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スキル「クリエイト」を獲得しました。

ルームメイトが美少年でした。

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    「えーと、君……君はこの部屋だね。時間になったらまた呼びに来るからそれまでは部屋で待ってて」

    待つことしばし。

    不意に外で声がして、扉が開く。
    「あっ、もう君のルームメイトは来てるのか。じゃあ、時間になったらまた呼びに来るからそれまでは部屋で待っててね」
    少年を部屋に押し込み、言うだけ言ってあっという間に行ってしまう。

    残された少年は、私の物より一回り小さい鞄を手にしたままただ黙って立ち尽くすばかり。

     「あの、初めまして。私はアンリ。貴方の名前は?」
    この世界では珍しい黒髪の少年に取り敢えず声をかけてみる。
     「…………」
    白色人種並みに白いこの街の人々。だがそれより尚青白い色をした顔色の少年は、黙したままじろりと暗くよどんだ紅色の瞳でこちらを見下ろした。
     「えーと、ベッドだけど君は上と下どっちが良い?」
     「どっちでも良い。僕に話しかけるな」
     「……あー、うん、じゃあ私は下を使うから」
    荷物を上に持ち上げられないからね。
    少年は、頷くことすらなく手にした鞄を上に放り上げると、そのまま梯子を上ってベッドの二階に落ち着いてしまった。
    背丈は三歳児の私が見上げる程。
    しかし、年の頃からするとやけに骨張った体つきをしていた。

    ……ああ、ファーストコンタクトに見事に失敗しちゃったよ。
     外見から多分七歳位と思われる少年相手に、見た目は三歳児でも中身の仕様は18+3歳のはずの私が!

    でも、あの目。

    ただの無愛想とか単純な話じゃ無い気がする。
    好奇心で突つけば大惨事になる、かといって見て見ぬふりはしちゃいかんやつ。
    あれは、虐待か苛めか何かで心が壊れかけている類いの目だ。
    何の事情も知らないで無遠慮に同情でもしようものならお互いに火傷する。

    ……見た目そのものはとんでもない美少年なだけに、触れたら脆い硝子細工のように壊れてしまいそうで痛々しい。

     気まずい空気が漂う中、部屋の扉をノックする音が聞こえたときには正直「助かった」と思ってしまった。
    廊下に出ると、他の扉の前にも二人ずつ、計12人の参加者がいた。
    当然皆私より年上で、女の子も私含めて三人だけ。
    彼女達は友人同士で参加した様で、同室を与えられたらしい。
    私達を呼びに来たのはユリアさんではなく、声からして先程私のルームメイトの彼を案内してきた男性だ。

    「ええと、皆揃ったところで点呼を取ります。アーウィン君、アンリさん、エリカさん、カレンさん、ジル君、セロ君、テッド君、トビー君、ニケ君、ネビル君、ヘクター君、レイフレッドく――」

    「はあっ!?    レイフレッドだと!?」

    手慣れた感じで点呼を取り始め、最後の十二人目の名前を彼が口にしたとたん、十歳位の少年が声を荒げてその名を吐き捨てた。
    「ふざけんな、女が3人も――しかも一人は子犬ってのも気に食わないが、それより何よりあり得ねぇ!    何で人間以下のバケモンが居やがるんだよ!」
    怒鳴る彼が指指したのは私達。

   ――ちなみに子犬と言うのは三歳から五歳児を表す俗語で、三歳未満の子は雛鳥、七歳以下の子を騎馬、十五歳以下を鳩、十八歳以下を鷹と例える。

    「そいつは孤児院の、親も居ねぇ穀潰し共の中でも血を啜るバケモンなんだぞ!    何でそんな奴がここに居る!?」
    がなり散らす彼が女の子達や私を揶揄した時はその彼に批判的な視線を向けていた子達も、彼――レイフレッドの時だけは揃って嫌悪の視線をこちらへ向けた。

