43 / 45
新月の夜大作戦5 麻那人VSザボ
しおりを挟む悪魔王子になって空を飛ぶ麻那人。
そこにファルゴンも合流し麻那人の肩にくっついた。
「麻那人様……いえマーナットハロンヘッド様」
「麻那人でいいって。ファルゴン、裏山にいる人間をみんな避難させたか?」
「はい、まぁ夜なのであまり人もおりませんでしたが、高校生を数人追い出しました」
「よくやった」
麻那人は裏山の神社に降り立った。
「麻那人様、いくら新月とは言いましても過剰な力を使ってはお体に障ります」
「心配はありがたいけど、そんな事を気にしてられないよ」
「ザボもさきほどまでの魔術クラブっ子達の恐怖をかなり吸収したと思われますぞ」
「あぁ、わかっている。お前は学校の結界を元に戻せ。調整してお前でも触れられるようにしてあるから」
麻那人から出るオーラにビクッとなるファルゴン。
麻那人から新しい水晶を渡される。
「承知致しました……!」
ファルゴンが飛んで行ったのを見ると、麻那人は目を閉じた。
魔術クラブの計画はみんなにとって、長い時間だったが実際は二十分程度の話だ。
その間に、麻那人は必死にこの一体をサーチしたがザボの潜む能力が想像以上に高く裏山にいる事しかわからなかった。
そして光のピンチを察した麻那人は学校へ戻った。
そこでザボの行方はわからなくなってしまったが……。
多分追い詰められているとは気付いていないザボは、この裏山にきっと潜んでいるはずだ。
「……あぶりだす……」
冷酷な目をした麻那人が、冷たく言い放った。
麻那人の足元が光りだしたかと思うと、巨大な紅い魔法陣がグルグルと回りだす。
「裏山を全部囲め……絶対に逃さない……生きてるみんなはごめんよ……少しだけ僕に時間をくれ」
足元にあった魔法陣は一気に空に飛び上がり、網のように広がって巨大な裏山を囲む結界になった。
ドクン! と心臓の鼓動のような音がして、裏山がザワザワとざわめき空気が変わる。
葉っぱが舞って、鳥が羽ばたき、リスが木の穴に入った。
生きているものも、生きていないも感じる不快な空気。
悪の、闇の者も不快にする、更にもっともっと深い闇。
それはまるで毒のように、裏山に広がる。
霧のように麻那人の意識が山を包む。
一ミリの悪魔の気配も逃す気はない!
高度な術だ。ズキリと麻那人の身体に痛みが走った。
暗闇のなか、何かがうごめいた!
「……ザボか!」
麻那人は結界内の空を飛び上がる。
気配を隠していたが、わかる!
麻那人の右手から黒い闇が丸く出現し、それを裏山の森の茂みに打ち放つ。
「出てこい!」
もう二発、連打すると茂みから空に向かって鳥のように何かが飛び出てきた。
しかし空には麻那人の結界がある。
そいつは飛び上がれずに結界内を逃げ惑う。
「逃がすわけがないだろう」
「うがぁ!?」
背中を向けた悪魔を追いかけ麻那人も飛び、悪魔の背中に術を放つと公園に墜落していった。
麻那人が公園に降り立つと、牙のびっしり生えたゴブリンのような顔をした人間型悪魔が麻那人をにらみつけ立っていた。
「……一体……なんなんだ……お前はぁ……」
「お前は脱獄悪魔のザボだな?」
冷静に麻那人が言う。
「なんなんだぁ……てめぇはぁあの娘っ子の隣にいたガキ……? いや、まさか……なんなんだ?」
人間の姿で光の隣にいたのが同じ麻那人だとは思えないようだった。
悪魔が人間の姿になるのは超高等魔術だからだ。
「さぁ? 僕はただの悪魔だよ」
「ガキぃ……俺の獲物だ……仲間の悪魔が横取りなんてするんじゃねぇよ……」
「仲間……? お前と僕が、仲間だなんて冗談じゃないよ」
「年上に対する礼儀を知らねぇ……ガキめ……よくも……」
ザボは怒りに震えているようだ。
そして右腕は、ギラギラとするどく光る巨大な剣のようになっている。
「……力を取り戻したのか……?」
「へへへへ……そうさぁ……此処の山はなぁ……へへ、教えねぇよ」
やはり、この山には何か不思議な秘密があるのだろう。
麻那人も裏山を結界でおおっているが、何か普通とは違う圧力を感じる。
裏山自体から何か力を感じるのだ。
これがザボに過剰に力を与えた原因なのだろう。
「まぁ裏山の事は今はどうでもいいよ……ザボ、悪魔界へ戻ってもう一度檻に入れ」
「なんだとぉ?」
「しっかり自分の罪を償え」
麻那人の言葉に小さな目を丸くしたザボは今度は大笑いしだした。
「ギャハハハハ! 馬鹿言うんじゃねぇよ! 追いかけ鬼なんか創ってわざわざ少しずつ力を貯めてようやく人間を狩れる力を取り戻したんだぜぇええ!」
「……まだ、そんな事を言うのか」
「当たり前だろぉ! 俺は悪魔だ! 人間は大好物だ! 何が悪い!」
叫ぶザボに、更に冷たい瞳を向ける麻那人。
「……悪魔はもう人間を襲わない。悪魔は高貴で崇高な存在。何よりもその知識欲を満たすためだけに、学びを求めよ。混沌の闇のなかから更に深く深く存在の意味を追求せよ。悪魔であるという存在を血と暴力以外で表すことを永遠に探究せよ……闇である誇りをもつために……永遠に学び続けよ……」
静かに話す麻那人。
「なにを言ってる?」
わけがわからないといった顔をするザボ。
「初代悪魔王マーナットハロンヘッドの言葉だよ。お前のような悪魔なんかもう時代遅れってことさ」
「ヒャハハハハ! そいつは王なんかじゃねぇよ! ただの腑抜けさ! 悪魔は残酷無慈悲! 人間を引き裂くのが悪魔だ! さっさとこの結界を解けぇ! さっきの娘っ子達を喰いに行くんだからなぁ!!」
そう言った瞬間、ザボは右腕の剣をふりかざして麻那人に襲いかかった!
「ねぇ、僕は怒っているんだよ」
麻那人の首を刈ったと思ったザボだったが、何故か麻那人は普通に立っている。
「なんだ……?」
不思議そうな顔をするザボ。
麻那人は剣も何も持っていないまま、右手をシュッと動かした。
「はへ……?」
ザボの右腕がゴトリと落ちた。
「うぎゃああああ!?」
「僕の友達を、此処の子ども達をずいぶんと傷つけてくれたね」
また麻那人がシュッと右手を動かすと、今度はザボの左腕が落ちる。
「ぎゃはあああ!?」
「……うるさいよ」
「な、な、なんだ!? 何が起きているんだ!!」
「何が……? 目標が定まっているのなら、他を巻き込むことがないのなら、こんな事は簡単なんだよ……。僕は力が強いから、飛び火しないようにお前がどこにいるかしっかり把握する必要があった……人間社会へ被害を及ぼすことはあってはいけないからね……」
ゆらりと麻那人から出る黒いオーラが揺れる。
強い強い瘴気がドラゴンのように麻那人を包んでいた。
近づけば悪魔も人間もどうなるか、わからない。
サボが血を吐く。
「ガハ! なんだ、こんなおかしい! 俺がこんなガキ悪魔にぃ!? なんだこれは!?」
「まだわからないのかい? ……僕がお前に攻撃をしているんだよ……お仕置きだ」
ニヤリと麻那人が笑った。
「こ、こんなガキに、どうして俺が、こんな事はおかしいだろぉおおおおおおお! お前が消えろぉお!」
腕を失ったザボは最後に噛みつこうと、麻那人に襲いかかる。
「おかしいなんて事はないだろ? だって僕は悪魔王子なんだからね」
「な、なんだって……!? まさか……お前が……?」
噛み付く寸前に、ザボはギョッとした顔をして逃げようと考えたのだろう。
しかし、もう遅い。
麻那人の手刀がザボを一刀両断した。
「殺さないよ。しっかり罪を償え。闇魔法・極黒炎地獄……発動」
麻那人の手のひらに魔法陣が浮かぶと、一気にザボは黒い炎に包まれて燃え上がった。
「ぎゃあああああ! ……まさか……お前が……三代目……な……の……か……」
「そうだよ、僕が三代目さ」
驚愕の瞳を麻那人に向けたまま、ザボは燃えていく。
燃え尽きるかと思われたが、萎びたような焦げ茶色の心臓だけが残った。
「……汚い心だ」
麻那人は胸元から瓶を取り出すと、心臓を入れて封を閉める。
そして、念じるとその瓶はシュン! と瞬間移動のように何処かへ消えてしまった。
「麻那人ーーー!」
光の声がした気がして、麻那人はキョロキョロと公園の入り口を見た。
「……光?」
まだ結界は張ってあったのに、ハンカチで口を塞ぎながら光が走ってくるのが見えた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる