88 / 159
第九章
お試し……ですか。
しおりを挟む
だけど……あれ?
ふと思い出した事。ノア、今回もお付きの人とか連れて来てないよね?
今回は吸血をどうするつもりなのか。
「一応、保存用のパックは持参しているよ。今回はあくまで夏休み中だけの訪問の予定だから。……足りなければ自分で何とかしろって事さ」
「……王様達の思惑としては、私がノアに血をあげる事を期待してる訳だ?」
「何も君自身でなくても、島で誰かそういう役目の人を調達して欲しいとは思ってるかと……。その調達には城でも難儀していたみたいだからね。厄介者は厄介事と一緒にお片付けしたいんだと思うよ」
……って。アゼルよりは遥かにマシとは言え。やっぱり王様は私に厄介事を押し付けなきゃ気が済まないのか……。
「ごめん、そこは僕の勝手な我儘なんだ。君が僕を否定しないでくれた事が嬉しくてさ。だから、責めるなら王じゃなく僕に言って欲しい」
……そんな事言われて文句なんか言えるかい。
ま、まぁ……。血を吸われる事さえ目をつぶれば、伯爵家のお嬢様が仕事をしたいなんて我儘を許し、手伝ってくれそうな旦那様なんて他にはなかなか居ないのは分かってる。
「分かったよ。けど、他の人にデメリットだけ押し付けて、私は良いとこ取りってのも何だし……、良いよ。必要な時は私の血をあげる。その代わり、仕事はきっちり手伝って貰うからね!」
「それは勿論。ここでの仕事は面白そうだし願ってもない。しっかり手伝わせて貰うよ」
「なら、後は私の覚悟だけ、か。……ノア、今なら周りに人の目は無いし――良いよ。私の血を吸っても」
……表情が引きつらない様気を付けながら、ノアの目を正面から覗き込む。
「――そうだね。君の誤解……と言うか不信感を取り除くためにもそれが良いか」
相変わらず私のお嬢様らしくない太い指のついた手が、細くて長い綺麗な指の白い手に包まれ持ち上げられた。……皮膚にふれる彼の肌の感触が素晴らしすぎる。
「……ノア、肌のお手入れとか何を使って……」
「え? 特に何もしてないよ、僕は男だし、肌なんか余程荒れない限り気にしないよ」
「な……それでこれなの? 何て羨ましい……」
「いや、これでも男なのに焼けない白すぎる肌にはコンプレックス持ってるんだけどね……」
そんなしょうもない会話に少し呆れた表情をしながら、ノアは私の手を自分の口元へ持っていき――
「それじゃ、いただきます。……本当に痛くしたりしないから。楽にしていていいよ」
形のきれいな彼の唇が私の左の手のひらを含む。
小指側の、手相で言う感情線の下、月丘と呼ばれる辺りを食み――二本の牙が、肌に触れた。
ふと思い出した事。ノア、今回もお付きの人とか連れて来てないよね?
今回は吸血をどうするつもりなのか。
「一応、保存用のパックは持参しているよ。今回はあくまで夏休み中だけの訪問の予定だから。……足りなければ自分で何とかしろって事さ」
「……王様達の思惑としては、私がノアに血をあげる事を期待してる訳だ?」
「何も君自身でなくても、島で誰かそういう役目の人を調達して欲しいとは思ってるかと……。その調達には城でも難儀していたみたいだからね。厄介者は厄介事と一緒にお片付けしたいんだと思うよ」
……って。アゼルよりは遥かにマシとは言え。やっぱり王様は私に厄介事を押し付けなきゃ気が済まないのか……。
「ごめん、そこは僕の勝手な我儘なんだ。君が僕を否定しないでくれた事が嬉しくてさ。だから、責めるなら王じゃなく僕に言って欲しい」
……そんな事言われて文句なんか言えるかい。
ま、まぁ……。血を吸われる事さえ目をつぶれば、伯爵家のお嬢様が仕事をしたいなんて我儘を許し、手伝ってくれそうな旦那様なんて他にはなかなか居ないのは分かってる。
「分かったよ。けど、他の人にデメリットだけ押し付けて、私は良いとこ取りってのも何だし……、良いよ。必要な時は私の血をあげる。その代わり、仕事はきっちり手伝って貰うからね!」
「それは勿論。ここでの仕事は面白そうだし願ってもない。しっかり手伝わせて貰うよ」
「なら、後は私の覚悟だけ、か。……ノア、今なら周りに人の目は無いし――良いよ。私の血を吸っても」
……表情が引きつらない様気を付けながら、ノアの目を正面から覗き込む。
「――そうだね。君の誤解……と言うか不信感を取り除くためにもそれが良いか」
相変わらず私のお嬢様らしくない太い指のついた手が、細くて長い綺麗な指の白い手に包まれ持ち上げられた。……皮膚にふれる彼の肌の感触が素晴らしすぎる。
「……ノア、肌のお手入れとか何を使って……」
「え? 特に何もしてないよ、僕は男だし、肌なんか余程荒れない限り気にしないよ」
「な……それでこれなの? 何て羨ましい……」
「いや、これでも男なのに焼けない白すぎる肌にはコンプレックス持ってるんだけどね……」
そんなしょうもない会話に少し呆れた表情をしながら、ノアは私の手を自分の口元へ持っていき――
「それじゃ、いただきます。……本当に痛くしたりしないから。楽にしていていいよ」
形のきれいな彼の唇が私の左の手のひらを含む。
小指側の、手相で言う感情線の下、月丘と呼ばれる辺りを食み――二本の牙が、肌に触れた。
0
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
処刑された悪役令嬢は、時を遡り復讐する。
しげむろ ゆうき
恋愛
「このバイオレットなる者は王太子であるフェルトの婚約者でありながら、そこにいるミーア・アバズン男爵令嬢や隣国の王太子にロールアウト王国が禁止している毒薬を使って殺害しようとしたのだ。これは我が王家に対する最大の裏切り行為である。よって、これより大罪人バイオレットの死刑執行を行う」
そして、私は断頭台で首をはねられたはずだった
しかし、気づいたら私は殿下の婚約者候補だった時間まで時を遡っていたのだった……
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
アホ王子が王宮の中心で婚約破棄を叫ぶ! ~もう取り消しできませんよ?断罪させて頂きます!!
アキヨシ
ファンタジー
貴族学院の卒業パーティが開かれた王宮の大広間に、今、第二王子の大声が響いた。
「マリアージェ・レネ=リズボーン! 性悪なおまえとの婚約をこの場で破棄する!」
王子の傍らには小動物系の可愛らしい男爵令嬢が纏わりついていた。……なんてテンプレ。
背後に控える愚か者どもと合わせて『四馬鹿次男ズwithビッチ』が、意気揚々と筆頭公爵家令嬢たるわたしを断罪するという。
受け立ってやろうじゃない。すべては予定調和の茶番劇。断罪返しだ!
そしてこの舞台裏では、王位簒奪を企てた派閥の粛清の嵐が吹き荒れていた!
すべての真相を知ったと思ったら……えっ、お兄様、なんでそんなに近いかな!?
※設定はゆるいです。暖かい目でお読みください。
※主人公の心の声は罵詈雑言、口が悪いです。気分を害した方は申し訳ありませんがブラウザバックで。
※小説家になろう・カクヨム様にも投稿しています。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます
水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか?
私は、逃げます!
えっ?途中退場はなし?
無理です!私には務まりません!
悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。
一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる