「君が手に入るのならば」※短編詰め合わせ※

恭谷 澪吏(きょうや・みおり)

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「squall-01」

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過去なんて忘れたよ
今があればいい

細く長くこよられた、真綿。そこにぽたぽたとオイルを、垂らしていく。不安そうな視線を向けている相手に向かって、片頬をあげてにやりと、笑った。
「これやるの、久し振りだな」
脂汗を浮かばせながら、相手がこくこくと頷く。豆絞りのタオルを口の中に入れ、上からきっちりともう一枚の豆絞りで押さえる。更に縄で、縛り上げると江戸時代の猿轡、そのものだ。
「おっと、先に外しとこうな、声、聴きたいから」
猿轡を、外す。大きく息を、ついた。過たずオイルライターで、真綿に火をつける。じゅっと火が上がり、上半身を無残に焼いた。肉の焼ける、匂いが広がる。
「あっ、あぁぁぁぁぁっ」
頭を左右に振りながら、喘ぐ。低く甘く、パワフルだがセクシーな、声。
「いい声。さすが、人気のヴォーカリスト様だな」
真綿をこよりながら、もう一度、冷笑する。飽きるまで、繰り返すつもりのようだ。
・・・相手、である竹田雅の肌が、焼けただれるまで。

人気ユニット「ユーリピオンズ」。ローランド・カークが好きなヴォーカルギター担当の竹田雅(たけだ・みやび)が決めた。ジャンルは、ロック。骨太のリッケンバッカーをかき鳴らし、ウッドハンマーのように太く低いくせに、酷く引き摺るセクシーな歌声を持つ竹田は、人気も高かった。容姿もいい。身長180センチ、細身で革製のぴっちりとしたパンツが似合う。きりっとした上がり眉に、甘えたような大きな垂れ目。東北出身の細く白い肌に這い回る血管が、悩ましい。
「竹田、今日のライブなんだけど・・・」
ウッドベース&ベース担当の藤原隆平(ふじわら・りゅうへい)が、話しかけて来る。もうリハーサルは終わったが、何か聞きたい事があるらしい。
「どうした?藤原」
「うん、前回のライブではさ、『マーガレット』の時普通のベース使ったじゃない?今日はウッドベースで行きたいんだけど、いいかな?」
「いいね、そっちの方が合いそう。で、少しゆっくりめに弾いてみようか」
「そうしよう」
藤原は黒Tシャツにジーンズ姿。トレードマークの中折れ帽を、いつも被っている。地味な容姿ながら、引っ張りだこの有名スタジオミュージシャンだった。その才能に惹かれた竹田が半年以上をかけて口説き落とし、表舞台に連れて来た。作曲能力も高く、ジャズ的なアドリブもこなせる。文句なく相方に相応しい、人物だ。それにサポートギターとドラムを入れて、バンド体勢でライブは行っている。
(竹田)
耳元で、藤原が囁く。びくりと体が、震えた。
(明日、俺の家で)
ゆっくりと、頷いた。ライブハウスの裏手、既に沢山の観客の声がする。
「ユーリピオンズのメンバーさん、そろそろ開演ですー」
スタッフの声がする。振り返って竹田が、言った。
「解りました、すぐ行きます」
舞台の上で、声が震えてはいけない。自分の頬をバチンと叩いて、気合を、入れた。

「よく来たな」
シックな1LDK。LDKにベッドが置いてあり、もう一部屋は完全防音でベースやギターを置いてあった。その部屋に、通される。
「・・・約束だから」
「そうだな、約束、だな」
(俺はミュージシャンになって表に出る気はないんだ)
ユーリピオンズ結成前、竹田が藤原を誘った時、そう断られた。容姿のいい竹田と違って小柄で人並みの外見。腕は文句なくトップレベルだが、裏方でアイドルバンドの吹き替えや、ジャズヴォーカリストの伴奏などを担当していた。
(そこを、頼む。藤原さんのテクが、必要なんだ)
もう半年も、口説いていた。その度にすげなく、断られる。そろそろ、竹田も焦れていた。
(ユニット名も決めてるんだ。ユーリピオンズ。ローランド・カークみたいになろうぜ?)
(解った・・・解ったよ、竹田。その代わり・・・)
(その代わり?何でも言ってくれ、叶えるから)
にやりと片頬で、藤原が笑った。ぞわりと嫌な予感が、する。
(竹田の身体、好きにさせてよ。それがOKの、条件)
(す、好きにって・・・俺、・・・)
(一度、俺の家に来て。体験して決めてくれたら、いいから)
「あの時、・・・どうだった?体験、してみて」
竹田がゆっくりと、服を脱ぐ。しなやかな鞭を思わせる、引き締まった身体。東北出身らしく、透き通るように白い肌に欠陥が、浮いている。シックスパックとはいかないまでも、均整がとれていた。
「・・・耐えて耐えられなくはなかったから・・・それで、藤原が手に入るなら、って思った」
「大した変態だな、竹田。まあそのお陰で、楽しく過ごさせてもらうんだけど」
黒いボクサーブリーフ一枚になった竹田を膝立ちにさせ、上げさせた腕を豆絞りのタオルで縛る。実家が工芸家だという藤原の家には様々なタオル類があり、用途に合わせて使い分ける事も長けていた。
「行くぞ」
蹴りが、飛ぶ。膝を折ったまま、後ろに倒された。鞣した革のギターストラップを、二つ折りにする。無防備に晒された竹田の腹を、思い切り、打った。バシっと重い音がする。
「う、ぁぁ・・・」
「さすがセクシーヴォーカリストさん。喘ぎ声も、悩ましいねぇ」
言いながらも次々に、打ち据える。重い革は皮膚を切らない代わりに、腫れ上がらせる。白い肌がピンクから、赤に。200を超える頃には赤黒く、染まり始めた。
「ふ、うぁ、あぁぁ」
「腹はこの辺にしといてやるよ、ヴォーカリスト様だからな」
足で蹴って裏返し、うつ伏せにする。腫れあがった腹が、痛かった。
「う、ぁぁ・・・」
構わず足も豆絞りのタオルで縛り、腕の緊縛と繋げる。鞭として使っていたギターストラップに結わえ付け、ウッドベーススタンドを改造して作った吊り台に、引っ掻けた。体重をかけても大丈夫なよう、補強してある。不安定な、エビ反り。腹がぎりぎりつくかつかないかで、ゆらゆらと揺れていた。
「ぁぁっ・・・」
「我ながら、手先が器用だな。ジャスト、吊られてる」
手足が長いため調整が大変だったが、ゆらゆらと揺れて眉間に皺を寄せている竹田は、最高にセクシーだった。高く吊り上げる必要は、ない。何故ならば、・・・
「ほらっ」
下から腹を、蹴り上げる。ごぼっと音がして、竹田の口から血液交じりの唾液が、噴き出す。ギシっ、ギシっ、とウッドベーススタンドが、音を立てた。左手で押さえておく。
「殺しはしないから」
よく言う、台詞。嗜虐に目が燃え上がっているだろう。竹田には容易に、想像がついた。
(俺の性癖に、付き合って欲しいんだ)
最初にここを訪れた時、そう、言われた。断れず鞭打たれ殴られしたけれど、痛みは思ったよりも耐えられた。何より、蔑んだり人の事を下等生物扱いするような事が全くなかった事が、竹田に関係を継続させる覚悟を、決めさせた。
「さ、こっちはどうなってるかな?」


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