52 / 370
波乱含みの旅路で。
シリカさんの実家って……?
しおりを挟む
うふふ。うふふふふ。
「……お嬢様」
うへへへへへ。
「――お嬢様、そろそろその顔何とかしてください。もう着きますよ」
そう、今日の夕方にとうとう目的地のシリカさんの故郷に到着する。と、言うか国境は既に越えたから、今は町へ向かっている最中で。
私がついついヤバいヒトみたく笑いが止まらなくなっている理由は勿論レイフレッドである。
いやー、自分の仕事とはいえもう、似合いすぎててもう、にやけ顔が止められない。
もちろんテンションは上がりっぱなし。
おかげでレイフレッドにはドン引きされている。
幸いと言うべきなんだろうけど、あれ以来魔物に遭遇する事もなく、装備の実力を試す機会が無かったのはちょっと残念だったけど。まあそれは今後の楽しみに取って置くとして。
ここに来るまで幾つか通過してきた魔族の国の魔族の町。
……旅の途中で一泊するだけと、そこに居住するのとではまた違うものだと分かっているけど、それでもここまでの印象として思うこと。
――本当に、人間の異種族差別ってしょーもない。
……最初の町でチンピラ天狗に絡まれたけど、他で何か嫌な思いをする場面なんて、ちっとも無かったんだもん。
人間達がレイフレッドに向けていた様な嫌な目で見られる事は一度もなかった。……そういう意味ではあのチンピラ天狗の方がまだまともだった。
――例えここに住んで今とは違う対応をされたとして。
あの町の人間がレイフレッドにした仕打ちより酷いことされるとは思えなくなっている。……あったとして、人間と魔族の力量差故に意図せず、なんてオチな気もする。
私は。果たしてレイフレッド以外の吸血鬼達と上手くやれるだろうか?
地平線の際にようやく見えてきた町に気付き、気を引き締め崩れた表情を何とか元に戻す。
隣に座るレイフレッドの表情が、僅かに固くなっている。……緊張、してるんだろうな。
「友達、いっぱい作ろうね」
「……はい、お嬢様。――でも、僕から離れて勝手に一人で知らない子に付いて行ってはいけませんよ」
「……だいじょぶ、フロス、ご主人様と一緒、ご主人様一人ならない」
お喋りがまだたどたどしいフロスがなんかどや顔しながらレイフレッドに見せつけるように私に抱き付いてくる。
「……何でしょう、頼もしい台詞のはずなのにイラッとしますね」
――そしてこの二人。
何かもうね、私は嫁姑問題で板挟みになった旦那さんの気分よ。本当に嫁姑問題ならセオリーとして嫁に味方するのが正解で、ここで姑の味方すると地雷元を踏み抜く事になる。の、だが。
これってどっちが嫁でどっちが姑なのかしらね~?
二人を宥めつつ進めばいつしか町の門へとたどり着き。
「!、これは……お嬢様! お帰りなさいませ!」
……ん?
門にいる門番の兵隊さん達が揃って頭を下げている。
「お嬢様」の呼び掛けもレイフレッドではなく彼らだ。
そして彼らが頭を下げている先は私の前の馬車。
「ささっ、お通り下さい!」
え、顔パスですか?
……シリカさんの故郷とは聞いたけど。――シリカさんがルクスドで学者をしているのも聞いたけど。
その故郷でシリカさんがどんな立場に居るのか聞いたこと……は……そういえば無かったな……。
からからとキレイな石畳で舗装された道を、これまで通りシリカさんの馬車の後を追って進む。
――道の先にあるのは、この国の王城。
……それは、既視感ありすぎの外観をしていた。もう、まんまだよね。かの吸血鬼の代名詞とも言うべき某伯爵様の城。ルーマニアのドラキュラ城――もといブラン城。
ドイツのノイシュヴァンダイン城に比べると少々野暮ったい骨太感があるけど、城っぽさはこちらの方がらしい。
そして、幾つかの広場や交差点を抜けて尚もその城へと続く道を直進し続けて――ついに城門の前まで来てしまった。
私みたいな平民がこんなとこうろちょろしてたら、門番に「何してる」って咎められてポイと摘まみ出されるお約束イベントが発生――は、せず。
またしてもノーチェックで門が開き中へと通される。
ロータリーを回って馬車を止めると、すぐさま従僕や馬丁らしき人々がやって来る。
「アンリ、レイフレッド。馬車は彼らに預けておけ。行くぞ」
フロスはそっと異空間に隠して馬車を降りると、玄関扉の先にはずらりと居並ぶ使用人達。
「お帰りなさいませ、シリカ姫様」
彼らは見事なまでに揃ったお辞儀で彼女を迎える。
……へー、姫様。
ここは王城で。姫様と呼ばれるシリカさん。
………………。
し、シリカさん……王女様だったんデスカー!?
