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念願の旅路で

隔離作戦

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    「それでお嬢様はどうなさるおつもりで?」
    正直あれが何なのか分からず、対処法も分からない現状で出来ることは少ない。
    「……あそこから引き剥がすだけなら策がないこともないんだ」
    私の空間にご招待(強制)してしまえばエルフにとっての困った現象はおそらく止む。
    「けど、結局あれをどうするのか、って問題は先送りしただけだから、そこはもう一つ一つ試していくしかないんだけど」
    「お嬢様は既に神話の伝説にしか情報の無い竜のお世話を抱え込んでいらっしゃるのに、まだ面倒を背負いこむおつもりで?」
    「う……。けど勅命受けちゃった以上はどうしたって解決しなきゃいけないのに、で失敗しちゃった場合の被害が、その方向性も範囲も予測できない。なら現実リアルに響かない空間で試す方が私の精神衛生上助かるんだよ」
    「それは……確かに一理ありますが……。はぁ、お嬢様と居ると面倒事が雪だるま式に増えていくんですね」
    ……。
    あははははー。
    さー、さっそく彼女をお招きしなければ!
     空間の屋敷の庭に結界を張り、その中にここと似せた森と泉を作る。出入り口をそこと繋いで……。
    「何っ、もう解決したじゃと!?」
    その日の晩。一先ずこの地から脅威は去ったと報告したら、お茶を吹き出してまで驚いてくれた。
    はは、リアルに漫画っぽいリアクションを見る機会があるとはね。
    「正確には仮に封印を施したようなもの。根本的な解決はこれからですが、直接的な被害が出ないという意味では解決しました」
    「……では、やはりあれが何なのかはまだ分からないのか」
    「はい。その件は引き続き調査を続け、判明しましたら魔王陛下に報告をさせていただきます」
    「そうか」
    「――その為にも、一つ許可をいただきたいのです」
    「そなたの望みは我らが書庫の出入りか?」
    「はい」
    それは。古き森の民たるエルフがその叡智を記録し蓄えた、この大陸で最大かつ希少価値の高い書庫。
    その本の重さと同じだけの黄金よりも価値の高い資料がごろごろあるような。
    しかしエルフ以外の一般人ではまず許可は下りず、皇帝陛下ですら簡単には許可を貰えない幻とまで言われる知識の宝庫。
    「――人間の小娘が生意気な。……だがこの件では皇帝陛下の勅命がある。それも我らがすがった故のものとあらば致し方あるまい。良いだろう、許可証をやろう」
    ……それは。
    エルフの森の中央にそびえる大樹の根本を入り口に、地下に作られた書庫。
    「読書が嫌いな訳ではなくとも、この量は……。ただ好きに読み散らすだけで良いなら楽園のようですが、この中から必要な資料を探し出すとなると気が遠くなりそうです」
    見ただけでげっそりしているレイフレッドの気持ちも分からないではない。
    東京ドームなんて目じゃない。
    琵琶湖くらい入りそうな、果ての見えない空間の中に規則正しく並ぶ書庫にぎっしり詰まった本、本、本、本。
    「――大丈夫よ」
    こんな機会はおそらく二度と無いから、スキルポイントを奮発してスキル「アーカイブ」をゲット、更にポイントを消費してレベルを上げてオプション能力も追加したんだから。
    「まずは空間指定でこの室内をターゲティング。――で、スキルアーカイブ発動、オプション能力資料複製を使用。情報登録開始」
    それは。空間指定された中にある情報媒体の内容を複製し片端からスキルに保護された脳の記憶回路に詰め込む作業で。
    「……レイフレッド、多分これ済んだら今日一杯は私寝こけて起きれないと思うから、後よろしくね」
    「は!?」
     スキルを使うとはいえ、別に外付けの記憶領域が増える訳でもなければ「記憶する」行為自体は実際に生身の細胞を働かせて行っているわけで。
    相応の疲労を伴うもの。スキルで若干のサポートはあるけど、この量ともなれば丸一日は寝込む。
    そして起きたら多分物凄い空腹に見舞われる。
    だから、私はレイフレッドに寝床と食事の確保を頼んで、後は黙々とエルフの叡智の取り込みに勤しんだのだった。
    
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