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弐ノ巻

帝の暴挙

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 翁に命じて、しばらくの後。

 密かに文を受け取った帝は、臣下らに先祖の陵墓参りの支度を命じ、いくつか候補を挙げた。
 全て翁の屋敷に程近い場所の陵墓を回り、その際の偶然を装い、かの屋敷へ訪れる為に。

 そして。
 帝御一行は、内裏を後にした。

 その行幸に含まれた陵墓には、偶然か必然か――かつてのかぐやの夫であった垂仁天皇の眠る陵墓もあった。

 「な、何だ! 先程まであれ程良い天気であったと言うに、陵墓に参った途端に大雨とな!?」
 「山の天気は変わりやすいとは良く言うが、それでもいくらなんでも急すぎやしないか?」
 「何か我らをお叱りになりたい事でもあったのだろうか、それとも我らが持ち込んだ供物に気に入らぬ物でもあったのか……?」

 かぐやの真の素性など知る由もない帝は勿論、これが帝がかぐやに会いたいが為の行幸であると知らぬ随従らは揃って不安げに囁いた。

 「……先の帝は、平民の娘を入内させるのを嫌っているのだろうか? いや、しかし賀茂の姫を娶った後に参った際にはこんな事は――」
 帝も、流石に少し気になったのか案じる様子は見せたものの、噂の姫を一目見たいと思う気持ちを抑えるには至らず、予定通りの道程を予定通りに進んでいた。

 そして、そんな事態になったのは結局垂仁天皇の陵墓のみであった為。
 「どうやら、我らが気付かずかの帝のお嫌いな物を供物に混ぜてしまったのであろう。戻ったら関係各所に書物など調べさせ、今後気を付ける事としよう」

 ――勿論、かの帝の怒りはそんな事ではなく。
 かぐやへの暴挙を咎める牽制であったのだが、残念ながら目を曇らせた現帝にそれを察する事は出来ず。

 帝の牛車は、とうとう竹取の翁の屋敷の前に止まった。

 「お待ち申し上げておりました。……かぐやは奥の間に待たせております。さぁこちらへ……と申したげたい所で御座いますが、拙宅はあまり広くはなく……、その、全員にお休み頂ける間が御座いませんで……」

 「おお、これは済まない。侍従の二、三名以外は他の場で休ませる事としてあるので心配には及ばん。侍従にも無理は言わぬ様重々申し付けてあるのでな。済まないが、茶でも飲ませて待たせておいて貰えぬか」

 「お心遣い、感謝申し上げます。ではこちらへ……」

 ――実を言うと。
 翁はかぐやの説得に失敗していた。

 確かに前回の公達の件で失態を犯していた翁は、結婚を拒むかぐやに縁談を強要は出来ずに――しかし独り残されるやもしれぬかぐやが心配で。
 他の下らぬ男であればともかく、帝であれば……と言う思いも捨て切れず。

 結果、帝が縁談の為に訪れる事を告げず、ただ翁達に来客があるので挨拶をするように、とだけ伝えていたのだ。

 そして。
 「ほう、そなたがかぐやか……!」
 御簾を除けて帝がかぐやに触れようとした、その時。

 狭い部屋の中に、眩い光が満ちたのだった。
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