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幼い彼女が求めたものは
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――テンプレかよ。
その記憶が戻った瞬間に彼女がまず思ったのはその一言。
「……そう言えば流行っていたわね、悪役令嬢モノ」
そう、彼女が転生したのはとある恋愛シュミレーションゲームの悪役令嬢。
カナン=ルイゼリア公爵令嬢。
この世界に産み落とされる前、母親の懐妊が知れた直後から、女児であれば第二王子の、男児であれば第二王子と同腹の第一王女との婚約が決められていた。
そして、カナンは令嬢として生を受け、その瞬間に第二王子の婚約者と決められた。
……まぁ、貴族――それも高位貴族には珍しくもない話ではあるのだが。
正妃腹の第一王子や第二王女は大変出来が良いと評判なのだけど。
側室筆頭の元伯爵令嬢を母に持つ第二王子はだいぶ甘やかされて問題児と化しているともっぱらの噂。
同腹の第一王女も五十歩百歩な噂ばかりが流れる。
頭を抱えた王は、早々に婚約者を決め、彼らが売れ残るのを阻止しようとこの縁談をゴリ押しで決めた。
そして、そんな婚約者とカナンが初対面したのは5歳の時。
その、初対面の際の彼の最初の発言が。
「何だ、このブス! お前みたいな女が王子である俺の嫁になれると思うな!」
――だった。
王様は慌てて取り繕い誤魔化そうとしたものの、王子の主張はそれから十年ちょっと過ぎてもあまり変わらず。
年齢により受けた教育の量から多少言い回しは貴族らしく迂遠なものになっていったけれど、結局要約すれば5歳の時のその発言と大差ないセリフを幾度となくぶつけられ。
そして、果てはお約束の学園の卒業パーティーで。
「カナン=ルイゼリア公爵令嬢!
ただ今この時を持ってお前との婚約を破棄し、私は真実の愛により身も心も結ばれた、このナルーシス男爵令嬢との婚約を正式に決めた。
お前には、この未来の王妃に対し嫉妬から陰湿ないじめを行ったとこのナルーシスから聞いている。
誠にけしからん。
故に、お前を直ちに国外追放とする!
近衛兵! 連れて行け!」
そんな流れで、カナンは護送馬車に詰め込まれ、周辺国のどこの国も所有したがらない不毛の砂漠へと運ばれ捨てられた。
――とまぁ、そんな訳で今私はここに居るのだけれど。
『いや、私達皆私なんだから、その辺はよ~く知ってるって』
そして、この目の前に居る複数の私達と、この空間が何か、と言うと。
「因みに一番新しい私って誰だっけ?」
『一番の古株は私、薬学担当だけど。新しい子は確か……』
『はいはい、ソレ私! いよいよ国外追放が現実味を帯びてきた~って始めた使用人スキル担当! ……お掃除はそこそこ楽しいけど、洗濯は……寒い時とか地獄なんだけど!』
『ははっ、ここ砂漠やで? あっついからむしろ水は気持ち良いんでは?』
『そりゃ昼間はな。けど砂漠の夜ってこの暑さが嘘みたいにめっちゃ寒くなるって知らんの?』
私の能力で生まれた沢山の私達がちょっとうるさい。
因みにこの能力が発現したのはあの馬――げふん、王子との初対面のすぐ後の事だったわね……。
その記憶が戻った瞬間に彼女がまず思ったのはその一言。
「……そう言えば流行っていたわね、悪役令嬢モノ」
そう、彼女が転生したのはとある恋愛シュミレーションゲームの悪役令嬢。
カナン=ルイゼリア公爵令嬢。
この世界に産み落とされる前、母親の懐妊が知れた直後から、女児であれば第二王子の、男児であれば第二王子と同腹の第一王女との婚約が決められていた。
そして、カナンは令嬢として生を受け、その瞬間に第二王子の婚約者と決められた。
……まぁ、貴族――それも高位貴族には珍しくもない話ではあるのだが。
正妃腹の第一王子や第二王女は大変出来が良いと評判なのだけど。
側室筆頭の元伯爵令嬢を母に持つ第二王子はだいぶ甘やかされて問題児と化しているともっぱらの噂。
同腹の第一王女も五十歩百歩な噂ばかりが流れる。
頭を抱えた王は、早々に婚約者を決め、彼らが売れ残るのを阻止しようとこの縁談をゴリ押しで決めた。
そして、そんな婚約者とカナンが初対面したのは5歳の時。
その、初対面の際の彼の最初の発言が。
「何だ、このブス! お前みたいな女が王子である俺の嫁になれると思うな!」
――だった。
王様は慌てて取り繕い誤魔化そうとしたものの、王子の主張はそれから十年ちょっと過ぎてもあまり変わらず。
年齢により受けた教育の量から多少言い回しは貴族らしく迂遠なものになっていったけれど、結局要約すれば5歳の時のその発言と大差ないセリフを幾度となくぶつけられ。
そして、果てはお約束の学園の卒業パーティーで。
「カナン=ルイゼリア公爵令嬢!
ただ今この時を持ってお前との婚約を破棄し、私は真実の愛により身も心も結ばれた、このナルーシス男爵令嬢との婚約を正式に決めた。
お前には、この未来の王妃に対し嫉妬から陰湿ないじめを行ったとこのナルーシスから聞いている。
誠にけしからん。
故に、お前を直ちに国外追放とする!
近衛兵! 連れて行け!」
そんな流れで、カナンは護送馬車に詰め込まれ、周辺国のどこの国も所有したがらない不毛の砂漠へと運ばれ捨てられた。
――とまぁ、そんな訳で今私はここに居るのだけれど。
『いや、私達皆私なんだから、その辺はよ~く知ってるって』
そして、この目の前に居る複数の私達と、この空間が何か、と言うと。
「因みに一番新しい私って誰だっけ?」
『一番の古株は私、薬学担当だけど。新しい子は確か……』
『はいはい、ソレ私! いよいよ国外追放が現実味を帯びてきた~って始めた使用人スキル担当! ……お掃除はそこそこ楽しいけど、洗濯は……寒い時とか地獄なんだけど!』
『ははっ、ここ砂漠やで? あっついからむしろ水は気持ち良いんでは?』
『そりゃ昼間はな。けど砂漠の夜ってこの暑さが嘘みたいにめっちゃ寒くなるって知らんの?』
私の能力で生まれた沢山の私達がちょっとうるさい。
因みにこの能力が発現したのはあの馬――げふん、王子との初対面のすぐ後の事だったわね……。
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