9 / 159
第一章
漁師の休日
しおりを挟む
「なぁ、暇してるなら俺の家来るか? 網の修理手伝って欲しいんだけど」
……休日とは言え漁師には陸でやらなきゃいけない仕事もある。仕事道具の手入れはその筆頭だ。
「行く途中に工場団地通るから、ついでに見学してけば良いし」
――けどな。ノアが王子様って忘れたのかいアクア。私達がここに居るのは使用人が王子様の相手に困ったからだぞ? それを王子様に平民の仕事を手伝わそうとするとは――末恐ろしい男だ。
流石に“不敬罪”は理解しているはずだけど、本来伯爵家の令嬢たる私にも普段からあの態度だしなぁ。
島の裏側にある精霊の浜は私以外基本立ち入り禁止。段々畑の更に奥、山の中へ山菜や茸を求めて入る島民は多いけど、精霊様のご機嫌を損ねないようその“ライン”は親が子に厳しく教える。
ノアにもいずれ教えなきゃなんだけど。
王子様にいきなり山登りさせるのもなんだし、工場見学は悪くない提案……なんだけど。
「……今日はお休みじゃない」
「まあまあ、今日は町の様子だけ見て工場見学本番はまた改めて来れば良いじゃん。それより網の修理の方が重要なんだからな。何せ漁獲量に直結する――つまり収入にかかわるんだ。死活問題だぜ」
「それはそうだろうけど。それ、王子や令嬢の仕事じゃないわよね?」
「俺の母ちゃんは何時も言ってるぜ、この島で己の都合の為に使っちゃいけないものは精霊様だけだって。他は暇してる奴が居たら誰でも遠慮無く使ってやれって」
……それ、私はともかく王子様と息子が接触するなんてあり得ないと思ってるから出た言葉じゃないかね? 少なくとも王子様を働かせるなんて非常識を推奨する様な人じゃなかったはずだよ、レイカさんは。
と言うか、私も精霊の関係者の括りに入れて言ってるつもりなんでは……?
いやまぁ私は良いんだけどね、働くの好きだし。
けど、流石に王家の怒りを買えば私程度じゃいくら庇ってみてもその効果はたかが知れている。
……何しろアクアなんて田舎領地の平民。その一人や二人失ったところで王家は痛くも痒くもなく。むしろそんな者に王家の威光を傷つけられた屈辱を晴らす方が余程重要だろう。
……その、筈なんだけどね。
「部屋でじっとしてばかりなのはもう沢山だよ。……上手く出来るかは分からないけど、それで良ければやらせてくれないか?」
ノアよ、それで良いのか?
「僕が黙ってれば問題無いさ。君達が不敬罪になる事は無いよ」
……ノア的には良いらしいけど、やっぱりその言い方、王都のお偉いさんは違う意見を持ってそうだ。彼らの方が本来正しい言い分なんだけど。
「じゃ、行こうぜ!」
アクアよ。ノアは許してくれてるけどお前はもう少し考える頭を持とうか。
……後でコソッとレイカさんにチクってよおぉぉくお説教して貰おう、そうしよう。
……休日とは言え漁師には陸でやらなきゃいけない仕事もある。仕事道具の手入れはその筆頭だ。
「行く途中に工場団地通るから、ついでに見学してけば良いし」
――けどな。ノアが王子様って忘れたのかいアクア。私達がここに居るのは使用人が王子様の相手に困ったからだぞ? それを王子様に平民の仕事を手伝わそうとするとは――末恐ろしい男だ。
流石に“不敬罪”は理解しているはずだけど、本来伯爵家の令嬢たる私にも普段からあの態度だしなぁ。
島の裏側にある精霊の浜は私以外基本立ち入り禁止。段々畑の更に奥、山の中へ山菜や茸を求めて入る島民は多いけど、精霊様のご機嫌を損ねないようその“ライン”は親が子に厳しく教える。
ノアにもいずれ教えなきゃなんだけど。
王子様にいきなり山登りさせるのもなんだし、工場見学は悪くない提案……なんだけど。
「……今日はお休みじゃない」
「まあまあ、今日は町の様子だけ見て工場見学本番はまた改めて来れば良いじゃん。それより網の修理の方が重要なんだからな。何せ漁獲量に直結する――つまり収入にかかわるんだ。死活問題だぜ」
「それはそうだろうけど。それ、王子や令嬢の仕事じゃないわよね?」
「俺の母ちゃんは何時も言ってるぜ、この島で己の都合の為に使っちゃいけないものは精霊様だけだって。他は暇してる奴が居たら誰でも遠慮無く使ってやれって」
……それ、私はともかく王子様と息子が接触するなんてあり得ないと思ってるから出た言葉じゃないかね? 少なくとも王子様を働かせるなんて非常識を推奨する様な人じゃなかったはずだよ、レイカさんは。
と言うか、私も精霊の関係者の括りに入れて言ってるつもりなんでは……?
いやまぁ私は良いんだけどね、働くの好きだし。
けど、流石に王家の怒りを買えば私程度じゃいくら庇ってみてもその効果はたかが知れている。
……何しろアクアなんて田舎領地の平民。その一人や二人失ったところで王家は痛くも痒くもなく。むしろそんな者に王家の威光を傷つけられた屈辱を晴らす方が余程重要だろう。
……その、筈なんだけどね。
「部屋でじっとしてばかりなのはもう沢山だよ。……上手く出来るかは分からないけど、それで良ければやらせてくれないか?」
ノアよ、それで良いのか?
「僕が黙ってれば問題無いさ。君達が不敬罪になる事は無いよ」
……ノア的には良いらしいけど、やっぱりその言い方、王都のお偉いさんは違う意見を持ってそうだ。彼らの方が本来正しい言い分なんだけど。
「じゃ、行こうぜ!」
アクアよ。ノアは許してくれてるけどお前はもう少し考える頭を持とうか。
……後でコソッとレイカさんにチクってよおぉぉくお説教して貰おう、そうしよう。
0
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
【完結】貴方たちはお呼びではありませんわ。攻略いたしません!
宇水涼麻
ファンタジー
アンナリセルはあわてんぼうで死にそうになった。その時、前世を思い出した。
前世でプレーしたゲームに酷似した世界であると感じたアンナリセルは自分自身と推しキャラを守るため、攻略対象者と距離を置くことを願う。
そんな彼女の願いは叶うのか?
毎日朝方更新予定です。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!
甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。
その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。
その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。
前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。
父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。
そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。
組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。
この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。
その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。
──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。
昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。
原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。
それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。
小説家になろうでも連載してます。
※短編予定でしたが、長編に変更します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる