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第九章

ノアのトリセツ

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 翌朝。いつも通り船に乗り。
 その後グレストと例のタピオカレシピについてあーでもないこーでもないと熱く意見を交わし合い。

 ――そして、今に至る。

 場所は祠から少し奥に入った小さな岩室。
 洞窟、と言うにはかなり浅い、崖下のくぼみに近い穴がある。
 多少視界は遮られるけど、せいぜい突然の雨を凌ぐ雨宿りスポットにしかならない。

 遭難時の避難場所にしては風を遮れないからね。
 今は暖かい季節だからいいけど、冬は吹きっさらしでちと寒いのだよ、ここは。

 と。場所の説明はこの位でいいか。
 それよりも――

 適当な石の上に腰掛けた私とノア。
 ノアは改めて辺りを見回し、大丈夫と判断したのだろう。

 まず頭を下げての謝罪から、彼の話は始まった。

 「まずは……ごめん。あの時すぐに謝りたかったけど、周りに人の目があって、これまでずっと出来なかったから」
 「いやいや、入学式の時に既に謝って貰わなかったっけ? それに、そんな気にしてないからもうこれ以上謝る必要もないし」
 「あの時は……その、謝るよりアゼルとの婚約話が気になって……。すごく適当にしか謝ってなかった気がして……。動物の血とはいえ、血の匂いに本能が抑えきれなくなって、血の衝動のまま君に牙を立てて血を吸った。……吸血鬼の血を濃く継いだ僕の婚約者には、ちゃんと僕の事を知っていて欲しいから」

 吸血鬼としての、ノアの話。
 ノアの“トリセツ”を口にするには人の目や耳があっては出来ない事だから、と。

 「ちゃんと説明させて欲しい。……何も知らせないままで、つまらない事故をもう起こしたくない」
 と、切実に訴えてくる。

 「分かった、分かったから落ち着いて! 焦って話されても私も困るし! 落ち着いて、順番に話して。ちゃんと聞くから!」

 ――確かに。彼が吸血鬼の血を濃く継ぎ、その影響を受けているなら。人と違う対応をしなければならない場面があるなら。
 知らなきゃ対応のしようがないしね。

 「多分、君が一番気になるのは僕の吸血事情だろう?」
 「えっ、あー……まぁ、ね。一番かどうかはともかく、聞いとかなきゃ困る話ではあるね」
 「うん、だよね。結論から言うと、流石に毎日は必要無いけど、定期的に血を飲む必要はあってね。……あの頃――子供の頃はごくごくたまに、舐める程度の量で済んでいたから……」

 たまに報告のための王宮からの使者に伴い、の人間が定期的に送られてくる手筈になっていたらしい。
 で、最初の一人が来る前にあの事故は起きた。
 通常ならまだ多少余裕のある、けど出来ればそろそろ……という時期ではあった。
 だけど人間の血ならいざ知らず、まさか動物の血の匂いに反応するとはノア自身も周りも思わなかった故の事故だった、と。

 「けど、成長するにつれてその間隔と量は狭く、そして多くなっていった。……まぁ、理性で本能を抑える術にも長けてきたから……トントン、かな」
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