56 / 370
吸血鬼と一緒に。
パートナーの責任
しおりを挟む
ああ、なんだ。普通に血を飲ませれば良かったんだ。……正気を失ってはいたけど……今後そんな場面で役立ちそうな手段も得られたし一先ず良かった良かったとホッとした……
「レイフレッド、良かっ――」
「お、嬢……様、離れ……て」
なのに。
レイフレッドの目は正気を取り戻しているのに、今も尚拘束を破ろうと暴れ続けている。
荒い吐息とギシギシと寝台が軋む音が現状の緊迫感を高めていく。
「俺……は、何でか分かんないけど、理性で抑えきれない位に喉が渇いてどうしようもなくて……身体が言うことを聞かない。このままじゃまたあの時みたく……いや、もっと酷くお嬢様を傷つける。だから……離れて……!」
言葉遣いを取り繕う余裕も無いらしい。
「レイフレッド、貴方は私以外の血を飲んだからそうなってるの。……私の心臓の血を飲めば治るそうだけど――レイフレッド、いけそう?」
私はネグリジェのボタンに手をかける。
……幼児の体だからね。下半身さえ晒さなければ男も女も変わらない半裸を見せるくらいはこの非常事態に照れも恥もなく。
もう、豪快に脱ぎ捨てる。
「お、おじょっ――」
けど、どうやらレイフレッドの方は考え方が違ったらしく、大いに動揺した。
「むむむむ、無理です!」
心の底からの叫び。
「今、こうして話してるだけで精一杯なんです! 心臓の血って……失敗したら……!」
――やっぱり直には難しい、か。
その必死の形相に悩む暇も惜しいらしいと知れる。
試せる時間もあるかどうか……。
でもこのまま迷ってタイミングを逃せば――失敗してしまえば。
後は本当に奴らの言った通りになる……?
――私が無知で彼のパートナーになっていなければ、こんな事にはならなかった。
でも、今もしもを言っても仕方ない。
私は、彼のパートナーになった責任を取らなきゃいけない。
――覚悟を決める。
新しい試験管をアイテムボックスから取り出し、目の前にかざして。
試験管の入り口に亜空間の入り口を開き。
空の手を脈打つ心臓を感じる胸の上に置く。
かつて理科の授業で習った心臓の断面図を脳裏に浮かべ、その心室に狙いを定めてごく小さな、もう一つの入り口を開き唱える。
「水よ、我が身を流れ心臓に至る血液よ、新たな道から器を満たせ」
本当にこれで良いのか。もっと他にもっと確実な詠唱があるんじゃないかと思いながらも、脳裏に明確なイメージを焼き付ける位の勢いで思い描く。
――痛みは、無く。
ただ、試験管側の出口からどっと蛇口の加減を間違えたように多くの血が流れ試験管からあっという間に溢れる。
慌てて空間を閉じるも、部屋は血の匂いで一杯で。
「お、じょ……う、ガ、ァ――!」
理性を飛ばし、フロスの拘束を力任せに引きちぎったレイフレッドが襲いかかってくる。
貧血にふらつき避ける事すらままならない私は、試験管を握る手ごと、ダメ元とばかりに彼の口に突っ込んだ。――手ごと噛み砕かれるかもしれないとか、そんな事考える余裕もなく。
牙が手の甲に深々と刺さった痛み――いつも痛くないから知らなかったけど、本当ならこれだけ痛いのかとびっくりするくらい痛くて目に涙が溜まる。
「ご主人様!」
フロスが怒ってレイフレッドに攻撃を仕掛ける。
「ダメ、フロス止めなさい! レイフレッド、正気に戻って!」
命令は、でもフロスの速さに間に合わず、フロスに与えた鉤爪が振り下ろされる。
けど、その直前。かくりとレイフレッドの膝から力が抜けて倒れ込み、爪の軌跡は空を切る。
レイフレッドは私の手を咥えたまま崩れ落ちる。
握り込んだ試験管で口を切ってはまずいと空いた手で試験管だけ引き抜いて。彼の頭を抱え込む。
「お嬢……様……」
吐息のような囁きがはだけた肌に直に触れて。
牙がゆっくりと抜かれるのと引き換える様にかたかたと彼の体が震え出す。
「お嬢……ごめ……」
だけど――彼はそのまま意識を失い、震えも止まる。
ヒヤリと、肝が冷えた。
慌てて彼の心音と呼吸を確かめる。――だ、大丈夫。きっと体力が限界で眠っただけ。
そう確認がとれた私は心の底からの安堵のため息を吐き出した。
「フロス、私の為に怒ってくれてありがとう。守ろうとしてくれたのは嬉しい。でもごめんね、レイフレッドは私の大事な仲間なの。だから……隣の部屋に運ぶの、手伝ってくれるかな?」
この血だらけになった部屋は後でどうにかするとして。
彼を着替えさせ休ませて。
――私には、まだやる事があるから。
「フロス、レイフレッドの事、お願いね」
ネグリジェを脱いで冒険者衣装に着替えてから。
――私は馬車の中に繋げた玄関のドアを開けた。
「レイフレッド、良かっ――」
「お、嬢……様、離れ……て」
なのに。
レイフレッドの目は正気を取り戻しているのに、今も尚拘束を破ろうと暴れ続けている。
荒い吐息とギシギシと寝台が軋む音が現状の緊迫感を高めていく。
「俺……は、何でか分かんないけど、理性で抑えきれない位に喉が渇いてどうしようもなくて……身体が言うことを聞かない。このままじゃまたあの時みたく……いや、もっと酷くお嬢様を傷つける。だから……離れて……!」
言葉遣いを取り繕う余裕も無いらしい。
「レイフレッド、貴方は私以外の血を飲んだからそうなってるの。……私の心臓の血を飲めば治るそうだけど――レイフレッド、いけそう?」
私はネグリジェのボタンに手をかける。
……幼児の体だからね。下半身さえ晒さなければ男も女も変わらない半裸を見せるくらいはこの非常事態に照れも恥もなく。
もう、豪快に脱ぎ捨てる。
「お、おじょっ――」
けど、どうやらレイフレッドの方は考え方が違ったらしく、大いに動揺した。
「むむむむ、無理です!」
心の底からの叫び。
「今、こうして話してるだけで精一杯なんです! 心臓の血って……失敗したら……!」
――やっぱり直には難しい、か。
その必死の形相に悩む暇も惜しいらしいと知れる。
試せる時間もあるかどうか……。
でもこのまま迷ってタイミングを逃せば――失敗してしまえば。
後は本当に奴らの言った通りになる……?
――私が無知で彼のパートナーになっていなければ、こんな事にはならなかった。
でも、今もしもを言っても仕方ない。
私は、彼のパートナーになった責任を取らなきゃいけない。
――覚悟を決める。
新しい試験管をアイテムボックスから取り出し、目の前にかざして。
試験管の入り口に亜空間の入り口を開き。
空の手を脈打つ心臓を感じる胸の上に置く。
かつて理科の授業で習った心臓の断面図を脳裏に浮かべ、その心室に狙いを定めてごく小さな、もう一つの入り口を開き唱える。
「水よ、我が身を流れ心臓に至る血液よ、新たな道から器を満たせ」
本当にこれで良いのか。もっと他にもっと確実な詠唱があるんじゃないかと思いながらも、脳裏に明確なイメージを焼き付ける位の勢いで思い描く。
――痛みは、無く。
ただ、試験管側の出口からどっと蛇口の加減を間違えたように多くの血が流れ試験管からあっという間に溢れる。
慌てて空間を閉じるも、部屋は血の匂いで一杯で。
「お、じょ……う、ガ、ァ――!」
理性を飛ばし、フロスの拘束を力任せに引きちぎったレイフレッドが襲いかかってくる。
貧血にふらつき避ける事すらままならない私は、試験管を握る手ごと、ダメ元とばかりに彼の口に突っ込んだ。――手ごと噛み砕かれるかもしれないとか、そんな事考える余裕もなく。
牙が手の甲に深々と刺さった痛み――いつも痛くないから知らなかったけど、本当ならこれだけ痛いのかとびっくりするくらい痛くて目に涙が溜まる。
「ご主人様!」
フロスが怒ってレイフレッドに攻撃を仕掛ける。
「ダメ、フロス止めなさい! レイフレッド、正気に戻って!」
命令は、でもフロスの速さに間に合わず、フロスに与えた鉤爪が振り下ろされる。
けど、その直前。かくりとレイフレッドの膝から力が抜けて倒れ込み、爪の軌跡は空を切る。
レイフレッドは私の手を咥えたまま崩れ落ちる。
握り込んだ試験管で口を切ってはまずいと空いた手で試験管だけ引き抜いて。彼の頭を抱え込む。
「お嬢……様……」
吐息のような囁きがはだけた肌に直に触れて。
牙がゆっくりと抜かれるのと引き換える様にかたかたと彼の体が震え出す。
「お嬢……ごめ……」
だけど――彼はそのまま意識を失い、震えも止まる。
ヒヤリと、肝が冷えた。
慌てて彼の心音と呼吸を確かめる。――だ、大丈夫。きっと体力が限界で眠っただけ。
そう確認がとれた私は心の底からの安堵のため息を吐き出した。
「フロス、私の為に怒ってくれてありがとう。守ろうとしてくれたのは嬉しい。でもごめんね、レイフレッドは私の大事な仲間なの。だから……隣の部屋に運ぶの、手伝ってくれるかな?」
この血だらけになった部屋は後でどうにかするとして。
彼を着替えさせ休ませて。
――私には、まだやる事があるから。
「フロス、レイフレッドの事、お願いね」
ネグリジェを脱いで冒険者衣装に着替えてから。
――私は馬車の中に繋げた玄関のドアを開けた。
0
お気に入りに追加
1,084
あなたにおすすめの小説
転生したらチートでした
ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!
スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!!
僕は異世界転生してしまう
大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった
仕事とゲームで過労になってしまったようだ
とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた
転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった
住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる
◇
HOTランキング一位獲得!
皆さま本当にありがとうございます!
無事に書籍化となり絶賛発売中です
よかったら手に取っていただけると嬉しいです
これからも日々勉強していきたいと思います
◇
僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました
毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~
たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!!
猫刄 紅羽
年齢:18
性別:男
身長:146cm
容姿:幼女
声変わり:まだ
利き手:左
死因:神のミス
神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。
しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。
更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!?
そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか...
的な感じです。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
秘密の多い令嬢は幸せになりたい
完菜
恋愛
前髪で瞳を隠して暮らす少女は、子爵家の長女でキャスティナ・クラーク・エジャートンと言う。少女の実の母は、7歳の時に亡くなり、父親が再婚すると生活が一変する。義母に存在を否定され貴族令嬢としての生活をさせてもらえない。そんなある日、ある夜会で素敵な出逢いを果たす。そこで出会った侯爵家の子息に、新しい生活を与えられる。新しい生活で出会った人々に導かれながら、努力と前向きな性格で、自分の居場所を作り上げて行く。そして、少女には秘密がある。幻の魔法と呼ばれる、癒し系魔法が使えるのだ。その魔法を使ってしまう事で、国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。
完結が確定しています。全105話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる