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吸血鬼と一緒に。
パートナーの責任
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ああ、なんだ。普通に血を飲ませれば良かったんだ。……正気を失ってはいたけど……今後そんな場面で役立ちそうな手段も得られたし一先ず良かった良かったとホッとした……
「レイフレッド、良かっ――」
「お、嬢……様、離れ……て」
なのに。
レイフレッドの目は正気を取り戻しているのに、今も尚拘束を破ろうと暴れ続けている。
荒い吐息とギシギシと寝台が軋む音が現状の緊迫感を高めていく。
「俺……は、何でか分かんないけど、理性で抑えきれない位に喉が渇いてどうしようもなくて……身体が言うことを聞かない。このままじゃまたあの時みたく……いや、もっと酷くお嬢様を傷つける。だから……離れて……!」
言葉遣いを取り繕う余裕も無いらしい。
「レイフレッド、貴方は私以外の血を飲んだからそうなってるの。……私の心臓の血を飲めば治るそうだけど――レイフレッド、いけそう?」
私はネグリジェのボタンに手をかける。
……幼児の体だからね。下半身さえ晒さなければ男も女も変わらない半裸を見せるくらいはこの非常事態に照れも恥もなく。
もう、豪快に脱ぎ捨てる。
「お、おじょっ――」
けど、どうやらレイフレッドの方は考え方が違ったらしく、大いに動揺した。
「むむむむ、無理です!」
心の底からの叫び。
「今、こうして話してるだけで精一杯なんです! 心臓の血って……失敗したら……!」
――やっぱり直には難しい、か。
その必死の形相に悩む暇も惜しいらしいと知れる。
試せる時間もあるかどうか……。
でもこのまま迷ってタイミングを逃せば――失敗してしまえば。
後は本当に奴らの言った通りになる……?
――私が無知で彼のパートナーになっていなければ、こんな事にはならなかった。
でも、今もしもを言っても仕方ない。
私は、彼のパートナーになった責任を取らなきゃいけない。
――覚悟を決める。
新しい試験管をアイテムボックスから取り出し、目の前にかざして。
試験管の入り口に亜空間の入り口を開き。
空の手を脈打つ心臓を感じる胸の上に置く。
かつて理科の授業で習った心臓の断面図を脳裏に浮かべ、その心室に狙いを定めてごく小さな、もう一つの入り口を開き唱える。
「水よ、我が身を流れ心臓に至る血液よ、新たな道から器を満たせ」
本当にこれで良いのか。もっと他にもっと確実な詠唱があるんじゃないかと思いながらも、脳裏に明確なイメージを焼き付ける位の勢いで思い描く。
――痛みは、無く。
ただ、試験管側の出口からどっと蛇口の加減を間違えたように多くの血が流れ試験管からあっという間に溢れる。
慌てて空間を閉じるも、部屋は血の匂いで一杯で。
「お、じょ……う、ガ、ァ――!」
理性を飛ばし、フロスの拘束を力任せに引きちぎったレイフレッドが襲いかかってくる。
貧血にふらつき避ける事すらままならない私は、試験管を握る手ごと、ダメ元とばかりに彼の口に突っ込んだ。――手ごと噛み砕かれるかもしれないとか、そんな事考える余裕もなく。
牙が手の甲に深々と刺さった痛み――いつも痛くないから知らなかったけど、本当ならこれだけ痛いのかとびっくりするくらい痛くて目に涙が溜まる。
「ご主人様!」
フロスが怒ってレイフレッドに攻撃を仕掛ける。
「ダメ、フロス止めなさい! レイフレッド、正気に戻って!」
命令は、でもフロスの速さに間に合わず、フロスに与えた鉤爪が振り下ろされる。
けど、その直前。かくりとレイフレッドの膝から力が抜けて倒れ込み、爪の軌跡は空を切る。
レイフレッドは私の手を咥えたまま崩れ落ちる。
握り込んだ試験管で口を切ってはまずいと空いた手で試験管だけ引き抜いて。彼の頭を抱え込む。
「お嬢……様……」
吐息のような囁きがはだけた肌に直に触れて。
牙がゆっくりと抜かれるのと引き換える様にかたかたと彼の体が震え出す。
「お嬢……ごめ……」
だけど――彼はそのまま意識を失い、震えも止まる。
ヒヤリと、肝が冷えた。
慌てて彼の心音と呼吸を確かめる。――だ、大丈夫。きっと体力が限界で眠っただけ。
そう確認がとれた私は心の底からの安堵のため息を吐き出した。
「フロス、私の為に怒ってくれてありがとう。守ろうとしてくれたのは嬉しい。でもごめんね、レイフレッドは私の大事な仲間なの。だから……隣の部屋に運ぶの、手伝ってくれるかな?」
この血だらけになった部屋は後でどうにかするとして。
彼を着替えさせ休ませて。
――私には、まだやる事があるから。
「フロス、レイフレッドの事、お願いね」
ネグリジェを脱いで冒険者衣装に着替えてから。
――私は馬車の中に繋げた玄関のドアを開けた。
「レイフレッド、良かっ――」
「お、嬢……様、離れ……て」
なのに。
レイフレッドの目は正気を取り戻しているのに、今も尚拘束を破ろうと暴れ続けている。
荒い吐息とギシギシと寝台が軋む音が現状の緊迫感を高めていく。
「俺……は、何でか分かんないけど、理性で抑えきれない位に喉が渇いてどうしようもなくて……身体が言うことを聞かない。このままじゃまたあの時みたく……いや、もっと酷くお嬢様を傷つける。だから……離れて……!」
言葉遣いを取り繕う余裕も無いらしい。
「レイフレッド、貴方は私以外の血を飲んだからそうなってるの。……私の心臓の血を飲めば治るそうだけど――レイフレッド、いけそう?」
私はネグリジェのボタンに手をかける。
……幼児の体だからね。下半身さえ晒さなければ男も女も変わらない半裸を見せるくらいはこの非常事態に照れも恥もなく。
もう、豪快に脱ぎ捨てる。
「お、おじょっ――」
けど、どうやらレイフレッドの方は考え方が違ったらしく、大いに動揺した。
「むむむむ、無理です!」
心の底からの叫び。
「今、こうして話してるだけで精一杯なんです! 心臓の血って……失敗したら……!」
――やっぱり直には難しい、か。
その必死の形相に悩む暇も惜しいらしいと知れる。
試せる時間もあるかどうか……。
でもこのまま迷ってタイミングを逃せば――失敗してしまえば。
後は本当に奴らの言った通りになる……?
――私が無知で彼のパートナーになっていなければ、こんな事にはならなかった。
でも、今もしもを言っても仕方ない。
私は、彼のパートナーになった責任を取らなきゃいけない。
――覚悟を決める。
新しい試験管をアイテムボックスから取り出し、目の前にかざして。
試験管の入り口に亜空間の入り口を開き。
空の手を脈打つ心臓を感じる胸の上に置く。
かつて理科の授業で習った心臓の断面図を脳裏に浮かべ、その心室に狙いを定めてごく小さな、もう一つの入り口を開き唱える。
「水よ、我が身を流れ心臓に至る血液よ、新たな道から器を満たせ」
本当にこれで良いのか。もっと他にもっと確実な詠唱があるんじゃないかと思いながらも、脳裏に明確なイメージを焼き付ける位の勢いで思い描く。
――痛みは、無く。
ただ、試験管側の出口からどっと蛇口の加減を間違えたように多くの血が流れ試験管からあっという間に溢れる。
慌てて空間を閉じるも、部屋は血の匂いで一杯で。
「お、じょ……う、ガ、ァ――!」
理性を飛ばし、フロスの拘束を力任せに引きちぎったレイフレッドが襲いかかってくる。
貧血にふらつき避ける事すらままならない私は、試験管を握る手ごと、ダメ元とばかりに彼の口に突っ込んだ。――手ごと噛み砕かれるかもしれないとか、そんな事考える余裕もなく。
牙が手の甲に深々と刺さった痛み――いつも痛くないから知らなかったけど、本当ならこれだけ痛いのかとびっくりするくらい痛くて目に涙が溜まる。
「ご主人様!」
フロスが怒ってレイフレッドに攻撃を仕掛ける。
「ダメ、フロス止めなさい! レイフレッド、正気に戻って!」
命令は、でもフロスの速さに間に合わず、フロスに与えた鉤爪が振り下ろされる。
けど、その直前。かくりとレイフレッドの膝から力が抜けて倒れ込み、爪の軌跡は空を切る。
レイフレッドは私の手を咥えたまま崩れ落ちる。
握り込んだ試験管で口を切ってはまずいと空いた手で試験管だけ引き抜いて。彼の頭を抱え込む。
「お嬢……様……」
吐息のような囁きがはだけた肌に直に触れて。
牙がゆっくりと抜かれるのと引き換える様にかたかたと彼の体が震え出す。
「お嬢……ごめ……」
だけど――彼はそのまま意識を失い、震えも止まる。
ヒヤリと、肝が冷えた。
慌てて彼の心音と呼吸を確かめる。――だ、大丈夫。きっと体力が限界で眠っただけ。
そう確認がとれた私は心の底からの安堵のため息を吐き出した。
「フロス、私の為に怒ってくれてありがとう。守ろうとしてくれたのは嬉しい。でもごめんね、レイフレッドは私の大事な仲間なの。だから……隣の部屋に運ぶの、手伝ってくれるかな?」
この血だらけになった部屋は後でどうにかするとして。
彼を着替えさせ休ませて。
――私には、まだやる事があるから。
「フロス、レイフレッドの事、お願いね」
ネグリジェを脱いで冒険者衣装に着替えてから。
――私は馬車の中に繋げた玄関のドアを開けた。
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