上 下
77 / 370
雌伏の時

妥協と決意

しおりを挟む
    ――狸と狐――それも愛らしいモフモフではなく狐狸妖怪――の攻防戦は、昼過ぎに始まり夕飯時まで続いた。
    結果から言おう。
    辛勝だった。
    最低限望む結果は得られたけど、それだけ。
    甘さなんかどこにもない。

    一つ。
    勉強はこれまでと同様に続ける事。従者であるレイフレッドの同席は認めない。

    一つ。
    どうしても私でなければならない作業を除き外注する事。

    一つ。
    儲けは半分商会に入れる事。

    一つ。
    納品に出掛けるときはウチの馬車を使い、必ずレイフレッド以外の使用人を連れて行く事。

   ……流石に作業中にもレイフレッド以外の使用人を立ち会わせろと言うのは断ったけど。

    「なあ、カーライルよ。いくらなんでもそりゃ酷くねぇか?    天下のカーライル商会が、未成年の娘に集ってむしり取る様な真似して恥ずかしくねぇのかよ」
    「――では、いざと言う時、貴方が全責任を負って下さると?    お貴族様の理不尽の盾となって下さると?」
    「――むぅ……」
    「――出来ないなら黙って下さい。少なくとも私の心はこの一年でひびだらけです。……アンリが可愛いからまだ何とか折れずにいますが、これ以上の火種は困るのです。……私の心が折れたら、私は今すぐこの子を奴らに差し出しますよ。――もうすぐ新しい跡取りが生まれる。この子が居ない方が我が家は安泰なんですから」
    「おっ――!    ……ッ、くそッ!」
    「…………」
    最後は重苦しい空気のまま場は解散となった。

    ああ。まだ先だと油断しすぎたみたい。
    奴らは疫病神か。
    ……本当に、本当に。空間魔法や吸血鬼の国の拠点の話を黙ってて良かった。
    ――帰って来るんじゃなかったなんて思わせるなんて。

    ……婚約破棄だけじゃ足りない。
    いつか、奴を思いっきりぶん殴ってざまぁしてやりたい。
    本来なら私が悪役令嬢でざまぁされる側だけど。
    どう考えたって割りに合わないし。

    今は仕方なくても、私は絶対に旅に出る。
    その為にも、今は資金を貯め、信用を積み重ね、信頼を得るために我慢するべき時だ。

    「レイフレッド」
    寝室の明かりを消し、ルフナが退室していった夜。
    空間に建てた以前より大きな屋敷のリビングで、彼に声をかける。
    「はい、お嬢様」
    「二年、待ってくれる?」
    「――お嬢様がお望みなら、どこへだって抱えて逃げますよ」
    「それはとても魅力的なお誘いだけど……出来れば正攻法で、最後は大団円を飾りたいの。本当にどうしようもなくなったら、もう一度提案してくれる?」
    「――勿論、お嬢様のお望みのままに」
    「しばらく窮屈な思いをさせてしまうけど……」
    「私は、このささやかな時間があれば満足――はしませんが、まあ大丈夫ですよ」
    私の為に彼が淹れてくれたお茶が空になると、私の座るソファーの隣にレイフレッドが腰掛け、私の手を取る。
    「規格外なお嬢様の事です。私よりキツいのはお嬢様でしょう?    ここでなら、愚痴くらいいつでも聞きますよ」
    そっと手の甲に口づけを落とされ、続けて手首に牙を埋め込んだ。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...