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雌伏の時
旅立ち
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「ほな、確かに受けとりました」
そうニコニコ笑うのは、商業ギルドの獣人帝国帝都支部のギルマス。たった三人しか居ないグランドマスターの肩書きを持つ兎獣人の男。
各ギルドは基本的に国に属さない建前ではいるけれど、形式的に各帝国ごとにその地のギルドを纏めるグランドマスターが居る。彼はその一人なのだ。
彼の上に居るのは一人、総帥だけ。
各ギルドとも、グラマスは基本的に各帝国首都に居る。
しかし総帥となると、関係者でも上層部にしか知らされないようで、一般まで情報は下りてこないのだ。
――とまあウンチクは置いといて。
無事納品を終えた私達は例のモノを受けとる。
特にレイフレッドについては、貴族位に就く事がほぼ本決まりになったため、十二になったら貴族のための学校にいく必要が出てきた。
勿論、私が通う予定の人間の学校ではない。
成人までは魔帝国の、その後の三年は獣帝国の学校に通うことに決まった。
入学までは、シリカさんの宮殿で家庭教師による授業が行われると言う。
「お嬢様、よろしければご一緒に授業を受けませんか?」
それを聞いたレイフレッドから提案を受けた私は、勿論受けた。
「ええ。……久しぶりね」
あの時と立場は逆だけど。
「今のうちに少しでも先取りできれば、周りとの差を縮められる……!」
同時に、私はお父様の説得に懸かった。
もうじき私の弟か妹が生まれる。……この世界の医療は遅れているから、生まれる前に性別なんか分からないからね。どちらにせよ面倒な事になる前に。
約束通り学校には行くからと。それまでの自由の保証を手にするために。
……苦労して苦労して苦労して。
ようやく許可が降りたのはほぼ一年後。
七歳の鑑定式を終えてから、私が学校に入るまで。
ルフナに文句を言われながらも本格的に荷造りをした。
……二度と戻れなくなるかもしれない可能性も考えて。
屋敷への空間の繋がりは敢えて全て外した。
大半は空間の屋敷に移し、最低限の荷物だけ馬車に積み込む。
そして。
「……はぁ、お嬢様。本当に行かれるおつもりなのですか?」
もはや諦めきったメイドのルフナがそれでもまだ愚痴るようにこぼすけど、今日この日の旅立ちは、苦労してお父様からもぎ取った貴重な時間なのだ。取り止めるわけがない。
「……はぁ、……ではくれぐれもお嬢様の事をお願いしますよ、レイフレッド。お嬢様に万が一の事があれば商会ごとカーライル家は潰されます。くれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も、よろしくお願いしますね、レイフレッド」
ルフナが、レイフレッドにしつこく念押しする。
「もう、そういう話は昨夜の内に嫌って程したじゃない。いい加減出発するわよ、ほら、レイフレッドも早く乗った乗った!」
アンリが手綱を握れば車輪がゆっくり回りだし、レイフレッドが慌てて車体にしがみつき、ひょいと車内に身体を押し込んだ。
「行ってきま~す!」
ひらひら手を振る私を見送るのはルフナ一人。
ほんの一週間前に七歳になったばかりの私に与えられたタイムリミットは五年。
十二歳になる年の春が期限の挑戦が、今、始まった。
そうニコニコ笑うのは、商業ギルドの獣人帝国帝都支部のギルマス。たった三人しか居ないグランドマスターの肩書きを持つ兎獣人の男。
各ギルドは基本的に国に属さない建前ではいるけれど、形式的に各帝国ごとにその地のギルドを纏めるグランドマスターが居る。彼はその一人なのだ。
彼の上に居るのは一人、総帥だけ。
各ギルドとも、グラマスは基本的に各帝国首都に居る。
しかし総帥となると、関係者でも上層部にしか知らされないようで、一般まで情報は下りてこないのだ。
――とまあウンチクは置いといて。
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特にレイフレッドについては、貴族位に就く事がほぼ本決まりになったため、十二になったら貴族のための学校にいく必要が出てきた。
勿論、私が通う予定の人間の学校ではない。
成人までは魔帝国の、その後の三年は獣帝国の学校に通うことに決まった。
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「お嬢様、よろしければご一緒に授業を受けませんか?」
それを聞いたレイフレッドから提案を受けた私は、勿論受けた。
「ええ。……久しぶりね」
あの時と立場は逆だけど。
「今のうちに少しでも先取りできれば、周りとの差を縮められる……!」
同時に、私はお父様の説得に懸かった。
もうじき私の弟か妹が生まれる。……この世界の医療は遅れているから、生まれる前に性別なんか分からないからね。どちらにせよ面倒な事になる前に。
約束通り学校には行くからと。それまでの自由の保証を手にするために。
……苦労して苦労して苦労して。
ようやく許可が降りたのはほぼ一年後。
七歳の鑑定式を終えてから、私が学校に入るまで。
ルフナに文句を言われながらも本格的に荷造りをした。
……二度と戻れなくなるかもしれない可能性も考えて。
屋敷への空間の繋がりは敢えて全て外した。
大半は空間の屋敷に移し、最低限の荷物だけ馬車に積み込む。
そして。
「……はぁ、お嬢様。本当に行かれるおつもりなのですか?」
もはや諦めきったメイドのルフナがそれでもまだ愚痴るようにこぼすけど、今日この日の旅立ちは、苦労してお父様からもぎ取った貴重な時間なのだ。取り止めるわけがない。
「……はぁ、……ではくれぐれもお嬢様の事をお願いしますよ、レイフレッド。お嬢様に万が一の事があれば商会ごとカーライル家は潰されます。くれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も、よろしくお願いしますね、レイフレッド」
ルフナが、レイフレッドにしつこく念押しする。
「もう、そういう話は昨夜の内に嫌って程したじゃない。いい加減出発するわよ、ほら、レイフレッドも早く乗った乗った!」
アンリが手綱を握れば車輪がゆっくり回りだし、レイフレッドが慌てて車体にしがみつき、ひょいと車内に身体を押し込んだ。
「行ってきま~す!」
ひらひら手を振る私を見送るのはルフナ一人。
ほんの一週間前に七歳になったばかりの私に与えられたタイムリミットは五年。
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