111 / 159
第十一章
ノアの願い
しおりを挟む
さて。島の男たちが奥様方にこき使われ、奥方自身も年始の支度でてんてこ舞いしている最中。
それらの仕事は使用人に任せておけば良い、伯爵家の娘の私の仕事は、と言えば。
大半は王都の屋敷に送られ、そのたび片付けていた書類も、島外持ち出し厳禁な書類はこうして屋敷の執務机にたまり続け。
こうしてたまの帰省にのんびりしたい私に容赦なくのしかかってくるのだ。
その上、今回の規制は年末年始に被った。
「だからね、『精霊姫』としての仕事もあるのよ」
この一年の安寧と、自然の恵みに対して精霊に感謝を伝え、また来年の安寧と恵みを願う。
これはいつかのお祭りのように儀式がある訳ではなく、いつもの通り私が精霊達に直接伝えに行き、彼らと遊び、他愛ない願いを叶えれば済むのだけど。
この書類の山とセット、その上にチーズ企画の仕事もある。
まぁ、のんびり寝正月を決め込む余裕なんかどこにも無いわけだ。
「そんな訳で、あんまりノアに構う暇はないけど、部屋で好きに過ごしてちょうだい」
「いやいや、それこそ僕を頼ってよ。いや、精霊姫の仕事を直に肩代わりするのは無理だけど。書類仕事なら僕も手伝えるよ。むしろ、僕は君の婚約者だ。その為に居るんだから、こき使ってくれて構わないんだよ。……特殊体質の件を除けば健康体なんだし」
しかしノアは慌ててそう主張した。
「もちろん企画についても、協力は惜しまないし、精霊姫の仕事だって、その物は担えないけど、仕事の調整とか手伝える所は手伝わせてよ。……せめて、グレストと同等程度には信頼して任せてくれないかな?」
「え、お客様を働かせる訳には……」
「僕は、客じゃない。だから客扱いなんて要らない。まだ婚約者として認められないなら、グレストみたく仕事仲間の一員でも良いから」
……改めて。ノアは誤魔化しようのない美形の王子様である。
最近では子供らしさが徐々に抜け、可愛さが色気に入れ代わり始めている今日この頃。
まだかすかに残る可愛さに入り交じる色気を纏う彼に、そう切々と迫られて。
正気を保てる喪女が居ると思いますか?
しかもグレストと張れる優秀さは既に学校で思い知っている。いや、この場合王子の教養を持つノアに張り合えるグレストも凄いんだけど。
手伝って貰えるなら、ありがたいとしか言えない。
「……守秘義務を守って貰えるなら」
「――僕の“真名”に誓って」
「真名?」
「そう。……これまで両親にすら明かした事のない、僕の吸血鬼としての真名。魔物なら大抵持ってる、これを握られる事は命を握られるのと同意の、本来なら明かさない名前だよ」
そんな物を持つ程、彼の中の吸血鬼の血は濃い。
「分かった、じゃあお願いするわ」
それを私に明かしたのは、彼が私を信用してくれているから。なら、それに対して信用を返さなければ。
そう考えての返事のつもりだったのだけど。
これまで一人で担ってきた責任を共に背負ってくれる存在というのが、私にとってどれだけ大きな存在となるのか。
その時にはまだ、分かっていなかったのだった。
それらの仕事は使用人に任せておけば良い、伯爵家の娘の私の仕事は、と言えば。
大半は王都の屋敷に送られ、そのたび片付けていた書類も、島外持ち出し厳禁な書類はこうして屋敷の執務机にたまり続け。
こうしてたまの帰省にのんびりしたい私に容赦なくのしかかってくるのだ。
その上、今回の規制は年末年始に被った。
「だからね、『精霊姫』としての仕事もあるのよ」
この一年の安寧と、自然の恵みに対して精霊に感謝を伝え、また来年の安寧と恵みを願う。
これはいつかのお祭りのように儀式がある訳ではなく、いつもの通り私が精霊達に直接伝えに行き、彼らと遊び、他愛ない願いを叶えれば済むのだけど。
この書類の山とセット、その上にチーズ企画の仕事もある。
まぁ、のんびり寝正月を決め込む余裕なんかどこにも無いわけだ。
「そんな訳で、あんまりノアに構う暇はないけど、部屋で好きに過ごしてちょうだい」
「いやいや、それこそ僕を頼ってよ。いや、精霊姫の仕事を直に肩代わりするのは無理だけど。書類仕事なら僕も手伝えるよ。むしろ、僕は君の婚約者だ。その為に居るんだから、こき使ってくれて構わないんだよ。……特殊体質の件を除けば健康体なんだし」
しかしノアは慌ててそう主張した。
「もちろん企画についても、協力は惜しまないし、精霊姫の仕事だって、その物は担えないけど、仕事の調整とか手伝える所は手伝わせてよ。……せめて、グレストと同等程度には信頼して任せてくれないかな?」
「え、お客様を働かせる訳には……」
「僕は、客じゃない。だから客扱いなんて要らない。まだ婚約者として認められないなら、グレストみたく仕事仲間の一員でも良いから」
……改めて。ノアは誤魔化しようのない美形の王子様である。
最近では子供らしさが徐々に抜け、可愛さが色気に入れ代わり始めている今日この頃。
まだかすかに残る可愛さに入り交じる色気を纏う彼に、そう切々と迫られて。
正気を保てる喪女が居ると思いますか?
しかもグレストと張れる優秀さは既に学校で思い知っている。いや、この場合王子の教養を持つノアに張り合えるグレストも凄いんだけど。
手伝って貰えるなら、ありがたいとしか言えない。
「……守秘義務を守って貰えるなら」
「――僕の“真名”に誓って」
「真名?」
「そう。……これまで両親にすら明かした事のない、僕の吸血鬼としての真名。魔物なら大抵持ってる、これを握られる事は命を握られるのと同意の、本来なら明かさない名前だよ」
そんな物を持つ程、彼の中の吸血鬼の血は濃い。
「分かった、じゃあお願いするわ」
それを私に明かしたのは、彼が私を信用してくれているから。なら、それに対して信用を返さなければ。
そう考えての返事のつもりだったのだけど。
これまで一人で担ってきた責任を共に背負ってくれる存在というのが、私にとってどれだけ大きな存在となるのか。
その時にはまだ、分かっていなかったのだった。
0
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!
宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。
前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。
そんな彼女の願いは叶うのか?
毎日朝方更新予定です。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!
甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。
その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。
その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。
前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。
父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。
そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。
組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。
この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。
その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。
──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。
昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。
原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。
それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。
小説家になろうでも連載してます。
※短編予定でしたが、長編に変更します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる