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悪魔王子登場!?
しおりを挟む光がもう絶体絶命を感じた瞬間。
自分の目の前に追いかけ鬼の口が巨大に開いて……その口の奥のぶらぶらした、のどちんこが見えた時だった。
真っ暗なその先に飲み込まれたら、どうなってしまうのか。
光のほっぺたに涙が流れて、一秒がゆっくりに思えた……その時だ。
「はい! ナイッス! シューット!」
明るい声が聞こえた。
そう、休み時間の男子の声のような。
「……ふえ?」
追いかけ鬼はぶぎゃっと潰れた形になって、その瞬間に横に吹っ飛んでいった。
「……ほえ?」
『ぶぎゃ! ぼんごへっ!』
追いかけ鬼はサッカーボールのように飛んで、大きな木ぶち当たったのが見えた。
「……ほわぁ!?」
自分の声がアホっぽいのはわかっているけど、そんな声しか出てこない。
「ナイスゴール!」
「……ほわ……」
腰の抜けた光が見上げると、そこにいたのは男の子だ。
顔はかっこいいと言っていいかもしれない。
長めの黒髪が暗がりでもサラサラとなびいてる。
大きな瞳は黄金色に輝き、かと思えば紫や赤にもユラユラ色が変わって見える。
鼻も高くて整った唇からは、なんと牙が見えた。
そして頭にあるのはツノ!?
服装はまるでドラキュラのような洋服で、長いマント。黒いブーツ。
「(こ、これは……これは……まさか!?)」
「控えおろう~~! 人間の子どもっ! この御方をだれだと思ってる!!」
「ひゃ!?」
男の子の頭の上から、大きなまんじゅうか、がんもどきか、というような丸い物体が降りてきた。
大きさはサッカーボールくらい。
「まんじゅうがしゃべった!?」
「誰が、まんじゅうじゃい!」
まんじゅうには目があって口があって、ひげまで生えて、悪魔の羽をパタパタさせて宙を浮いてる。
「がんもどき!」
「ちがーう!」
「つくねだんご!」
「タレが好き! って違うわ! ばっかもーんがぁ!」
「わわ、ごめんなさい!」
光が謝ると、あっはっはと男の子の笑い声が響く。
「随分、面白い子だなぁ。初対面からやられたなファルゴン」
「王子!」
「……お、おうじ?」
男の子はニヤッと笑った。
「(そうだ、この姿は王子様の格好だ!?)」
驚きながら、また男の子の姿を上から下まで見る光。
「僕の名はマーナット・ハロンヘッド・デスピッド・アノーレウ三世。人間の子どもよ、僕は魔界の王の息子。悪魔王子である!」
森のなかに響く、男の子の声!
悪魔王子! 悪魔王子! 悪魔王子ーーーーーーーー!!
悪魔王子!?
「あっあっ……あっ……」
「あぁ! 王子自ら名乗られるとはっ! 人間の子どもよ! ひれ伏すのだっ!」
「あっあっあくま?」
「うん? うん」
「悪魔!?」
「うん」
「あくの……ま?」
「ん? うん。悪の魔」
「妖精じゃなくて!?」
「うん……え?」
「……あの魔法陣で……来てくれた……?」
「そうだけど」
「人間の子どもよ! あんな安っぽい魔法陣で我が王子が召喚される事など極めて異例……!」
「私、妖精を呼んだつもりだったんだけど……」
光が言う。
「えっ」
「えっ」
「えっ」
三人の『えっ』が重なった。
ぴゅ~っと風が吹いた。
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