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第一章

農場

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    「お?    お前ら何処へ行くんだ?」
    海辺の舗装された道を二人で歩き始めてしばらく。私達に声をかけてきたのは――

    「アクア、おはよう。……ウチの使用人さん達に追い出されたから、ノアに島の案内をしてるところよ」
    「ふーん、港からこの道を来たって事は次は農場か?」
    「農場?」
    「そう。手前から島の奥に向かって養鶏、養豚、肉牛・乳牛の牧場に畑……。海辺に近いところは塩害……塩にやられて作物が育ちにくいから基本畜産やってて。塩害の無い山の段々には果物畑があるの。この季節だと……今は梅が最盛期かな?    もう少しすると桃とかが旬の季節になるね」

    この島は精霊の恵み豊かな土地で、第一次産業がとにかく盛んだ。取り敢えず、この島にいて食べる物に困る事はあり得ない。
    そしてその豊かな恵みを大陸に届ける為の食品加工技術も発展している。

    ……実は対外的にはこの島産のお茶は高級品として貴族に好まれ、おそらく王都にいらっしゃるお父様達も好んで飲んでいる筈なんだ。
    
    ただ、そんな訳であえて高級品仕立てにしているせいで正規品は領民の財布に厳し過ぎるお値段で、故に、島でよく飲まれるのは島で採れたミルクで規格外品の安い茶葉を煮出した紅茶風味のホットミルクだったりする。
    茶葉は規格外品でも、新鮮なミルクは一級品だが毎日採れたてが絞れるから割りと安価で出回る。卵も肉も皆新鮮な美味しい物が当たり前に安く売られている。

    私としては、無駄にお洒落にばかりお金を使わなきゃいけない王都で貴族として暮らすより、毎日美味しい物を食べられるこの島の平民として暮らす方がよっぽど幸せじゃないかと思うんだ……。

   「ワン!」
    そして、この島では珍しく羊を飼っている牧場の前を通りかかると、その牧場で牧羊犬として飼われているボーダーコリーが尻尾降りながら愛嬌を振り撒きすり寄ってきた。

   「おお、お嬢様ではありませんか!」
   「おはようございます。毛刈りの最中でしたか、精が出ますね」
    今日は休日――とは言え漁に出なければ休める漁師と違って生き物を相手にしている農家は基本年中無休。
    将来はヘルパー的な制度を導入して改善を促したいけど……まだ幼児な私には無理な話で。

    それでも精霊姫として彼らに恩恵をもたらす私は彼らに可愛がられていた。

    というか、わんこをもふもふするのが楽しいな!
    べーべー鳴きながら毛を刈られていく羊の脇に積み上げられた刈り取り済みの羊毛を山には負けるだろうが……。洗浄前のそれはまだ獣臭が染み付いててちょっと……いや遠慮無く言うならかなり臭い。

    この独特の臭いに……以外にも王子様、平気そう……? 

  「馬に乗るからね。獣の臭いにはある程度馴れてる」

   ああ、なる程。……このセレブめ!
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