上 下
23 / 370
私の従者が可愛すぎる。

Lesson:教養

しおりを挟む
    「さて、レイフレッド君が文字の読み書き一通り出来るようになりましたし、そろそろ次の課題に進みましょうか」
    ディルク先生がレイフレッドに合格判定を下したのは最初の授業からだいたい一月経った頃の事だった。

    前世で子供の頃にひらがなを習得するのにどれ程かかったかなんてもう記憶は曖昧だけど、少なくとも一月以上かかったのは間違いない。

   「では次は計算を……」
   ディルク先生が新しい問題集を出すのを見て、レイフレッドが手を挙げた。
    「あの、先生。お嬢様は毎週末にやってる露店でお客様相手にお金のやり取りをするのに当たり前に暗算していらっしゃいます。この時間は本来お嬢様の為のもの、おまけの僕のペースに合わせるのではお嬢様の邪魔になりませんか?」

    「ほう。……お嬢様、126+254の答は?」
    「380です」
    「では1456-1084は?」
    「372です」
    「67×21は?」
    「1407です」
    「……132÷12は?」
    「11です」

    「成る程、確かに四則演算は完璧らしい。――ならばこうしよう。お嬢様がレイフレッド君に加減乗除の計算の仕方を教えるのです」
    ああ、人に教えるのもまた勉強になるよね、って事か。
    「分かりました。でも、流石に今日は用意も何もないので明日からでも良いですか?」

    私は先生の提案を飲み、翌日の授業に幾つかの文章題と、実際に露店で売っている商品を幾つかと本物の鉄貨と銅貨、銀貨・金貨・白金貨を模した紙の硬貨を持参した。

    「計算を教える前に、まずは分かりやすく数字の概念を理解して貰うのが先かなと思ってね」

    1~20まで1・2・3……10・11・12……19・20と記した紙。
    100・1000・10000と書いたそれぞれの紙に、数式分の硬貨を並べていく。

    それらを例として提示した上で尋ねる。
    「レイフレッド、この髪飾りを店でいくらで売っているか覚えているわね?」
    「190リル」
    「じゃあこの袋から190リルを出して」
    一番手っ取り早いのは銀貨一枚と銅貨九枚の組み合わせだけど、銅貨19枚でも不正解ではない。

    が、レイフレッドは当然の様に銀貨と銅貨の組み合わせを選んだ。
    「うん、正解。……これはまあ会計するところを何度も見ているものね。じゃあ次。栞の値段はいくら?」
    もう一度同じ様に答えた値段と同じだけの硬貨を選ばせる。
    栞は一本280リルで銀貨二枚と銅貨八枚。
    「じゃあ、この髪飾りと栞を一緒に会計するならいくら払う?」
    出しっぱなしのままだった硬貨を見下ろしたレイフレッドはじっとそれを眺める。
    「470リル?」
    「正解。それが足し算よ」

    次にレイフレッドに名刺サイズの紙を渡す。
    「これは開店初日に配った『50リル引券』よ。470リルから50リル割り引きしたらいくらになるかしら?」
    レイフレッドは銅貨を5枚除けて数え、「420リル」と答えた。
    「正解、これが引き算よ」

    そこで一度硬貨を片付けさせ、改めて飴玉を幾つかテーブルに置いた。

    「次はこれ。この赤い飴玉を50リルで売るとする。三個買ったらいくらになる?」
    私の問いに、レイフレッドはこれまでと同じように硬貨を並べて答える。
    「150リルだ」
    「そうね、数字としては正解よ」

    次に私は黄色い飴玉を五個並べ、その横にあえて鉄貨10枚ずつ置いていく。
    「仮にこの黄色い飴玉を10リルで売るとして、五個買うとすると……見て分かる通り50リルになる」
    言いながら、鉄貨を置いたのとは反対側に銅貨を一枚ずつ置いていく。
    「10リル銅貨が五枚で50リル、ね」
    次に「もしこの飴玉を値上げして12リルで売るとする」と断り、鉄貨を並べた側にそれぞれ二枚ずつ新たに鉄貨を並べ、次に銅貨を置いた横にも同じく二枚ずつの鉄貨を置いていく。
    「12リルが五個で60リル。こういう考え方で計算するのがかけ算。逆に最初に合計の60リルから飴玉ひとつの値段を考えるのが割り算」
    と、一通りの説明をし。
    「でも、今は一旦かけ算と割り算の事は忘れて良いわ」
    紙に二つの数式を書いて見せた。
    『190+280=470』
    『470-50=420』
    そしてプラス記号とマイナス記号、イコール記号の説明をした上で、『190リルの髪飾りと280リルの栞を買いました。合計はいくらになりますか?』『470リルの買い物をした時、50リル引券を使いました。いくら払えば良いですか?』という文章題を見せる。
    その上で、先生が用意していた足し算と引き算の計算問題集を解いて貰う。

    チラチラと数字と硬貨を見比べながらでも、一ページ全問正解。
    次は硬貨を全て片して二ページ目の問題をやらせると、ペースは落ちたしたまに指を使って数える素振りもあったとはいえやっぱり全問正解。

    「……これは。お嬢様の教え方もユニークですが、レイフレッド君の飲み込みの早さも凄いですね」

    ――こうしてレイフレッドが加減乗除全てをマスターしたのはそれから二ヶ月後の事だった。

    ……私は小学校で三年近くかけて教わったのに!

    「では、次は歴史と地理どちらにしましょうか」
    とディルク先生が言い出し、前世アドバンテージが効かない教科を学ぶのに、優秀過ぎるレイフレッドに負けないよう、前世での受験の時より必死に机にかじりついたにも関わらず、「お嬢様にも苦手な教科はあったんですね」と言われてしまった事は一生の不覚である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈 
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。

黒ハット
ファンタジー
 前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...