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波乱含みの旅路で。

シリカさんの実家って……?

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    うふふ。うふふふふ。

    「……お嬢様」

     うへへへへへ。

    「――お嬢様、そろそろその顔何とかしてください。もう着きますよ」

    そう、今日の夕方にとうとう目的地のシリカさんの故郷に到着する。と、言うか国境は既に越えたから、今は町へ向かっている最中で。

    私がついついヤバいヒトみたく笑いが止まらなくなっている理由は勿論レイフレッドである。
    いやー、自分の仕事とはいえもう、似合いすぎててもう、にやけ顔が止められない。
    もちろんテンションは上がりっぱなし。

    おかげでレイフレッドにはドン引きされている。

    幸いと言うべきなんだろうけど、あれ以来魔物に遭遇する事もなく、装備の実力を試す機会が無かったのはちょっと残念だったけど。まあそれは今後の楽しみに取って置くとして。

    ここに来るまで幾つか通過してきた魔族の国の魔族の町。
    ……旅の途中で一泊するだけと、そこに居住するのとではまた違うものだと分かっているけど、それでもここまでの印象として思うこと。
    ――本当に、人間の異種族差別ってしょーもない。

    ……最初の町でチンピラ天狗に絡まれたけど、他で何か嫌な思いをする場面なんて、ちっとも無かったんだもん。
    人間達がレイフレッドに向けていた様な嫌な目で見られる事は一度もなかった。……そういう意味ではあのチンピラ天狗の方がまだまともだった。

    ――例えここに住んで今とは違う対応をされたとして。
    あの町の人間がレイフレッドにした仕打ちより酷いことされるとは思えなくなっている。……あったとして、人間と魔族の力量差故に意図せず、なんてオチな気もする。

    私は。果たしてレイフレッド以外の吸血鬼達と上手くやれるだろうか?

    地平線の際にようやく見えてきた町に気付き、気を引き締め崩れた表情を何とか元に戻す。
    隣に座るレイフレッドの表情が、僅かに固くなっている。……緊張、してるんだろうな。

    「友達、いっぱい作ろうね」
    「……はい、お嬢様。――でも、僕から離れて勝手に一人で知らない子に付いて行ってはいけませんよ」
    「……だいじょぶ、フロス、ご主人様と一緒、ご主人様一人ならない」
    お喋りがまだたどたどしいフロスがなんかどや顔しながらレイフレッドに見せつけるように私に抱き付いてくる。
    「……何でしょう、頼もしい台詞のはずなのにイラッとしますね」
 
   ――そしてこの二人。
    何かもうね、私は嫁姑問題で板挟みになった旦那さんの気分よ。本当に嫁姑問題ならセオリーとして嫁に味方するのが正解で、ここで姑の味方すると地雷元を踏み抜く事になる。の、だが。
    これってどっちが嫁でどっちが姑なのかしらね~?

    二人を宥めつつ進めばいつしか町の門へとたどり着き。

    「!、これは……お嬢様!    お帰りなさいませ!」
     ……ん?
    門にいる門番の兵隊さん達が揃って頭を下げている。
    「お嬢様」の呼び掛けもレイフレッドではなく彼らだ。
    そして彼らが頭を下げている先は私の前の馬車。
    「ささっ、お通り下さい!」
    え、顔パスですか?
    ……シリカさんの故郷とは聞いたけど。――シリカさんがルクスドで学者をしているのも聞いたけど。
    その故郷でシリカさんがどんな立場に居るのか聞いたこと……は……そういえば無かったな……。

    からからとキレイな石畳で舗装された道を、これまで通りシリカさんの馬車の後を追って進む。
    ――道の先にあるのは、この国の王城。

    ……それは、既視感ありすぎの外観をしていた。もう、まんまだよね。かの吸血鬼の代名詞とも言うべき某伯爵様の城。ルーマニアのドラキュラ城――もといブラン城。
    ドイツのノイシュヴァンダイン城に比べると少々野暮ったい骨太感があるけど、城っぽさはこちらの方が

    そして、幾つかの広場や交差点を抜けて尚もその城へと続く道を直進し続けて――ついに城門の前まで来てしまった。
    私みたいな平民がこんなとこうろちょろしてたら、門番に「何してる」って咎められてポイと摘まみ出されるお約束イベントが発生――は、せず。
    またしてもノーチェックで門が開き中へと通される。

    ロータリーを回って馬車を止めると、すぐさま従僕や馬丁らしき人々がやって来る。
    「アンリ、レイフレッド。馬車は彼らに預けておけ。行くぞ」
    フロスはそっと異空間に隠して馬車を降りると、玄関扉の先にはずらりと居並ぶ使用人達。

    「お帰りなさいませ、シリカ姫様」
   彼らは見事なまでに揃ったお辞儀で彼女を迎える。
    ……へー、姫様。

    ここは王城で。姫様と呼ばれるシリカさん。
    ………………。
   し、シリカさん……王女様だったんデスカー!?
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