104 / 370
念願の旅路で
隔離作戦
しおりを挟む
「それでお嬢様はどうなさるおつもりで?」
正直あれが何なのか分からず、対処法も分からない現状で出来ることは少ない。
「……あそこから引き剥がすだけなら策がないこともないんだ」
私の空間にご招待(強制)してしまえばエルフにとっての困った現象はおそらく止む。
「けど、結局あれをどうするのか、って問題は先送りしただけだから、そこはもう一つ一つ試していくしかないんだけど」
「お嬢様は既に神話の伝説にしか情報の無い竜のお世話を抱え込んでいらっしゃるのに、まだ面倒を背負いこむおつもりで?」
「う……。けど勅命受けちゃった以上はどうしたって解決しなきゃいけないのに、ここで失敗しちゃった場合の被害が、その方向性も範囲も予測できない。なら現実に響かない空間で試す方が私の精神衛生上助かるんだよ」
「それは……確かに一理ありますが……。はぁ、お嬢様と居ると面倒事が雪だるま式に増えていくんですね」
……。
あははははー。
さー、さっそく彼女をお招きしなければ!
空間の屋敷の庭に結界を張り、その中にここと似せた森と泉を作る。出入り口をそこと繋いで……。
「何っ、もう解決したじゃと!?」
その日の晩。一先ずこの地から脅威は去ったと報告したら、お茶を吹き出してまで驚いてくれた。
はは、リアルに漫画っぽいリアクションを見る機会があるとはね。
「正確には仮に封印を施したようなもの。根本的な解決はこれからですが、直接的な被害が出ないという意味では解決しました」
「……では、やはりあれが何なのかはまだ分からないのか」
「はい。その件は引き続き調査を続け、判明しましたら魔王陛下に報告をさせていただきます」
「そうか」
「――その為にも、一つ許可をいただきたいのです」
「そなたの望みは我らが書庫の出入りか?」
「はい」
それは。古き森の民たるエルフがその叡智を記録し蓄えた、この大陸で最大かつ希少価値の高い書庫。
その本の重さと同じだけの黄金よりも価値の高い資料がごろごろあるような。
しかしエルフ以外の一般人ではまず許可は下りず、皇帝陛下ですら簡単には許可を貰えない幻とまで言われる知識の宝庫。
「――人間の小娘が生意気な。……だがこの件では皇帝陛下の勅命がある。それも我らがすがった故のものとあらば致し方あるまい。良いだろう、許可証をやろう」
……それは。
エルフの森の中央にそびえる大樹の根本を入り口に、地下に作られた書庫。
「読書が嫌いな訳ではなくとも、この量は……。ただ好きに読み散らすだけで良いなら楽園のようですが、この中から必要な資料を探し出すとなると気が遠くなりそうです」
見ただけでげっそりしているレイフレッドの気持ちも分からないではない。
東京ドームなんて目じゃない。
琵琶湖くらい入りそうな、果ての見えない空間の中に規則正しく並ぶ書庫にぎっしり詰まった本、本、本、本。
「――大丈夫よ」
こんな機会はおそらく二度と無いから、スキルポイントを奮発してスキル「アーカイブ」をゲット、更にポイントを消費してレベルを上げてオプション能力も追加したんだから。
「まずは空間指定でこの室内をターゲティング。――で、スキルアーカイブ発動、オプション能力資料複製を使用。情報登録開始」
それは。空間指定された中にある情報媒体の内容を複製し片端からスキルに保護された脳の記憶回路に詰め込む作業で。
「……レイフレッド、多分これ済んだら今日一杯は私寝こけて起きれないと思うから、後よろしくね」
「は!?」
スキルを使うとはいえ、別に外付けの記憶領域が増える訳でもなければ「記憶する」行為自体は実際に生身の細胞を働かせて行っているわけで。
相応の疲労を伴うもの。スキルで若干のサポートはあるけど、この量ともなれば丸一日は寝込む。
そして起きたら多分物凄い空腹に見舞われる。
だから、私はレイフレッドに寝床と食事の確保を頼んで、後は黙々とエルフの叡智の取り込みに勤しんだのだった。
正直あれが何なのか分からず、対処法も分からない現状で出来ることは少ない。
「……あそこから引き剥がすだけなら策がないこともないんだ」
私の空間にご招待(強制)してしまえばエルフにとっての困った現象はおそらく止む。
「けど、結局あれをどうするのか、って問題は先送りしただけだから、そこはもう一つ一つ試していくしかないんだけど」
「お嬢様は既に神話の伝説にしか情報の無い竜のお世話を抱え込んでいらっしゃるのに、まだ面倒を背負いこむおつもりで?」
「う……。けど勅命受けちゃった以上はどうしたって解決しなきゃいけないのに、ここで失敗しちゃった場合の被害が、その方向性も範囲も予測できない。なら現実に響かない空間で試す方が私の精神衛生上助かるんだよ」
「それは……確かに一理ありますが……。はぁ、お嬢様と居ると面倒事が雪だるま式に増えていくんですね」
……。
あははははー。
さー、さっそく彼女をお招きしなければ!
空間の屋敷の庭に結界を張り、その中にここと似せた森と泉を作る。出入り口をそこと繋いで……。
「何っ、もう解決したじゃと!?」
その日の晩。一先ずこの地から脅威は去ったと報告したら、お茶を吹き出してまで驚いてくれた。
はは、リアルに漫画っぽいリアクションを見る機会があるとはね。
「正確には仮に封印を施したようなもの。根本的な解決はこれからですが、直接的な被害が出ないという意味では解決しました」
「……では、やはりあれが何なのかはまだ分からないのか」
「はい。その件は引き続き調査を続け、判明しましたら魔王陛下に報告をさせていただきます」
「そうか」
「――その為にも、一つ許可をいただきたいのです」
「そなたの望みは我らが書庫の出入りか?」
「はい」
それは。古き森の民たるエルフがその叡智を記録し蓄えた、この大陸で最大かつ希少価値の高い書庫。
その本の重さと同じだけの黄金よりも価値の高い資料がごろごろあるような。
しかしエルフ以外の一般人ではまず許可は下りず、皇帝陛下ですら簡単には許可を貰えない幻とまで言われる知識の宝庫。
「――人間の小娘が生意気な。……だがこの件では皇帝陛下の勅命がある。それも我らがすがった故のものとあらば致し方あるまい。良いだろう、許可証をやろう」
……それは。
エルフの森の中央にそびえる大樹の根本を入り口に、地下に作られた書庫。
「読書が嫌いな訳ではなくとも、この量は……。ただ好きに読み散らすだけで良いなら楽園のようですが、この中から必要な資料を探し出すとなると気が遠くなりそうです」
見ただけでげっそりしているレイフレッドの気持ちも分からないではない。
東京ドームなんて目じゃない。
琵琶湖くらい入りそうな、果ての見えない空間の中に規則正しく並ぶ書庫にぎっしり詰まった本、本、本、本。
「――大丈夫よ」
こんな機会はおそらく二度と無いから、スキルポイントを奮発してスキル「アーカイブ」をゲット、更にポイントを消費してレベルを上げてオプション能力も追加したんだから。
「まずは空間指定でこの室内をターゲティング。――で、スキルアーカイブ発動、オプション能力資料複製を使用。情報登録開始」
それは。空間指定された中にある情報媒体の内容を複製し片端からスキルに保護された脳の記憶回路に詰め込む作業で。
「……レイフレッド、多分これ済んだら今日一杯は私寝こけて起きれないと思うから、後よろしくね」
「は!?」
スキルを使うとはいえ、別に外付けの記憶領域が増える訳でもなければ「記憶する」行為自体は実際に生身の細胞を働かせて行っているわけで。
相応の疲労を伴うもの。スキルで若干のサポートはあるけど、この量ともなれば丸一日は寝込む。
そして起きたら多分物凄い空腹に見舞われる。
だから、私はレイフレッドに寝床と食事の確保を頼んで、後は黙々とエルフの叡智の取り込みに勤しんだのだった。
0
お気に入りに追加
1,081
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる