不死鳥の巫女はあやかし総長飛鳥に溺愛される!~出逢い・行方不明事件解決篇~

とらんぽりんまる

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二人の約束

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 ――真っ暗な世界に光が差した――

 桃花は、小さな男の子と遊んでいた。
 夕日が綺麗な夏。
 
「ももか、今日も来たよ」

「わぁい、べにおくん。待ってたの!」

 お父さんとお母さんが、畑仕事が忙しい時期。

 一人で遊んでいたお花畑で、偶然に出会った男の子。

 夏の間に、すぐ近くにお泊まりに来ているらしい。

 不思議な着物を着ている、男の子。

 赤いメッシュの髪がぴょこぴょこしていて、おめめもぱっちり。

 最初は可愛い女の子かと思った。

「べにおくんって言うんだぁ」

「うん……」

「かっこいい!」

「えっ……そんなこと初めて言われた」

「そうなの? わたしはかっこいいと思うな」

「へへ、ももかはかわいい」

「うふふ」

「へへへ」
 
 どこから来たのか、なんて深く考えることもなく仲良しになった。
 彼がやってくる、夕方の少しの時間が楽しみになった。
 
 彼はよく、指や腕に怪我をしていた。
 
 大変なお勉強を、していると聞いた。
 それでも男の子は『みんなのためなんだ!』って笑ってた。

「おれ、今日はコンペートーもってきた」

 キラキラ輝く、星みたいな金平糖。

「わぁ、わたしはチューチューアイス……でも溶けちゃった」

 待っている間に、凍らせたアイスはもう溶けていた。

「ジュースうまそう」

「あはは」

「あはは」

 どんなことでも楽しくって、二人で花畑を追いかけっこした。

 花を摘んで、男の子に見せたらニッコリ微笑んでくれたのを覚えてる。

 それから花を見つければ、必ずプレゼントしてくれた。

 手を引かれて、木にも登った。
 景色がすごくきれいだった。

 その子はなんでもできて、すごくたのもしかった。
 かっこよくて、大好きだった。
 
「ねぇおれさ、もうすぐ帰らなきゃいけないんだ」

「えー? そうなの……次はいつ会えるの?」

「わからない」

「……おわかれなの……?」

「おれは、そんなのいやだ」

「わたしもだよ、いやだよ。べにおくん」

「ももか……おれの花嫁さんになってほしいな」

「……はなよめさん……?」

 お母さんの花嫁写真は見たことがあった。
 可愛い綺麗な着物を着る。

「うん、おれ達、結婚しよう! 結婚して、おれずーっと一生、ももかを守って大事にする。大好きだよ」

「うれしい、ずっと?」

「うん、ずっと大好き。やくそくする」

「うん、じゃあわたし、べにおくんの花嫁さんになる!!」

「やったぁ! おれもっともっとがんばって、必ず迎えに来るよ」

「いつ?」

「うーん。すぐにくる!」

「約束ね、べにおくん」

「うん、約束」

「べにおくん、大好き!」

「おれも、ももかが大好きだ!!」

 小さな二人の精一杯の想いをこめた約束。

 きっと紅緒は、約束を守ってくれたはず。
 小さな手は、またすぐに繋がれたはずだった。
 
 それなのに、二人を引き裂いたあの嵐。

 雨の中必死で避難した山小屋を、襲ってきた妖魔達。
 
 大好きな紅緒が、切り裂かれて血だらけで。
 自分なんかどうなったっていいから、助けてって強く願った。
 この世の邪悪を全て燃やし尽くしたくて、叫んだ。

 心の奥、もっと違うどこか……。
 自分の心臓なのに、違うどこかから、輝く美しい孔雀のような真っ赤に燃えた鳥が飛び出したのを覚えている……。

 真っ暗な森が光に照らされて、一瞬で全ての妖魔が吹き飛んだ。

 でも……また指切りげんまんをすることはできなかった。
 笑顔を見ることも話をすることもできずに、二人は意識を失ったまま……記憶が消された。

 ……でも……いま……。

「べに……おくん……」

 ふと、目を覚ました。
 薄暗いなか、天井が見える。

 ボーッとした頭。
 腕に点滴が、繋がっているのがわかる。

 ベッドの脇に、紅緒がパイプ椅子に座っているのがわかった。

「……ん……桃花」

「紅緒くん……」

「大丈夫か?」

 紅緒の額には、包帯が巻かれていた。
 桃花はふっ飛ばされた時に、紅緒が抱きとめてくれた事を思い出す。

「……守りきれなくて悪かった」

 悲痛な紅緒の顔。
 その顔は。桃花をどれだけ大切に想っているかを表していた。

 桃花の心が、ズキンとする。
 
「そんなことない! 紅緒くんが助けてくれたんだよ! だから私は元気なんだもの! 私のほうこそ怪我させて……ごめんなさい」

