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第十三章

アクア効果

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 「おーいグレスト、これはー?」
 「二階の奥の右、二番目の部屋へ運んでください」
 「こっちは?」
 「一階厨房の隣の部屋へお願いします」

 アクアがやって来て早三日。
 アクア一人で数人分騒がしい。

 だけど、シンとしがちな我が家を一人で勝手に盛り上げてくれる要員は、今は確かにありがたい存在ではあって。


 そんな中。
 「ごめん、レーネ。今夜辺り……良いかな?」
 「ノア……。うん、良いよ。夕食の前に済ませちゃおう」

 前回の大怪我を回復させるのに、何時もの十日サイクルのペースを狂わせて。前回の吸血からも、大怪我したあの日からもまだ十日経っていないけど、ノアから吸血のお強請りをされました。

 「うん、その怪我の治療に大半費やしてしまったから……。けど、次はまた十日、我慢できるはず……!」
 「我慢、って事は、本当はもっと吸いたいと思ってる?」
 「それは……」

 ノアは一瞬詰まった後。

 「うん。そんなには要らないって分かってるし、我慢しようと思えば我慢できる。けど、飲めるなら飲みたい。……そうだね、女の子達にとってのスイーツみたいな? 際限なく食べればまずからして太るし健康にも良くない、だから普段はある程度自制するでしょ?」

 と、敢えて軽く言う。

 「――そうですね、お嬢様の血ばかり飲んでいてはお嬢様の健康に支障が出ますから」
 「え、」
 「済みません、話が聞こえたものですから」
 「グレスト……に、アクアまで……」

 しかし、二人の登場に顔を青ざめさせた。

 「おや、ノア様どうかなさいましたか?」
 「どうかしたって、お前の顔が怖いんだろうよ……って、いてててて、グレスト止めろ!」

 グレストからウメボシを食らい悲鳴を上げるアクア。

 「どうかしたかって……、聞いていたんだろう、今の話を――」
 「ええ。そうですよ」
 「だったら、その台詞は君が僕に言うより、僕が君に問いたい事だ」

 「ノア様が吸血鬼、それが何か? 正直これまでのアレコレからそれを連想出来なかった僕の間抜けぶりが明らかになった恥以外特に困った事は無いかと」

 「……え」

 「ああ、でも。あんまりお嬢様の血ばかり吸われるのは困りますね。まぁ今は自制が利いている様ですが、うっかりタガが外れてヤケ飲みしたい気分になられた時は、アクアの血をどうぞ。この体力お化けなら、多少吸いすぎても次の日にはピンピンしてそうですし」

 「おいコラ、何の話だ。勝手に人を差し出すんじゃねぇ!」
 「……話を聞いていなかったんですか? ノア様が吸血鬼で、血を飲む必要があるって話です」
 「ああ? つまり献血しろって話か? ……何でそれが俺を生贄に差し出すみたいな話になるんだよ」

 「え、本当に? 気味悪いとか怖いとか思わない?」
 「ええ、先に既に貴方の人と成りは良く理解していましたから。……初対面で言われたら、恐れていたかもしれませんけどね」
 「うん、何でノアを怖がるんだ? アゼルみたいな野郎はカチンと来るが、ノアは悪い奴じゃ無いじゃんか。んで、必要なら人助けのために献血は当然だろ?」

 「あ、あはははは……。うん、ありがとう」

 それが。久々にノアに本来の笑顔が戻ったきっかけになった様だった。
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