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初めてのパーティーに出席します。

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    パーティー会場は、お屋敷の本館の隣に建つ別館のホール。
    これまで本館から出た事がなかったけど、その本館だけで十分過ぎる程広いと思っていた。
     でもこうして外に出るとそれも過小評価だったのが分かる。

    東京ドームと同じ程の広さの敷地に、我が商会が経営する、お貴族様や富裕層向けの百貨店本店と、庶民向けのスーパーの本店。
    店の従業員用の寮、我が家の使用人用の寮。
    本館と、そして今日の様なパーティーや商談相手の接待等に使う別館が建ち並ぶ。

    実際我が家だけのプライベート空間は本館だけだけど、今度お店の方も見に行ってみたい。

    本館から続く渡り廊下に差し掛かると、別館のざわめきがここまで聞こえていた。
    「既にお客様方には旦那様と奥方様が歓迎のご挨拶を済まされております。お嬢様はまず皆様の前でご挨拶をなさって下さい。その後は旦那様や奥方様と共に主だったお客様へのご挨拶が終わりましたら、お好きにご飲食なりお友達を見つけてご歓談なりご自由になさって結構ですよ」
    ちなみに今日のパーティー、一応礼儀として私の婚約者様にもお送りしている。
    まぁ、普通に「お断りだ」と素っ気ない返信が届けられたその日はやけにお父様の笑顔に迫力があって怖かった……。

    それはともかく。
    何事も最初と結果が全て。
    過程はあくまで付加価値。
    前世での生ぬるい環境下でならともかく、身分制度が絶対のこの世界で平民の身分で貴族を相手にするなら、まして生家の家業が商売というある種の勝負事である以上は甘っちょろい事は言っていられない。

    いざ、参る!

   今日の警備の為に臨時に雇った傭兵さんが開けてくれた扉をくぐり、お父様とお父様がいらっしゃる舞台の上に立つ。
    「皆様、初めまして。私はカーライル商会代表、ユーリ=カーライルが長女アンリ=カーライルです。本日は、私の三歳の誕生日のパーティーにご参加いただきありがとうございます」
    お母様にしごかれたカーテシーと共に挨拶の弁を述べる。

    ほぅ、とあちこちから言葉にならないため息が聞こえてくるのを内心しめしめとほくそ笑みながら、場をお父様に譲って一歩下がった。
    「ご覧の通り、大変優秀な娘に恵まれまして。これからの成長が楽しみでなりません。ぜひ皆様のお力添えを賜れればと思います」
     おおふ、この公衆の面前で親バカ垂れ流しは止めてくださいお父様!

     会場には微笑ましさ半分、呆れ混じりの苦笑半分といった微妙な空気が漂う。
    「――お父様……」
    「う、ん。あー、では、ごゆるりとパーティーをお楽しみ下さい」
    お父様はそそくさと舞台を降り、私を抱いてまずは体格たくましいガテン系爺様へ歩み寄った。

     「お義父上」
     「おう、天下のカーライルの頭も娘の前ではただの親バカか、ははっ!」
     「いえいえ、ただの娘ならここまで自慢いたしませんよ。本当に優秀なんですよ、この娘は」
     「ンなモン今しがたの挨拶聞いてりゃ分かるわ。あんなしっかりした挨拶のできる三歳児がそうほいほい居てたまるか。ウチのガキ共が三歳だった頃にはアレもイヤこれもイヤと我が儘放題で大変だったんだぜ?」
     ああ、本来の三歳児ならイヤイヤ期真っ最中だよね。本当ならもう少し子供らしい演技をするべきなんだろうけど。

    「アンリ、この方はお母様のお父様、つまみアンリのお祖父様だ。町の職人を束ねる職人ギルドで一番偉い方なんだ」
    「お祖父様、初めまして。アンリと申します。ところでお祖父様、職人ギルドというのは本当に全部の職人さんをまとめていらっしゃるのですか?    鍛治師や木工職人さんだけじゃなく?    今日、鑑定式で職業が飴細工職人だという方をお見かけしたのです。私、他にどんなお仕事があるのか興味があるのです。今度、お仕事の邪魔にならない時に見学に行ってはいけませんか……?」
     私は時間が惜しい。下手な誤魔化しに余計な力を割くより、多少不審がられても力が欲しい。

    「ああ、勿論職人と名の付く職業に就く者は皆ワシらの比護下にある。その彼らが日々どんな仕事をしているのか知らぬとあらばギルドの仕事は成り立たん。だから、ギルドの新人職員研修としてあちらこちらの工房に放り込む。ウチのガキ共も皆、物心ついた者から順に工房回りをさせておる。お前の母ちゃんもやったんだ。その気があるならいつでも歓迎しよう」
    シュワルツェネッガーみないな強面でニカッと笑いながら請け負ってくれるお祖父様。
    「わあ、ありがとうございますお祖父様!    その時はよろしくお願いします」
    「うむ。可愛い孫の為だからな」
    「お父様、先程私の旦那様に言った言葉をよく思い出して下さいな。今のお父様は立派な爺バカですわ」

    「ほう、鬼神と呼ばれてやり手の冒険者にすら恐れられる爺も孫娘にゃ勝てないのか。これは珍しいモンを見たわ」

    「む、ユリス商会のとこの坊か」
    「おいおい、三十過ぎのおっさんに向かって坊や呼ばわりもねーだろ。そりゃウチの商会の頭は未だにウチの親父で、俺がいつまで経っても跡取り息子のままなのは言い訳しようもないけどよぉ」
    「はは、ユリスの旦那は昔から地方の農地を旅して回って旨いものを見つけては積極的に広めてきたやり手だからね。今も年を思えば信じられないくらいに元気なのだから、あれで隠居しても結局大人しくなるとは思えませんよ」
    へえ、日本のテレビ番組に地方の美味しいものを食べて回る番組があったけど、あれをリアルに仕事にしてた人か……。
    旅ってのも面白そう。冒険者もやっぱり捨てがたいよね。
    戦闘スキルがいくらかあったし、最悪自分の戦闘スキルがダメでも護衛雇って行商で商売人修行とか……。

    「アンリ、彼はユリス商会の跡取りで、いつも野菜を中心に肉や魚をうちに卸してくれる仲買の商人だ」
    「初めまして、アンリ=カーライルです。ユリス様のお父様は、旅をして織られたのですね。いつかお話をお伺いしてみたいです」
    「そーか?    あいつの昔自慢なんてもう何度も聞かされてて、皆もう飽き飽きしてるんだ。一応会頭だから皆へーへー効いてるけど、テキトーに聞いてるのが丸分かりだからなあ。新たな聞き手が見つかったとありゃ喜んで丸一日は延々喋り続けるぜ」

    「いやいや、話をさせたら長いのは貴方も同じじゃないですか。少なくとも私は貴方とは女性について語り合いたくありません」

    と、また新たな声が会話に加わる。
    「初めまして、お嬢様。私は飲食店の経営をしておりましてな、今は女性向けのグルメ雑誌を担当している関係で、ユリスの旦那やカーライル夫妻には大変お世話になっているのですよ」
    「初めまして、アンリです。飲食店ですか、どの様な料理を出していらっしゃるのですか?」
    「私共の店ではケーキとお茶を取り扱ってございます。ご機会がありましたら、お嬢様も是非足をお運びください。特に茶葉にはこだわっておりまして、これだけはうちで独自に仕入れておりまして。お得意様には特別に茶葉の卸しもさせていただいておりますよ」
    「アンリ、お母様は彼の店の常連でね、お母様が家で飲む用だけは彼から茶葉を買っているんだ」
    「あっ、だからお母様と一緒に飲むときだけいつもよりお茶が美味しいのですね!?」

    「おや、お嬢様もお目が高い。うちのお茶をお気に召していただけているとは光栄です」
    「ああ、お前の店に連れてくと大抵の女は喜んでくれるよな。一度親父にあの茶をやったら随分複雑な顔してたぜ。美味くて満足なのに、そいつを自分のとこで扱えない悔しさとでな」
    「はあ成る程、去年ユリスの旦那にやたらしつこくされて迷惑を被ったのはあなたのせいだったのですね。次から貴方が女性連れでうちの店に来たなら、貴方の分にだけ酢でも混ぜてやりましょうか」

    「……おい、アンリ連れて次に行け。ここから先の醜い大人の争いを子供に見せちゃいかん」
     お祖父様に促されその場を離れると、また人が寄ってくる。

    一通り挨拶を終えた頃には疲れきっていて、結局ご馳走はあんまり食べられなかったよ、トホホ……。
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