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第一章

漁師の休日

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    「なぁ、暇してるなら俺の家来るか?    網の修理手伝って欲しいんだけど」
    ……休日とは言え漁師には陸でやらなきゃいけない仕事もある。仕事道具の手入れはその筆頭だ。
    「行く途中に工場団地通るから、ついでに見学してけば良いし」

    ――けどな。ノアが王子様って忘れたのかいアクア。私達がここに居るのは使用人が王子様の相手に困ったからだぞ?    それを王子様に平民の仕事を手伝わそうとするとは――末恐ろしい男だ。
    流石に“不敬罪”は理解しているはずだけど、本来伯爵家の令嬢たる私にも普段からあの態度だしなぁ。

    島の裏側にある精霊の浜は私以外基本立ち入り禁止。段々畑の更に奥、山の中へ山菜や茸を求めて入る島民は多いけど、精霊様のご機嫌を損ねないようその“ライン”は親が子に厳しく教える。
    ノアにもいずれ教えなきゃなんだけど。
    王子様にいきなり山登りさせるのもなんだし、工場見学は悪くない提案……なんだけど。

    「……今日はお休みじゃない」
    「まあまあ、今日は町の様子だけ見て工場見学本番はまた改めて来れば良いじゃん。それより網の修理の方が重要なんだからな。何せ漁獲量に直結する――つまり収入にかかわるんだ。死活問題だぜ」

   「それはそうだろうけど。それ、王子や令嬢の仕事じゃないわよね?」
   「俺の母ちゃんは何時も言ってるぜ、この島で己の都合の為に使っちゃいけないものは精霊様だけだって。他は暇してる奴が居たら誰でも遠慮無く使ってやれって」

    ……それ、私はともかく王子様と息子が接触するなんてあり得ないと思ってるから出た言葉じゃないかね?    少なくとも王子様を働かせるなんて非常識を推奨する様な人じゃなかったはずだよ、レイカさんは。
    と言うか、私も精霊の関係者の括りに入れて言ってるつもりなんでは……?

    いやまぁ私は良いんだけどね、働くの好きだし。
    けど、流石に王家の怒りを買えば私程度じゃいくら庇ってみてもその効果はたかが知れている。
    ……何しろアクアなんて田舎領地の平民。その一人や二人失ったところで王家は痛くも痒くもなく。むしろそんな者に王家の威光を傷つけられた屈辱を晴らす方が余程重要だろう。

   ……その、筈なんだけどね。

   「部屋でじっとしてばかりなのはもう沢山だよ。……上手く出来るかは分からないけど、それで良ければやらせてくれないか?」

   ノアよ、それで良いのか?

   「僕が黙ってれば問題無いさ。君達が不敬罪になる事は無いよ」
    ……ノア的には良いらしいけど、やっぱりその言い方、王都のお偉いさんは違う意見を持ってそうだ。彼らの方が本来正しい言い分なんだけど。

   「じゃ、行こうぜ!」
    アクアよ。ノアは許してくれてるけどお前はもう少し考える頭を持とうか。
    ……後でコソッとレイカさんにチクってよおぉぉくお説教して貰おう、そうしよう。
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