上 下
6 / 34
壱ノ巻

裳着と名付けの儀式

しおりを挟む
 たったの三ヶ月。

 通常らなば七つまでは神の内と言われ、大抵が十かそこらで行うはずの裳着――女の童の成人を祝う儀を、翁夫妻は盛大に催した。

 通常の人ではあり得ぬ早さで成長したかぐやに袍を着せ、美しい黒髪を結う。
 そして、平民であれば滅多に行う事の無い名付けを、由緒正しき神祇の官を預かる忌部家の名を持つ神官に願った。

 ――人ならざる者達を視る特別な目を持ち。
 神々によく仕え、悪しき物の怪もののけを祓う術を携えやって来た、秋田と言う名の術者は、彼女を一目見て思わず息を呑んだ。

 「なよ竹のかぐや姫」

 これは、偶然であるのか必然であるのか。

 かつての名、大筒木おおつつきかぐやの名を思わせる名を付け、彼は去って行った。

 「おお、かぐや姫や。良い名をいただいたのう」

 これまであまり公にして来なかった私を見せびらかすかの様に、三日三晩の宴に村の者を呼び集め、ご馳走を食べ、話に花を咲かせ。

 お上品に、おしとやかに御簾みすの中から優雅に眺める楽器の演奏や舞も悪くはないのだけれど。
 こうして騒ぐのがとても楽しい事なのだと初めて知った。

 長く生きてきたけれど、こうして初めて知る事が多く、日々を新鮮に感じる。

 「なんと、これ程に美しい姫をどうやって隠していたんだ」
 「これは、村の若造程度じゃ手に負えねぇな。むしろ都から金持ちの商人が噂を聞きつけてやって来るんじゃないか?」

 「ふん。そこいらの男になんぞやるもんかい。……しかし、ワシも家内もいつお迎えが来ても良い歳じゃ。良いご縁があれば良いがのう……」

 しかし、翁の心配は杞憂――どころか、名付けをした秋田が触れまわった噂や、村人達から回った評判を聞きつけて、多くの人々がかぐやを一目見ようと、そしてあわよくば我が物にせんと村を訪れ、翁の家を尋ねた。

 庭の縁側に居ると、生け垣の外から覗く男達の目に晒されてしまう。

 「こりゃ! 覗き見なんぞはしたない! 欲しいのならば正々堂々と文でも送るが良い、自信があるならの!」

 日に何度も翁が竹を削って作った即席の武器で男達を追い払うのだが、どこからかまたわらわらと、それこそ雨後の筍の様に出て来るのでキリが無い。

 「筍なら美味しく食べられるのに……」
 「かぐや、今日のおかずは焼き筍じゃよ。味噌を付けて食うと美味いんじゃよ、これが」

 「うむ。あの様な有象無象に大事なかぐやはやらんぞ!」

 そう豪語していた翁。
 ――しかし、都まで届いた噂を聞きつけてやって来た公達に、翁が飛び上がって喜ぶとは……この時のかぐやは知る由もなく。
 美味しく筍をいただくのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。

夢草 蝶
恋愛
 侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。  そのため、当然婚約者もいない。  なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。  差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。  すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...