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唯一の使用人は

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 ぷつりといつもの様に彼の牙が肌を破り、首筋に埋め込まれる。
 そこから溢れる血を一口、二口啜り、彼は満足そうに私から離れていく。

 ――そう。彼、セスは吸血鬼族。
 10日に一度は人間の血を摂取しなければ、他のどんな栄養価の高い食物を摂取していようとも生きていられない。

 「給料は要りません。衣食住はこの空間内のものがあれば充分ですから。あとは貴女の血を定期的にいただけるなら。砂漠だろうと海の果であろうとお供致しますよ」

 多分ゲームのシナリオ通りに国外追放されるんだろうな、という可能性が濃厚になり始めた頃。
 「今ならまだ間に合うけど、どうする? 契約解除する?」

 そう尋ねた答えがそれだった。

 ちなみにこの世界の吸血鬼の弱点にお日様は含まれない。
 が、彼自身の体質として日焼けするとすぐ肌が赤くなるため、あまり長い事直射日光の当たる場所に無防備に居続ける事はできない。
 だから、この数日彼は空間にこもりきりの生活をさせていた。

 「……しかし、小屋が完成したなら、少なくとも数日に一度は掃除に出向かねばならないでしょうね」
 「いや、それは私が……家事担当が居るから……」

 「はぁ。薬学や錬金術はお得意な様ですが。残念ながら家事も頑張ってはいらっしゃっても、料理以外は素質、ありませんよ? 人には向き不向きもありますしね」

 と、ダメ出しを食らう。

 「それでももう少し経験を積めばまだ何とかなりそうですが、まだあれじゃあ使用人見習いにも及びませんよ」
 「う……」

 「それで。明日は水盤造りでしたっけ?」
 「ついでに井戸と水路も作るつもりよ。……流石にそれらも作るとなると明日一日じゃ工事は終わらないでしょうけど」
 「では、料理担当がしばらくスタミナ食を作れるように調整しておきましょう」
 「……出来る従者が居るのはありがたい事なんだけど」
 「ふふ、でしょう?」

 ――ちなみに彼を雇ったのは私自身。

 ただし、スラムで拾ったとかそういうテンプレ事案ではない。
 彼は元々私が通っていた学園の先輩……

 某子爵家当主がうっかり作っちゃった庶子で、彼の扱いに困ったそいつは世間体を気にして学園には通わせるものの、家では何かと甚振り冷遇していた。
 ……ちなみに彼もゲームの攻略対象で、私の最推しキャラだ。
 何故か公式の人気ランキングでは下位を行き来していた彼だけど。

 ヒロインちゃんは王子やその取り巻きには積極的に迫って行ってたけど、セスには欠片も興味を示さなかった。

 ……勿体ない! ……と。
 シナリオ改変のリスクを犯してでも、ついつい彼が欲しくなり攻略しちゃったんだよね。

 まぁ、ヒロインではなく悪役令嬢の口説きなんで正規のストーリーとはだいぶ異なる展開が続いたけど。

 今、最推しが私の唯一の味方でいてくれるんだから、私にとってはかなりハッピーな環境なのだよね。
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