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弐ノ巻

竹取物語

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 結婚式当日。
 私は間抜けにもあんぐりと開けた大口を閉じられずに居た。

 私達の仲を取り持って下さる神官の役目を担って下さっているのが何と――

 「お、大国主大神!?」
 ……かつての妃時代に、この尊き神を祀る出雲の国造との付き合いはあったが、当の神様御本とは勿論これが初対面である。
 しかも。
 「まぁ、可愛らしい! 彼女が伯父様のお嫁さんなのね!」
 とても背の高い、堂々とした女性が満面の笑みで抱きついてきた。

 「ふん。我が娘を娶っておきながら随分と多くの姫を侍らす男だ。縁結びの神としての力はあろうが、余計な祝福は授けるなよ? 兄者が浮気で泣くような事になればどうなるか……分かっておろうな?」

 「も、勿論ですとも、義父君……」
 ははは、と口元を引つらせながら空笑いする大国主大神。
 ……その姿は、威厳もへったくれもなく。

 「いやぁ、めでたいのう!」
 ある意味仲人役と言っても差し支えないだろう大年神がその義親子喧嘩を背に全く頓着せず豪快に笑う。

 そして。
 そんな名だたる神々の中、最も畏れ多い神が、月の都へと降り立った。

 「ふふ、まさかそなたが嫁御を迎えるとはの。時の流れというのは実に偉大であるの」

 月の優しい明るさとは違う、さんさんと輝く陽の光。
 天照大御神。

 ……月読命の嫁になるという事は。
 義理とはいえこの偉大なる神の義妹になると言う事。
 須佐之男命は義弟となり、大国主大神夫妻すら義甥姪に……。

 主様との婚姻、そればかりに目が向いて緊張なんかしてたけど。

 「あれ、これ凄くとんでもない事なんじゃ……?」

 今更ながらに自覚したかぐや。
 嫌な汗が背中を伝う。

 「かぐや? ふふ、もう逃さないからね?」
 ニッコリ笑う主様。

 厳かな式の後の賑やかな披露宴。
 そして新婚旅行と私があたふたしつつも楽しんでいた頃。

 地上では――

 「姫……かぐや姫。ああ、朕はなんと愚かだった事か……」

 息子を産んでくれた異能持ちの妻は、精神を病み宿下がりしたまま戻って来ず。

 かぐや姫の置土産を富士の山の頂に捨てて来るよう遣わした男は、富士の社に祀られた木花咲耶姫が顕現し、こっぴどくいびられたと報告を上げてきた。

 そしてその数年の内に、地上は酷い日照りと飢饉に悩まされる事となる。

 「これは、天罰なのか……」

 その飢饉の終焉間近で倒れた帝。

 ちなみに、竹取の翁に関する記録は残されていない。

 ――が。
 「……なんてことがあった訳よ。君、頭良いんだしさ。いい感じに小話に纏めて広めてくれない?」

 数百年後。出雲国造の血を引く、菅原の姓を持つとある文官に、ある日大国主大神がそんな依頼をした。

 「ほう。どうせこの太宰の地で暇を持て余していたのです。子供の寝物語になりそうな物語にしてみましょうか」

 その物語の名は――
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