「……お嬢様」
うへへへへへ。
「――お嬢様、そろそろその顔何とかしてください。もう着きますよ」
そう、今日の夕方にとうとう目的地のシリカさんの故郷に到着する。と、言うか国境は既に越えたから、今は町へ向かっている最中で。
私がついついヤバいヒトみたく笑いが止まらなくなっている理由は勿論レイフレッドである。
いやー、自分の仕事とはいえもう、似合いすぎててもう、にやけ顔が止められない。
もちろんテンションは上がりっぱなし。
おかげでレイフレッドにはドン引きされている。
幸いと言うべきなんだろうけど、あれ以来魔物に遭遇する事もなく、装備の実力を試す機会が無かったのはちょっと残念だったけど。まあそれは今後の楽しみに取って置くとして。
ここに来るまで幾つか通過してきた魔族の国の魔族の町。
……旅の途中で一泊するだけと、そこに居住するのとではまた違うものだと分かっているけど、それでもここまでの印象として思うこと。
――本当に、人間の異種族差別ってしょーもない。
……最初の町でチンピラ天狗に絡まれたけど、他で何か嫌な思いをする場面なんて、ちっとも無かったんだもん。
人間達がレイフレッドに向けていた様な嫌な目で見られる事は一度もなかった。……そういう意味ではあのチンピラ天狗の方がまだまともだった。
――例えここに住んで今とは違う対応をされたとして。
あの町の人間がレイフレッドにした仕打ちより酷いことされるとは思えなくなっている。……あったとして、人間と魔族の力量差故に意図せず、なんてオチな気もする。
私は。果たしてレイフレッド以外の吸血鬼達と上手くやれるだろうか?
地平線の際にようやく見えてきた町に気付き、気を引き締め崩れた表情を何とか元に戻す。
隣に座るレイフレッドの表情が、僅かに固くなっている。……緊張、してるんだろうな。
「友達、いっぱい作ろうね」
「……はい、お嬢様。――でも、僕から離れて勝手に一人で知らない子に付いて行ってはいけませんよ」
「……だいじょぶ、フロス、ご主人様と一緒、ご主人様一人ならない」
お喋りがまだたどたどしいフロスがなんかどや顔しながらレイフレッドに見せつけるように私に抱き付いてくる。
「……何でしょう、頼もしい台詞のはずなのにイラッとしますね」
――そしてこの二人。
何かもうね、私は嫁姑問題で板挟みになった旦那さんの気分よ。本当に嫁姑問題ならセオリーとして嫁に味方するのが正解で、ここで姑の味方すると地雷元を踏み抜く事になる。の、だが。
これってどっちが嫁でどっちが姑なのかしらね~?
二人を宥めつつ進めばいつしか町の門へとたどり着き。
「!、これは……お嬢様! お帰りなさいませ!」
……ん?
門にいる門番の兵隊さん達が揃って頭を下げている。
「お嬢様」の呼び掛けもレイフレッドではなく彼らだ。
そして彼らが頭を下げている先は私の前の馬車。
「ささっ、お通り下さい!」
え、顔パスですか?
……シリカさんの故郷とは聞いたけど。――シリカさんがルクスドで学者をしているのも聞いたけど。
その故郷でシリカさんがどんな立場に居るのか聞いたこと……は……そういえば無かったな……。
からからとキレイな石畳で舗装された道を、これまで通りシリカさんの馬車の後を追って進む。
――道の先にあるのは、この国の王城。
……それは、既視感ありすぎの外観をしていた。もう、まんまだよね。かの吸血鬼の代名詞とも言うべき某伯爵様の城。ルーマニアのドラキュラ城――もといブラン城。
ドイツのノイシュヴァンダイン城に比べると少々野暮ったい骨太感があるけど、城っぽさはこちらの方がらしい。
そして、幾つかの広場や交差点を抜けて尚もその城へと続く道を直進し続けて――ついに城門の前まで来てしまった。
私みたいな平民がこんなとこうろちょろしてたら、門番に「何してる」って咎められてポイと摘まみ出されるお約束イベントが発生――は、せず。
またしてもノーチェックで門が開き中へと通される。
ロータリーを回って馬車を止めると、すぐさま従僕や馬丁らしき人々がやって来る。
「アンリ、レイフレッド。馬車は彼らに預けておけ。行くぞ」
フロスはそっと異空間に隠して馬車を降りると、玄関扉の先にはずらりと居並ぶ使用人達。
「お帰りなさいませ、シリカ姫様」
彼らは見事なまでに揃ったお辞儀で彼女を迎える。
……へー、姫様。
ここは王城で。姫様と呼ばれるシリカさん。
………………。
し、シリカさん……王女様だったんデスカー!?
0
お気に入りに追加
1,081
あなたにおすすめの小説
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
断罪された商才令嬢は隣国を満喫中
水空 葵
ファンタジー
伯爵令嬢で王国一の商会の長でもあるルシアナ・アストライアはある日のパーティーで王太子の婚約者──聖女候補を虐めたという冤罪で国外追放を言い渡されてしまう。
そんな王太子と聖女候補はルシアナが絶望感する様子を楽しみにしている様子。
けれども、今いるグレール王国には未来が無いと考えていたルシアナは追放を喜んだ。
「国外追放になって悔しいか?」
「いいえ、感謝していますわ。国外追放に処してくださってありがとうございます!」
悔しがる王太子達とは違って、ルシアナは隣国での商人生活に期待を膨らませていて、隣国を拠点に人々の役に立つ魔道具を作って広めることを決意する。
その一方で、彼女が去った後の王国は破滅へと向かっていて……。
断罪された令嬢が皆から愛され、幸せになるお話。
※他サイトでも連載中です。
毎日18時頃の更新を予定しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる