1 / 370
序章
旅立ち
しおりを挟む
「……はぁ、お嬢様。本当に行かれるおつもりなのですか?」
もはや諦めきった呆れの色を称えた濃いめの紅茶色の瞳をこちらへ向け、溜息混じりの台詞をそれでも往生際悪く口にするのは、私付きのメイドのルフナ。
私よりちょうど十歳年上の十七歳なんだけど、顔は童顔な癖に頭が固いというか、考えや感覚が古臭い傾向にある。
瞳と同じ、赤み混じりの茶髪をきっちりまとめ上げ、メイドのお仕着せも隙無くかっちり着こなしている。
そんな彼女に「お嬢様」と呼ばれる私は別に貴族のお姫様なんかじゃない。
確かに私はこの国では名の通った商家の娘で、ごく一般的な生活水準からすればかなり裕福な暮らしをさせて貰っているけれど、身分的には平民。
食料品から日用雑貨まで、幅広く取り扱う商店――日本で言うならスーパーやデパートの様な業態の店舗をチェーン展開するカーライル商会の会長を務めるお父様の一人娘、アンリ。
私ことアンリ=カーライルは、前世の記憶を持つ転生者だ。
今でこそ綺麗な銀髪にシルバーの瞳に白い肌と欧州系人種の様な色味と、年相応より大人っぽく見える美女タイプの顔立ちを持つ私。
だけど前世の私は、染めた事も無い黒髪に、清潔に保つ以上の手入れを全くしていない、目立たないタイプの人間だった。
成績だって基本可もなく不可もなく。
ただ運動神経だけは最悪で、体育の成績だけは常に最下位、アウトドア系の趣味は尽く壊滅的。
代わりにインドア系の趣味は得意分野で、料理・手芸・ピアノ・小説書き等、放課後や休日の時間の大半はそれらに費やした。
ハンドクラフトで作った作品はネットショップに出品して小遣い稼ぎに。
小説はネットにアップしてお気に入り件数が増えるのを見てニマニマしたり。
もちろんラノベを読んだり、ゲームをするのだって大好きだった。
なのに、高校の学校主催の卒業旅行でスキー教室に強制参加させられた挙げ句に雪崩に巻き込まれ、気付いたら、アンリ=カーライルとして生まれ変わっていた。
そう、前世でプレイした乙女ゲームの中の一タイトル、「目指せ勝ち組!~君と歩む花道~」の、一 悪役令嬢アンリ=カーライルとして!
今日この日の旅立ちは、悪役令嬢アンリとしての運命から脱却するための第一歩なのだから、いくらルフナが渋い表情をしようと取り止める訳にはいかない。
「……はぁ、……ではくれぐれもお嬢様の事をお願いしますよ、レイフレッド。お嬢様に万が一の事があれば商会ごとカーライル家は潰されます。くれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も、よろしくお願いしますね、レイフレッド」
ルフナが、この旅に同行するアンリの従者にしつこく念押しする。
漆黒の髪に紅の瞳、私より尚白い肌色をした少年は、うんざり顔のまま無言でただただ首肯を繰り返す。
「もう、そういう話は昨夜の内に嫌って程したじゃない。いい加減出発するわよ、ほら、レイフレッドも早く乗った乗った!」
アンリが手綱を握れば車輪がゆっくり回りだし、レイフレッドが慌てて車体にしがみつき、ひょいと車内に身体を押し込んだ。
「行ってきま~す!」
ひらひら手を振る私を見送るのはルフナ一人。
ほんの一週間前に七歳になったばかりの私に与えられたタイムリミットは五年。
十二歳になる年の春が期限の挑戦が、今、始まった。
もはや諦めきった呆れの色を称えた濃いめの紅茶色の瞳をこちらへ向け、溜息混じりの台詞をそれでも往生際悪く口にするのは、私付きのメイドのルフナ。
私よりちょうど十歳年上の十七歳なんだけど、顔は童顔な癖に頭が固いというか、考えや感覚が古臭い傾向にある。
瞳と同じ、赤み混じりの茶髪をきっちりまとめ上げ、メイドのお仕着せも隙無くかっちり着こなしている。
そんな彼女に「お嬢様」と呼ばれる私は別に貴族のお姫様なんかじゃない。
確かに私はこの国では名の通った商家の娘で、ごく一般的な生活水準からすればかなり裕福な暮らしをさせて貰っているけれど、身分的には平民。
食料品から日用雑貨まで、幅広く取り扱う商店――日本で言うならスーパーやデパートの様な業態の店舗をチェーン展開するカーライル商会の会長を務めるお父様の一人娘、アンリ。
私ことアンリ=カーライルは、前世の記憶を持つ転生者だ。
今でこそ綺麗な銀髪にシルバーの瞳に白い肌と欧州系人種の様な色味と、年相応より大人っぽく見える美女タイプの顔立ちを持つ私。
だけど前世の私は、染めた事も無い黒髪に、清潔に保つ以上の手入れを全くしていない、目立たないタイプの人間だった。
成績だって基本可もなく不可もなく。
ただ運動神経だけは最悪で、体育の成績だけは常に最下位、アウトドア系の趣味は尽く壊滅的。
代わりにインドア系の趣味は得意分野で、料理・手芸・ピアノ・小説書き等、放課後や休日の時間の大半はそれらに費やした。
ハンドクラフトで作った作品はネットショップに出品して小遣い稼ぎに。
小説はネットにアップしてお気に入り件数が増えるのを見てニマニマしたり。
もちろんラノベを読んだり、ゲームをするのだって大好きだった。
なのに、高校の学校主催の卒業旅行でスキー教室に強制参加させられた挙げ句に雪崩に巻き込まれ、気付いたら、アンリ=カーライルとして生まれ変わっていた。
そう、前世でプレイした乙女ゲームの中の一タイトル、「目指せ勝ち組!~君と歩む花道~」の、一 悪役令嬢アンリ=カーライルとして!
今日この日の旅立ちは、悪役令嬢アンリとしての運命から脱却するための第一歩なのだから、いくらルフナが渋い表情をしようと取り止める訳にはいかない。
「……はぁ、……ではくれぐれもお嬢様の事をお願いしますよ、レイフレッド。お嬢様に万が一の事があれば商会ごとカーライル家は潰されます。くれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も、よろしくお願いしますね、レイフレッド」
ルフナが、この旅に同行するアンリの従者にしつこく念押しする。
漆黒の髪に紅の瞳、私より尚白い肌色をした少年は、うんざり顔のまま無言でただただ首肯を繰り返す。
「もう、そういう話は昨夜の内に嫌って程したじゃない。いい加減出発するわよ、ほら、レイフレッドも早く乗った乗った!」
アンリが手綱を握れば車輪がゆっくり回りだし、レイフレッドが慌てて車体にしがみつき、ひょいと車内に身体を押し込んだ。
「行ってきま~す!」
ひらひら手を振る私を見送るのはルフナ一人。
ほんの一週間前に七歳になったばかりの私に与えられたタイムリミットは五年。
十二歳になる年の春が期限の挑戦が、今、始まった。
0
お気に入りに追加
1,084
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢を拾ったら、可愛すぎたので妹として溺愛します!
平山和人
恋愛
転生者のクロエは諸国を巡りながら冒険者として自由気ままな一人旅を楽しんでいた。 そんなある日、クエストの途中で、トラブルに巻き込まれた一行を発見。助けに入ったクロエが目にしたのは――驚くほど美しい少女だった。
「わたくし、婚約破棄された上に、身に覚えのない罪で王都を追放されたのです」
その言葉に驚くクロエ。しかし、さらに驚いたのは、その少女が前世の記憶に見覚えのある存在だったこと。しかも、話してみるととても良い子で……?
「そういえば、私……前世でこんな妹が欲しかったって思ってたっけ」
美少女との出会いが、クロエの旅と人生を大きく変えることに!?
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる