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第七章 元凶様がやって来た
元凶様、動き出す。
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「かの国より使者が参っております」
「通せ」
「はっ!」
呼ばれて来たのは初老の男。――勿論かの国の人間である。
「それで、そちらの返答は如何に?」
「はっ、我が国の国王陛下の名代として、我が国の決定をお伝え申し上げます」
うやうやしく取り出した巻紙を開いて持ち、それを読み上げる。
『我が国への訪問は歓迎するが、近隣諸国との関係を鑑み、外遊の名目で、各国の城をそれぞれ訪問する中の一国という立場を取らせていただきたい。
我が国では一晩夜会にご参加いただいた後、かのダンジョンへの案内と馬車、宿を用意させていただく。
ダンジョン内での事に関しては、国家の権力の及ぶ所ではなく、ダンジョン内でのトラブルの責任は我が国では負いかねる。
その点をご理解頂いた上、先の件をご一考下さることを願います』
「以上が、我が国の返答にございます」
「……はぁ。面倒臭い」
「しかし、かのダンジョンはギルド主導でダンジョン村まで出来たそうでございます。
……流石に冒険者ギルドを敵に回すのは我が国でもなるべく避けたいところ。
ここは面倒でも大人しく従う方がむしろ楽で早いやもしれませんぞ」
「分かっている。流石に国の面子は潰せない。早急に手配しろ」
「承知致しました」
そして、それから一月後。
カモフラージュの外遊の為、彼は馬車に乗り込んだ。
「お楽しみは最後か……。もどかしいが仕方ないか。楽しみは後に取っておくものだしな」
馬の蹄と車の車輪のリズミカルな音を聞きながら、彼は早速惰眠を貪り始めた。
……彼の放蕩ぶりは他国でも有名で。
しかしかの国の軍事力は人間国家においては驚異であるため、打診されれば余程の理由がない限りおいそれとは断れない。
故に実現したこの外遊。
元凶様ご一行は、着実にダンジョンへと迫りつつあった。
が。
「うーん、お金の勉強は私もしなくちゃな……。流石にこの近辺で使われる貨幣は早々に覚えたけど、最近他国のお金を使おうとする人も増えたし、無知と侮られて偽金使われちゃたまらないし」
「むしろ、両替所を作りませんか? このダンジョン内でのみ使えるお金を発行し、それと各通貨と両替する施設を」
「ああ。それなら専任だけ育てれば良くて効率も良くなるな。それで行こう! ……まぁ、私は責任者だからどっちにしろ覚えなきゃならないんだけどさ」
――と。
こちらは比較的平和な会話を交わしていて。
危機が訪れようとしているとはちっとも考えてはいなかった。
しかし。
「……気のせいか? 何だか嫌な気配が近付いてる気がするんだが。ちっ、胸糞悪ぃ」
一人、機嫌を悪くしていた者は居た。
「そのまま通り過ぎてくれりゃ良いんだがな」
「通せ」
「はっ!」
呼ばれて来たのは初老の男。――勿論かの国の人間である。
「それで、そちらの返答は如何に?」
「はっ、我が国の国王陛下の名代として、我が国の決定をお伝え申し上げます」
うやうやしく取り出した巻紙を開いて持ち、それを読み上げる。
『我が国への訪問は歓迎するが、近隣諸国との関係を鑑み、外遊の名目で、各国の城をそれぞれ訪問する中の一国という立場を取らせていただきたい。
我が国では一晩夜会にご参加いただいた後、かのダンジョンへの案内と馬車、宿を用意させていただく。
ダンジョン内での事に関しては、国家の権力の及ぶ所ではなく、ダンジョン内でのトラブルの責任は我が国では負いかねる。
その点をご理解頂いた上、先の件をご一考下さることを願います』
「以上が、我が国の返答にございます」
「……はぁ。面倒臭い」
「しかし、かのダンジョンはギルド主導でダンジョン村まで出来たそうでございます。
……流石に冒険者ギルドを敵に回すのは我が国でもなるべく避けたいところ。
ここは面倒でも大人しく従う方がむしろ楽で早いやもしれませんぞ」
「分かっている。流石に国の面子は潰せない。早急に手配しろ」
「承知致しました」
そして、それから一月後。
カモフラージュの外遊の為、彼は馬車に乗り込んだ。
「お楽しみは最後か……。もどかしいが仕方ないか。楽しみは後に取っておくものだしな」
馬の蹄と車の車輪のリズミカルな音を聞きながら、彼は早速惰眠を貪り始めた。
……彼の放蕩ぶりは他国でも有名で。
しかしかの国の軍事力は人間国家においては驚異であるため、打診されれば余程の理由がない限りおいそれとは断れない。
故に実現したこの外遊。
元凶様ご一行は、着実にダンジョンへと迫りつつあった。
が。
「うーん、お金の勉強は私もしなくちゃな……。流石にこの近辺で使われる貨幣は早々に覚えたけど、最近他国のお金を使おうとする人も増えたし、無知と侮られて偽金使われちゃたまらないし」
「むしろ、両替所を作りませんか? このダンジョン内でのみ使えるお金を発行し、それと各通貨と両替する施設を」
「ああ。それなら専任だけ育てれば良くて効率も良くなるな。それで行こう! ……まぁ、私は責任者だからどっちにしろ覚えなきゃならないんだけどさ」
――と。
こちらは比較的平和な会話を交わしていて。
危機が訪れようとしているとはちっとも考えてはいなかった。
しかし。
「……気のせいか? 何だか嫌な気配が近付いてる気がするんだが。ちっ、胸糞悪ぃ」
一人、機嫌を悪くしていた者は居た。
「そのまま通り過ぎてくれりゃ良いんだがな」
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