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第九章

お試し……ですか。

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 だけど……あれ?
 ふと思い出した事。ノア、今回もお付きの人とか連れて来てないよね?
 今回は吸血をどうするつもりなのか。

 「一応、保存用のパックは持参しているよ。今回はあくまで夏休み中だけの訪問の予定だから。……足りなければ自分で何とかしろって事さ」
 「……王様達の思惑としては、私がノアに血をあげる事を期待してる訳だ?」
 「何も君自身でなくても、島で誰かそういう役目の人を調達して欲しいとは思ってるかと……。その調達には城でも難儀していたみたいだからね。厄介者は厄介事と一緒にお片付けしたいんだと思うよ」
 ……って。アゼルよりは遥かにマシとは言え。やっぱり王様は私に厄介事を押し付けなきゃ気が済まないのか……。

 「ごめん、そこは僕の勝手な我儘なんだ。君が僕を否定しないでくれた事が嬉しくてさ。だから、責めるなら王じゃなく僕に言って欲しい」
 ……そんな事言われて文句なんか言えるかい。

 ま、まぁ……。血を吸われる事さえ目をつぶれば、伯爵家のお嬢様が仕事をしたいなんて我儘を許し、手伝ってくれそうな旦那様なんて他にはなかなか居ないのは分かってる。

 「分かったよ。けど、他の人にデメリットだけ押し付けて、私は良いとこ取りってのも何だし……、良いよ。必要な時は私の血をあげる。その代わり、仕事はきっちり手伝って貰うからね!」
 「それは勿論。ここでの仕事は面白そうだし願ってもない。しっかり手伝わせて貰うよ」

 「なら、後は私の覚悟だけ、か。……ノア、今なら周りに人の目は無いし――良いよ。私の血を吸っても」
 ……表情が引きつらない様気を付けながら、ノアの目を正面から覗き込む。

 「――そうだね。君の誤解……と言うか不信感を取り除くためにもそれが良いか」

 相変わらず私のお嬢様らしくない太い指のついた手が、細くて長い綺麗な指の白い手に包まれ持ち上げられた。……皮膚にふれる彼の肌の感触が素晴らしすぎる。
 「……ノア、肌のお手入れとか何を使って……」
 「え? 特に何もしてないよ、僕は男だし、肌なんか余程荒れない限り気にしないよ」
 「な……それでこれなの? 何て羨ましい……」
 「いや、これでも男なのに焼けない白すぎる肌にはコンプレックス持ってるんだけどね……」

 そんなしょうもない会話に少し呆れた表情をしながら、ノアは私の手を自分の口元へ持っていき――

 「それじゃ、いただきます。……本当に痛くしたりしないから。楽にしていていいよ」

 形のきれいな彼の唇が私の左の手のひらを含む。
 小指側の、手相で言う感情線の下、月丘と呼ばれる辺りを食み――二本の牙が、肌に触れた。
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