。
商会の会頭であり、その少女の実の父親でもあるユーリ・カーライルは渋い顔でその資料にある事実を何とか飲み込もうと苦労していた。
「何とも、いやはや。誕生日パーティーなどでお見かけし、聡く賢い子とは思っておりましたが……いやはや、口惜しい。貴族に唾を付けられていなければ、女だてらにも素晴らしい次期会頭となられたでしょうに……」
「これだけの才能なら、我ら人事部はその持ち主が孤児であっても幹部と同等の待遇て迎え入れましたぞ」
幹部は悔しがりながらも、その手腕を讃えずにはいられなかったらしい。同業だからこそ、その凄さが実感できてしまうから。
「むしろ既に三国全ての皇帝陛下が動いているなら、シレイドの一子爵家、それもこう言っちゃ何ですがあの程度の家がお嬢様に難癖つけて害を与えれば、むしろ子爵家の方が大変な事になるのでは?」
「……ならば我ら程度の平民なら言わずもがな、ですか」
「ええ、お嬢様がご用意なされた交渉点からみても、カーライル商会と敵対するつもりは無いものと思われます。この通り、お嬢様の稼ぎを見せられてしまうと惜しく思えてしまいますが、それを除けばカーライル商会の利益が削られるような案件はありませんし、いくつかの魔道具については冷蔵庫と空調同様量産可能な物の利権を分けていただけるようですし。ここは一つ大人の度量を見せて笑顔で見守りつつ今後も友好的な取引を願う方が、見苦しくあれこれ欲張るより得策かと」
ユーリはかつて魔帝国の皇帝に言われた事を思い出していた。
「……一人の娘の父親として、あの歳の娘ごに既に他から宛がわれた婿がおるのは複雑な思いもありましょう。しかし、既に弟君を正式に跡取りと発表してしまわれた以上、お嬢様はいつかは嫁がなければなりませぬ」
そもそも生まれる前から貴族に奪われる運命が決まっていたはずの子。
その子が持つ富を欲して奪おうとする者と、それを惜しんで囲いこむ者。果たしてどちらがよりあさましいのか。
「……あの娘が拾った子供が貴族になって、娘はその妻になる、か。自らを救う者を自らの手で救ったのか。……そしてそれを許可したのは私で、あれを見限ろうとしたのも私か」
既に彼の娘は彼の手を離れ、その庇護を必要としなくなってしまった。
親としても、会頭としても、彼女にしてやれそうなのは本当にその程度しか無さそうだった。
「細かい手続きや取り決めは別として、大筋の合意には応じよう」
ユーリ・カーライルは後日改めて開かれた娘と各ギルマスとの会合でその決定を正式に告げた。
――アンリ・カーライルを会頭とする疾風の牙商会が正式に独立を果たしたのはそれから一月後の事だった。
……無理もない。
シレイドでも有数の商家、カーライル。その業績を遥かに上回る実績を見せつけられたのだ。それも、まだ未成年の少女に。
商会の会頭であり、その少女の実の父親でもあるユーリ・カーライルは渋い顔でその資料にある事実を何とか飲み込もうと苦労していた。
「何とも、いやはや。誕生日パーティーなどでお見かけし、聡く賢い子とは思っておりましたが……いやはや、口惜しい。貴族に唾を付けられていなければ、女だてらにも素晴らしい次期会頭となられたでしょうに……」
「これだけの才能なら、我ら人事部はその持ち主が孤児であっても幹部と同等の待遇て迎え入れましたぞ」
幹部は悔しがりながらも、その手腕を讃えずにはいられなかったらしい。同業だからこそ、その凄さが実感できてしまうから。
「むしろ既に三国全ての皇帝陛下が動いているなら、シレイドの一子爵家、それもこう言っちゃ何ですがあの程度の家がお嬢様に難癖つけて害を与えれば、むしろ子爵家の方が大変な事になるのでは?」
「……ならば我ら程度の平民なら言わずもがな、ですか」
「ええ、お嬢様がご用意なされた交渉点からみても、カーライル商会と敵対するつもりは無いものと思われます。この通り、お嬢様の稼ぎを見せられてしまうと惜しく思えてしまいますが、それを除けばカーライル商会の利益が削られるような案件はありませんし、いくつかの魔道具については冷蔵庫と空調同様量産可能な物の利権を分けていただけるようですし。ここは一つ大人の度量を見せて笑顔で見守りつつ今後も友好的な取引を願う方が、見苦しくあれこれ欲張るより得策かと」
ユーリはかつて魔帝国の皇帝に言われた事を思い出していた。
「……一人の娘の父親として、あの歳の娘ごに既に他から宛がわれた婿がおるのは複雑な思いもありましょう。しかし、既に弟君を正式に跡取りと発表してしまわれた以上、お嬢様はいつかは嫁がなければなりませぬ」
そもそも生まれる前から貴族に奪われる運命が決まっていたはずの子。
その子が持つ富を欲して奪おうとする者と、それを惜しんで囲いこむ者。果たしてどちらがよりあさましいのか。
「……あの娘が拾った子供が貴族になって、娘はその妻になる、か。自らを救う者を自らの手で救ったのか。……そしてそれを許可したのは私で、あれを見限ろうとしたのも私か」
既に彼の娘は彼の手を離れ、その庇護を必要としなくなってしまった。
親としても、会頭としても、彼女にしてやれそうなのは本当にその程度しか無さそうだった。
「細かい手続きや取り決めは別として、大筋の合意には応じよう」
ユーリ・カーライルは後日改めて開かれた娘と各ギルマスとの会合でその決定を正式に告げた。
――アンリ・カーライルを会頭とする疾風の牙商会が正式に独立を果たしたのはそれから一月後の事だった。
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