 桃花は涙が出そうになりながら、起き上がって紅緒の頬に左手で触れた。
 二人の瞳が見つめ合う。

「桃花……?」

「思い出したの……私も……」

 ジリっと指先が熱くなる、その手に紅緒も自分の手を重ねた。
 ふわりと温かい炎が舞って、紅緒の傷が治っていくのがわかった。
 
「そうか……俺も、また色々と思い出した」

「うん」

 頬から手は離れても二人の手は結ばれたまま。
 
「……記憶がなくても、俺はずっと心の奥で誰かを想ってた……それは桃花だったんだな」

 まわりから女嫌いなんて言われていたのは、ずっと心の奥底で桃花を思っていたからだった。

「……紅緒くん……ごめんなさい、私……忘れてしまってて……」

 桃花も誰かに恋をする事はなく、過ごしてきた。

 でも、ずっと紅緒の存在を忘れていたことがズキズキと胸を痛ませる。

 でも紅緒は、優しく微笑んだ。

「桃花は不死鳥に加護されて、記憶をより強く消されたはずだ。忘れていたって俺は何も気にしないさ。大事なのはこれからだ」

「うん……」

「俺は桃花を、これからも守り続ける……誰よりも強くなる」

 握られた手に、少しだけ力がこめられた。

「俺はお前が好きだ、桃花」

 優しく微笑んだ紅緒の口から出た、彼の心からの言葉。
 
「うん……うん……わたし……」

 桃花も答えようとした時、頬を優しく撫でられた。

「まだ桃花は答えなくてもいい。記憶が戻ったばかりだ。五歳の俺じゃなく、じっくり今の俺に惚れさせてみせるさ」

「べ、紅緒くん」

「それから、また約束しよう」

 自信たっぷりに、紅緒はニヤリと笑った。
 頬が熱くカーっとなる。
 
 約束……花嫁になる約束。
 
 あやかし総長飛鳥紅緒の、花嫁になる。

 それは小さい頃の桃花が願った約束。
 今の桃花にとっても、きっと……。
 
「あ、あの……私も……紅緒くんを守れるように頑張るね」

「守られるだけじゃないって、桃花らしいな。ありがとう」

 正直、桃花の方が紅緒に不釣り合いだと思ってしまう。
 総長飛鳥の隣にいても笑われない存在になりたい。

「だから……傍にいさせてね?」

 少し恥ずかしくて、小声で言ってから紅緒を見た。

「……あんまり可愛いこと言うな……」

「ひゃっ?」

 熱のこもった瞳で紅緒に見つめられた桃花は、ドキッとしすぎて変な声が出た。
 
「返事はいいって言ったけどさ……桃花はいつも俺をあおるな……」
 
 頬に指が触れられた。

「紅緒くん……だって……」

「うん、わかってる……」

 再会から、たった数日でも桃花も紅緒のことを……。
 見つめ合った二人の顔が、自然に近づいた……。

 心臓がうるさいほど、ドキドキして唇が近づき……。
 二人の瞳が閉じて、更に近づく……。

「おーい!! 話し声聞こえたぞ! 起きたか地味子ぉ!!」

 バーン! と病室のドアが、開いた。
 柘榴に茜に珊瑚、辰砂に苺がなだれ込んでくる。

「バカ柘榴ぉ!! 聞き耳立てる前に何やってんの!!」

「絶対いいムードだっただろ~☆邪魔して正解~!!」

「破廉恥だ! 薄暗い病室で男女が何をしている! 姫は無事か」

「きゃー僕のお姉ちゃんになにしてんの! 紅お兄ちゃん!!」

「……おまえら……」

「み、みんな……」

 呆れる紅緒に慌てる桃花。
 手は離れてしまったけど、心に残る温かさ。
 
 その後、桃花は検査を受けて異常なし。
 紅緒の傷も治っていて、お医者さんが驚いていた。
 四天王も茜も、大した怪我はなく元気だ。

 被害者の三人も衰弱はしていたが、三日程度で退院できた。

 本人達は何も覚えておらず、あやかしによる被害者へ対応する特別チームがあるので、説明や今後の話をするらしい。

 佐野谷彩子も体調面では問題はなく、本人にあまり記憶はないが、自分が起こした事件だという自覚はあった。

 ちょっとしたクラスメイトのすれ違い。
 特に彩子は、入学後の不安定な状態で、心理状態へ影響するゲームにのめり込んだ。

 もともと彼女は、すこし呪いや穢れを引き付ける能力があり、更に悪化したところを蒼玉に狙われてしまった。

 狂った歯車が噛み合ってしまい、今回の事件に繋がってしまったのだ。

 彩子は自分の意思でフレンドになった相手に、仲介護符となる広告を載せて誘い出しあやかしに喰わせていた。
 彩子は十分に反省し、被害者達に謝罪したという。

 ゲームは制作者・田原英介の意図で公開停止になった。
 どうして田原英介ゲームにも広告が出たのかというと、制作者に会ってみたい思いもあったが途中で断念したらしい。

 こうして行方不明事件は解決に至った。
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