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私の従者が可愛すぎる。
Lesson:教養
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「さて、レイフレッド君が文字の読み書き一通り出来るようになりましたし、そろそろ次の課題に進みましょうか」
ディルク先生がレイフレッドに合格判定を下したのは最初の授業からだいたい一月経った頃の事だった。
前世で子供の頃にひらがなを習得するのにどれ程かかったかなんてもう記憶は曖昧だけど、少なくとも一月以上かかったのは間違いない。
「では次は計算を……」
ディルク先生が新しい問題集を出すのを見て、レイフレッドが手を挙げた。
「あの、先生。お嬢様は毎週末にやってる露店でお客様相手にお金のやり取りをするのに当たり前に暗算していらっしゃいます。この時間は本来お嬢様の為のもの、おまけの僕のペースに合わせるのではお嬢様の邪魔になりませんか?」
「ほう。……お嬢様、126+254の答は?」
「380です」
「では1456-1084は?」
「372です」
「67×21は?」
「1407です」
「……132÷12は?」
「11です」
「成る程、確かに四則演算は完璧らしい。――ならばこうしよう。お嬢様がレイフレッド君に加減乗除の計算の仕方を教えるのです」
ああ、人に教えるのもまた勉強になるよね、って事か。
「分かりました。でも、流石に今日は用意も何もないので明日からでも良いですか?」
私は先生の提案を飲み、翌日の授業に幾つかの文章題と、実際に露店で売っている商品を幾つかと本物の鉄貨と銅貨、銀貨・金貨・白金貨を模した紙の硬貨を持参した。
「計算を教える前に、まずは分かりやすく数字の概念を理解して貰うのが先かなと思ってね」
1~20まで1・2・3……10・11・12……19・20と記した紙。
100・1000・10000と書いたそれぞれの紙に、数式分の硬貨を並べていく。
それらを例として提示した上で尋ねる。
「レイフレッド、この髪飾りを店でいくらで売っているか覚えているわね?」
「190リル」
「じゃあこの袋から190リルを出して」
一番手っ取り早いのは銀貨一枚と銅貨九枚の組み合わせだけど、銅貨19枚でも不正解ではない。
が、レイフレッドは当然の様に銀貨と銅貨の組み合わせを選んだ。
「うん、正解。……これはまあ会計するところを何度も見ているものね。じゃあ次。栞の値段はいくら?」
もう一度同じ様に答えた値段と同じだけの硬貨を選ばせる。
栞は一本280リルで銀貨二枚と銅貨八枚。
「じゃあ、この髪飾りと栞を一緒に会計するならいくら払う?」
出しっぱなしのままだった硬貨を見下ろしたレイフレッドはじっとそれを眺める。
「470リル?」
「正解。それが足し算よ」
次にレイフレッドに名刺サイズの紙を渡す。
「これは開店初日に配った『50リル引券』よ。470リルから50リル割り引きしたらいくらになるかしら?」
レイフレッドは銅貨を5枚除けて数え、「420リル」と答えた。
「正解、これが引き算よ」
そこで一度硬貨を片付けさせ、改めて飴玉を幾つかテーブルに置いた。
「次はこれ。この赤い飴玉を50リルで売るとする。三個買ったらいくらになる?」
私の問いに、レイフレッドはこれまでと同じように硬貨を並べて答える。
「150リルだ」
「そうね、数字としては正解よ」
次に私は黄色い飴玉を五個並べ、その横にあえて鉄貨10枚ずつ置いていく。
「仮にこの黄色い飴玉を10リルで売るとして、五個買うとすると……見て分かる通り50リルになる」
言いながら、鉄貨を置いたのとは反対側に銅貨を一枚ずつ置いていく。
「10リル銅貨が五枚で50リル、ね」
次に「もしこの飴玉を値上げして12リルで売るとする」と断り、鉄貨を並べた側にそれぞれ二枚ずつ新たに鉄貨を並べ、次に銅貨を置いた横にも同じく二枚ずつの鉄貨を置いていく。
「12リルが五個で60リル。こういう考え方で計算するのがかけ算。逆に最初に合計の60リルから飴玉ひとつの値段を考えるのが割り算」
と、一通りの説明をし。
「でも、今は一旦かけ算と割り算の事は忘れて良いわ」
紙に二つの数式を書いて見せた。
『190+280=470』
『470-50=420』
そしてプラス記号とマイナス記号、イコール記号の説明をした上で、『190リルの髪飾りと280リルの栞を買いました。合計はいくらになりますか?』『470リルの買い物をした時、50リル引券を使いました。いくら払えば良いですか?』という文章題を見せる。
その上で、先生が用意していた足し算と引き算の計算問題集を解いて貰う。
チラチラと数字と硬貨を見比べながらでも、一ページ全問正解。
次は硬貨を全て片して二ページ目の問題をやらせると、ペースは落ちたしたまに指を使って数える素振りもあったとはいえやっぱり全問正解。
「……これは。お嬢様の教え方もユニークですが、レイフレッド君の飲み込みの早さも凄いですね」
――こうしてレイフレッドが加減乗除全てをマスターしたのはそれから二ヶ月後の事だった。
……私は小学校で三年近くかけて教わったのに!