    まるで、トブネズミでも見るような目を向けられた彼は、それに対して淡々とつまらなそうに言った。
    「僕は規定通りに参加申込みをして、問題無く受理されたので来ただけですよ。おっしゃる通り僕は孤児ですから、早々に職を定めて学び就職口を見つけなければ、待っているのは奴隷落ちの未来ですから」

     ――ああ。分かった。分かって、しまった。彼の絶望の理由、少なくともその一端が簡単に想像できてしまった。

    「うるせぇ、吸血鬼が!    とっとと国へ帰れよ!」
    「ええ、帰りますよ。働いてお金が貯まったらすぐにでも」
    「はっ、お前なんかを雇う奴がいるわけ――」
    「居るわよ、ここに」
    「はぁ!?」
    「私が、アンリ=カーライルが雇うわよ。彼にその気があるならね」
    この程度では彼の助けには足りないだろうが、見て見ぬ振りは出来そうにないし。

    「ほら貴方がキャンキャンと可愛らしい子犬の様に吠えてる間にも時間は過ぎていくのよ。私の貴重な時間を無駄にするだけならそろそろ口を閉じて下さる?    さあ、貴方は続きをどうぞ?」
    悪役令嬢らしく口撃で相手を黙らせた上で後の始末を大人に丸投げする。
    「あ、ああ……えーと、既に上で受理された以上は参加を認め、異論は認めない事になってますので……。時間も押してますし、取り敢えず移動しましょう。責任者のユリア女史が鞭を持ち出して来ないうちに」

    ――ん!?    今何か複数の意味で危ない単語が含まれていた様な……?

    「遅いぞ!    仮にも職人を目指すつもりがあるなら時間位守って当然だ!    裁縫職人だろうが鍛冶職人だろうが料理人だろうが時間も守れねぇ奴に仕事任せられるか!」
    「――ッ、それはっ、ここに居ちゃいけねぇ野郎がいたか――」
    「遅れて申し訳ありません。どうか続けてプログラムに参加する事をお許し下さい」
    つまらない言い訳を当然の様に口にしようとする子犬君を遮り、私はユリアさんに対して謝罪した。

    「おい、何一人でイイコぶってんだよガキのクセに」
    「ああそうだ、お前たち全員鳩以下のガキ共だ。それは承知でこちらもプログラムを組んでる。だが、お遊び気分のオコチャマの為のお遊戯会じゃねぇんだよ。ガキ以下のオコチャマま今すぐ荷物持って帰んな!」
    大変ドスの効いた叱責が飛ぶ。

    「――申し訳ありません、どうか参加をお許し下さい」
    レイフレッドがすぐさま謝罪する。
    続いて少女達、それから順に頭を下げる子供達の中、子犬君だけがふるふる震えて動かない。

    「……俺は、俺は間違ってない。皆言ってるんだ、バケモンだって。だから謝んねーぞ!    帰れって言うんなら帰ってやる!    おら帰るぞジル!」
    「え、え?     ボクも帰るの!?」
    「あ?    お前だって言ってたじゃないか、あいつの事バケモンだって!    嫌だろ、バケモンと一緒に一週間なんて!」

     彼の叫びに、先に謝罪した子達まで賛同するかの様に顔をしかめた。
    「……そうね、今回は残念だけど――」
    「また次の会に申し込めば……」 
    「あの、大変申し訳ありません。遅刻の件は私達の落ち度と認めますが、やっぱり今回は参加したくありません」

    最初の一人が出ればあれよあれよと、赤信号も皆で渡れば怖くないとばかりに退室者が続出し、最終的に残ったのはレイフレッドと私だけだった。

    「はあぁぁぁ、なっさけないねぇ全く」
    静かになってしまった部屋に、ユリアさんの声が一際大きく響く。
    「で、お前らは引き続き参加すると言う事で良いんだな?」
    「はい、勿論ですユリアさん。よろしくお願いします」
    「……お願いします」
    「まあいい、今日から一週間の予定を説明する。適当に座れ」
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