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私の攻略対象は。

ルクスドの町並み

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    ルクスドに到着して三日。
    部屋の片付けは昨日の内に終わらせたし、初日にライルと一緒に買った食材も残り僅か。
    私とレイフレッドは街の探検を兼ねて買い物に出かけることにした。
    
    一昨日城壁の外から見たときも壮観だと思ったけど、実際に中を歩いてみると実に合理的で美しく便利な街。
    モンサンミッシェルで言えば、大聖堂の本丸部分にある城はこの街の役所とそこに勤める役人の住居になっている。

    そこを起点に水道橋が小山を取り巻くように螺旋を描き、その橋の上を万里の長城の様に通路にしている。
    通路は歩行者専用で馬車の通行が不可能な代わりに通路中央を吊られて走るタイプのモノレールの線路が敷かれ、一定間隔で路面電車に良くあるタイプの駅がある。
    乗車賃は行商人や観光客向けの一日フリーパスが銀貨五枚、留学正用の一年パスが金貨一枚、住人は無料。
    
    その橋の外側に沿ってやはり等間隔に建てられた円柱搭プラス円錐形屋根の工房や研究室。
    出入り口が通路の高さにあるから、上階に玄関があってその階下に降りる階段があるというのが基本構造になっている。

   逆に通路内側には洞窟への入口となっている扉が並び、各々表札や看板を出している。
 
    更に小山の真北と真南にはそれぞれ一番下から上までを直線距離で結ぶロープウェイがある。
    各階層ごとに駅があり、その側には必ずモノレールの駅がある。
    モノレールのパスでロープウェイも乗れるから、目的の階層まではロープウェイで行き、最寄りの駅までモノレールを使い、後は通路を歩くのがこの街の基本的な移動方法になる。

    ちなみに「階層」と言うのは、この街では上に行けば行く程優秀な学者や職人、高官が住居や仕事場を構えているから定着した呼び名だ。
 
    そしてこの街唯一の平地であり最下層に当たる城壁周り一周に全ての商店と市場が軒を連ね、大変賑わっている。

    と、まあこの通り馬車など邪魔にしかならない街の構造のせいか、スプリング付き馬車はなかったよ。でも、その分馬のも無いし、上下水道完備で全く嫌な臭いがしないのは嬉しい。

    「これは……研究好きな人の理想郷そのものね。一度住んだら他の街へ行こうなんて思えなくなるわ」
    最先端の物が揃うこの街には行商人も集まってくるから、周辺の村で作られる食料の他にも美味しいものが集まってくるし。
    「私も一年と言わずもっと自分磨きしてたい気分になってくるもの」

    「お嬢様、これ見てくださいよ。」
    ワクワクキラキラした目でレイフレッドが見つめていたのは、魔道具屋のショーウィンドウに飾られた、この街の精巧なミニチュア模型。ミニチュアのモノレールやロープウェイが動く仕掛けや、街の明かりがついたり消えたりする仕掛けなど細部にまでこだわった作り。

    あー、男の子って本当にこういうの好きだよね。

    繋がれたままの手に少しドキドキしながらはしゃぐレイフレッドの子供らしい喜びに同意する。
    「仕掛けの方は魔術なんでしょうけど、これだけ精巧な模型はドワーフ族の作品かしらね?」
    「……物凄い値段が付いてますし、そうかもしれません」

    まるで休日の原宿竹下通りのような人混みの中ではぐれないよう繋がれた手を引かれながら店を冷やかして回る。
    その中には人間以外にも獣人や魔族の姿もあって。

    どうやらこの世界の純血の獣人族はまるっと二本足で歩く獣の姿をしている様で、全身モフモフに思わず抱きつきたくなる衝動を抑えるのに苦労したよ……。

    ただ、人間と獣人の混血の子は人の姿に獣耳と尻尾という姿をしている。
    獣人ならではの身体能力は若干純血に劣るが、繁殖能力は高く魔術の扱いも純血より優れる。

    今獣人の国々では純血と混血の間のいさかいが社会問題になってるんだって。……この手の問題ってどこでもあるんだなぁ。

    魔族はエルフやドワーフ族が多い気がする。まあ、学者と職人の街だからねぇ……。それに彼らの姿は特徴的で分かりやすいせいもあるとは思うけど。

    レイフレッドだってサングラスでもして瞳の色を隠し、帽子でもかぶれば吸血鬼なんて見ただけじゃ分からないもん。   

    「今日の夕飯は何にしましょうか……」
     街を一巡りし、そろそろ肝心の買い物を済ませようか、と市場へ足を向ける。
    簡易テントを張る店が延々と軒を連ねる市場には、新鮮な野菜や果物、肉に魚、乾物にハーブ・スパイス各種とありとあらゆる食材が店頭に並べられている。

    「おや、君らは確かお隣さんだったよな?」
    大量の食材に二人して目移りしまくってしばらくふらふらしていると、見覚えのある人が近づいてきた。

    「あ、シリカさん。こんにちわ」
    「どうも。……そちらも買い出しですか?」
    「それもあるけど、まあちょっと野暮用を済ませに来たのさ」

    レイフレッドのそれと良く似た黒髪に赤の瞳。
    「君達、今日の夕飯はもうお決まりかな?」
    「いいえ、買い物をしながら決めるつもりが、むしろ目移りし過ぎて決められなくなりかけてたところで ……」
    「あはははは。まあ気持ちは分かるよ。なら今日はウチで食べないか?    ウチは私の一人住まいでね、普段は気楽で良いがたまに騒がしい食卓が恋しくなるのでね。うちの故郷の料理をご馳走するよ」

    彼女が任せろと胸を叩けば、お母様以上のメロンがふるりと揺れる。
    「わあ、異国のご当地飯ですか!」
    それは是非食べてみたい。

    ……シリカさんは吸血鬼だから。そのご当地飯ならレイフレッドも興味があるだろう。
    そう思ってレイフレッドを見れば、彼は何故か半眼でこちらを見下ろしていた。
    「……ご馳走していただけるのは嬉しいですが、貴女のには付き合いませんよ?」
    ため息一つ溢して、私を彼女から庇うように立った。

    「いやいや少年、私にも位居るからね?    って言うか今まさに済ませたとこって言ったろ?」
    それに対してシリカさんはにこりと笑った。
    「他人のに手を出すのはご法度だろ?    ましてや子供に手ぇ出すとか私は変態か?    ああ?」
    グリグリ拳をツイストさせてレイフレッドの脳天を抉る。

    「……?    何の話でしょう、僕はお嬢様の従者です。お嬢様の護衛として懸念を排除すべきと判断したまでです」
    顔をしかめながらもシリカさんを睨み上げるレイフレッド。
    「おいおい、お前くらいの年なら当然親は教えてるだろ?」
    「……生憎と僕は孤児なので。お嬢様に拾っていただくまでは人間の孤児院で暮らしてましたから、貴女が何を言ってるのかさっぱり分からないんですが」

    レイフレッドの返答を聞いた途端、シリカさんが不自然に固まった。そろそろと拳を引き、改めてレイフレッドを見下ろした。

    「周りに誰か吸血鬼の大人か吸血鬼に近しい種族の者は……」
    「私の国はお恥ずかしながら、異種族への偏見があります。魔族や獣人を見たのは私もここに来てからで」
    「……事情が変わった。飯の後で話さなきゃならない事が出来た。さっさと買い出し済ませて戻るぞ」
   シリカさんはやけに深刻そうな顔をして歩き出した。
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