「では、次は歴史と地理どちらにしましょうか」
とディルク先生が言い出し、前世アドバンテージが効かない教科を学ぶのに、優秀過ぎるレイフレッドに負けないよう、前世での受験の時より必死に机にかじりついたにも関わらず、「お嬢様にも苦手な教科はあったんですね」と言われてしまった事は一生の不覚である。
ディルク先生がレイフレッドに合格判定を下したのは最初の授業からだいたい一月経った頃の事だった。
前世で子供の頃にひらがなを習得するのにどれ程かかったかなんてもう記憶は曖昧だけど、少なくとも一月以上かかったのは間違いない。
「では次は計算を……」
ディルク先生が新しい問題集を出すのを見て、レイフレッドが手を挙げた。
「あの、先生。お嬢様は毎週末にやってる露店でお客様相手にお金のやり取りをするのに当たり前に暗算していらっしゃいます。この時間は本来お嬢様の為のもの、おまけの僕のペースに合わせるのではお嬢様の邪魔になりませんか?」
「ほう。……お嬢様、126+254の答は?」
「380です」
「では1456-1084は?」
「372です」
「67×21は?」
「1407です」
「……132÷12は?」
「11です」
「成る程、確かに四則演算は完璧らしい。――ならばこうしよう。お嬢様がレイフレッド君に加減乗除の計算の仕方を教えるのです」
ああ、人に教えるのもまた勉強になるよね、って事か。
「分かりました。でも、流石に今日は用意も何もないので明日からでも良いですか?」
私は先生の提案を飲み、翌日の授業に幾つかの文章題と、実際に露店で売っている商品を幾つかと本物の鉄貨と銅貨、銀貨・金貨・白金貨を模した紙の硬貨を持参した。
「計算を教える前に、まずは分かりやすく数字の概念を理解して貰うのが先かなと思ってね」
1~20まで1・2・3……10・11・12……19・20と記した紙。
100・1000・10000と書いたそれぞれの紙に、数式分の硬貨を並べていく。
それらを例として提示した上で尋ねる。
「レイフレッド、この髪飾りを店でいくらで売っているか覚えているわね?」
「190リル」
「じゃあこの袋から190リルを出して」
一番手っ取り早いのは銀貨一枚と銅貨九枚の組み合わせだけど、銅貨19枚でも不正解ではない。
が、レイフレッドは当然の様に銀貨と銅貨の組み合わせを選んだ。
「うん、正解。……これはまあ会計するところを何度も見ているものね。じゃあ次。栞の値段はいくら?」
もう一度同じ様に答えた値段と同じだけの硬貨を選ばせる。
栞は一本280リルで銀貨二枚と銅貨八枚。
「じゃあ、この髪飾りと栞を一緒に会計するならいくら払う?」
出しっぱなしのままだった硬貨を見下ろしたレイフレッドはじっとそれを眺める。
「470リル?」
「正解。それが足し算よ」
次にレイフレッドに名刺サイズの紙を渡す。
「これは開店初日に配った『50リル引券』よ。470リルから50リル割り引きしたらいくらになるかしら?」
レイフレッドは銅貨を5枚除けて数え、「420リル」と答えた。
「正解、これが引き算よ」
そこで一度硬貨を片付けさせ、改めて飴玉を幾つかテーブルに置いた。
「次はこれ。この赤い飴玉を50リルで売るとする。三個買ったらいくらになる?」
私の問いに、レイフレッドはこれまでと同じように硬貨を並べて答える。
「150リルだ」
「そうね、数字としては正解よ」
次に私は黄色い飴玉を五個並べ、その横にあえて鉄貨10枚ずつ置いていく。
「仮にこの黄色い飴玉を10リルで売るとして、五個買うとすると……見て分かる通り50リルになる」
言いながら、鉄貨を置いたのとは反対側に銅貨を一枚ずつ置いていく。
「10リル銅貨が五枚で50リル、ね」
次に「もしこの飴玉を値上げして12リルで売るとする」と断り、鉄貨を並べた側にそれぞれ二枚ずつ新たに鉄貨を並べ、次に銅貨を置いた横にも同じく二枚ずつの鉄貨を置いていく。
「12リルが五個で60リル。こういう考え方で計算するのがかけ算。逆に最初に合計の60リルから飴玉ひとつの値段を考えるのが割り算」
と、一通りの説明をし。
「でも、今は一旦かけ算と割り算の事は忘れて良いわ」
紙に二つの数式を書いて見せた。
『190+280=470』
『470-50=420』
そしてプラス記号とマイナス記号、イコール記号の説明をした上で、『190リルの髪飾りと280リルの栞を買いました。合計はいくらになりますか?』『470リルの買い物をした時、50リル引券を使いました。いくら払えば良いですか?』という文章題を見せる。
その上で、先生が用意していた足し算と引き算の計算問題集を解いて貰う。
チラチラと数字と硬貨を見比べながらでも、一ページ全問正解。
次は硬貨を全て片して二ページ目の問題をやらせると、ペースは落ちたしたまに指を使って数える素振りもあったとはいえやっぱり全問正解。
「……これは。お嬢様の教え方もユニークですが、レイフレッド君の飲み込みの早さも凄いですね」
――こうしてレイフレッドが加減乗除全てをマスターしたのはそれから二ヶ月後の事だった。
……私は小学校で三年近くかけて教わったのに!
「では、次は歴史と地理どちらにしましょうか」
とディルク先生が言い出し、前世アドバンテージが効かない教科を学ぶのに、優秀過ぎるレイフレッドに負けないよう、前世での受験の時より必死に机にかじりついたにも関わらず、「お嬢様にも苦手な教科はあったんですね」と言われてしまった事は一生の不覚である。
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