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念願の旅路で

空中戦

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    この乙女ゲームの世界での主な移動手段は徒歩か馬車、あるいは船。まだ飛行機は存在しない。作ろうと思えば魔道具で再現は出来るだろうけど、日本でだって全体から見れば希ながらも墜落事故は普通にあった。
    ――この世界でだって馬車での人身事故や船の沈没事故はある。
    でも、アメリカじゃないけど私の作った魔道具で、直に私の責任じゃない事由で事故が起きたとして……。結果がどうなるか分からないから、特にこれからも作る気はない。
   で、何が言いたいかって?
   だからね、この世界で空を飛ぶことを許されるのはごく一握りの自力で空を飛ぶ能力を有する者だけだということ。
    そして、一回戦で虎獣人と当たって勝利した鷹獣人と、同じく一回戦で牛獣人と当たって勝利したコウモリ獣人とが準々決勝で当たるのだ。
    ……ちなみに牛獣人さんが、どうにもゲームでお馴染みミノタウロスさんがお洋服着たようにしか見えなかったのは私だけの秘密である。
    準々決勝のもう一戦は先程のチーター、ブレイズさんと狼獣人。狼獣人さんは、スピードもパワーもバランス良く持ち合わせた選手だった。
   スピードだけ見ればチーターのブレイズさんに劣って見えるけれど、そのトップスピードの持久力を比べたら狼――ロウエンに軍配が上がる。パワーは互角。こちらも見応えのある試合になりそうだ。
    でもまずは。
    「試合開始!」
    号令と共に互いに翼と皮膜を広げて空へと翔んだ鷹とコウモリの試合だ。
    ちなみに鷹獣人がヒダカ、コウモリ獣人がヴァンと言う名らしい。
    試合が良く見えるようにと比較的低い位置に造られた貴賓席からだと空中戦が少し見えづらいとは盲点だったけどね……。
    けれど、どこまでいっても平面的な動きしか出来ない地上戦と違って、縦横無尽に翔け回る空中戦はスリル満点だ。
    選手の二人もこれが見世物でもある事を知っているからか、会場から見えない様な上空までは上がらず、最上階席より気持ち高い上空と地上すれすれまでの空間を飛び回りながら殴り合う。
    その光景に何か既視感を覚えた理由は……やはりあれだろう。龍の玉を集めて回るバトル漫画のスーパーな方々が繰り広げるバトルシーンをリアルで見ている気分になるせいだ。
    ただ、良く見ると双方飛び方に特徴があって面白い。
    ヒダカさんが切るような直線的で鋭い飛び方をするのに対し、ヴァンはひらひらと蝶のように舞う。
    ……あ、今さらだけど。鳥獣人さんもちゃんと人間と同じように手足がある。背中に羽を背負っているから、白鳥とか白い翼を持つ種族のハーフはまるで天使に見える。
    あの二人は――ヴァンは……夜中に不意にあの顔見たらエイリアンに見える気がしてしまう。勿論失礼な話なのは分かっているからこれも私だけの秘密である。
    あ、ヴァンさんがヒダカの膝蹴り受けて地面に叩きつけられた……!
    ――ヴァンさん、起き上がらない。
    「試合終了!    勝者ヒダカ!」
    そして準々決勝二戦目はロウエンがブレイズを下して勝利し、決勝戦に駒を進めた。
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