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夜を駆ける二人

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 桃花が察知し、寮の高層ビルから降りた二人。
 
「何処へ行く!?」

「あっちの方!」

 もちろん、地図などわからない。
 桃花は嫌な空気を感じた方向を、指差す。

「なにか不穏を感じたか?」

「そうなの! あの黒い霧を感じた……どうしてかわからないけど……」

「来い、桃花」

 腕を引かれて抱き寄せられ、そのまま抱き上げられる。
 『何を言ってるんだ』と言われても仕方がないのに、紅緒はすぐに桃花を信じてくれた。
 
「お、重いよ!?」

「バイクは怖いんだろ? 全然、重くなんかないさ」

 まだまだ行き交う人の多い道路。
 振り返ったサラリーマンがギョッとしたのがわかった。

「は、恥ずかしいっ」
 
「察知されない護符を発動するさ! 行くぞ!」

 指差す方向へ、紅緒は更に加速度を増して走る。
 ヒュン! と風を切った。

「わっ」

 飛び上がり、電柱の上に立つ紅緒。
 ふわりと重力が離れたように感じる。

「此処からだとより、わかるか?」

「うん! ……あ、あそこの大きな木のところ!」

「あそこは公園だ……」

「ひゃあ!」

 電柱から電線を走る。
 あやかしの力なのか、二人の体重がないようだ。

「俺も感じた……行くぞ……!」

「うん……!」

 紅緒は抱く桃花を強く抱きしめて、桃花も強く紅緒の首に抱きついた。

 そして降り立った公園……。

「紅緒くん……降ろして」

「あぁ」

「また……あの……」

 黒い霧だ。
 口を押さえる桃花に、紅緒は自分のハンカチを渡した。
 護符の効果があるらしい。

「あ……あれは……」

 黒い霧の中に光るもの。

 すべり台の下にあったのは、スマホ。
 桃花が指を差した。

「あれ!」

「スマホか」
 
 紅緒が手袋をした手で拾い上げる。
 消えそうになる前に、桃花と紅緒は画面を覗き込む。

「ふくしゅう鬼ごっこ……だ……」

 ◇◇◇

「くしゅん」

「大丈夫か」

「うん……」

 スマホを見つけた後。
 紅緒は鳩田に連絡をして、鳩田はすぐに駆けつけてくれた。
 公園を封鎖し、周りには警察だとバレないワゴン車で話を聞いたあと、寮まで送り届けられたのだ。

「湯冷めしただろう」

「ううん、全然平気だよ」

 最上階までの、長い長い高速エレベーターに乗る。
 高速だが、最上階までは少しかかる。

「……間に合わなかったんだよね……」

 まだ手のぬくもりが、残っていたスマホだった。
 あと少し早ければという思いが桃花を暗くさせる。

「違う、桃花のおかげで最速で状況を更新することができた」

「でも……私が、もっと……」

 まだ髪が濡れている桃花が、フラリとよろけた。
 神経を集中させ続け、その疲れが一気にきたようだ。

「桃花……!」

 紅緒が抱きとめ、支えてくれる。

「いいか。余る力を持つと、人でもあやかしでも迷うもんだ」

「……余る力で迷う……?」

「あぁ……突然の力には誰でも迷う。自分の力に目覚めたばかりなんだ。それでも俺も四天王も茜も……みんないるからな」

「うん……」

「だから、俺達みんなで解決するんだ。いいな、一人で背負うのは許さない」

 その紅緒の強い言葉を聞いて、強く抱きしめる腕の力で桃花はわかった。

「うん……わかった……ごめんね、ありがとう紅緒くん」

「桃花……俺は……」

「紅緒くん……?」

 エレベーターが開くと、扉の前で待ち構えていた四天王に茜に夕子が大騒ぎしていた!!

「うわっ!? なんだよお前ら!」

「きゃっ! みんな!?」

 みんなを見て、一瞬で離れた桃花。
 
「桃花ちゃん! ご無事で!」

 夕子が桃花を見て、泣きそうな声をあげた。
 そうとう心配をかけたようだ。

「総長飛鳥!! なんで置いていくんだよ!!」

 悔しがる柘榴。
 
「なにがあったんだよ! 連絡しても出ないし心配するだろうが!!」

 心配していた珊瑚。

「すぐ情報を共有してくれ、総長」

 真相を知りたがる辰砂。

「紅お兄ちゃん、桃お姉ちゃん何があったのーー!?」

 苺が桃花の手を握った。
 
「桃!! 大丈夫なのぉ~!?」

「み、みんなごめんね。大丈夫。紅緒くんが一緒だったから……」

 苺に手を握られ更に茜に抱きしめられた桃花は、なんか泥まみれ!! と言われて風呂に入り直す事にした。

 新しい行方不明者が出た事を話すと、茜によしよしと頭を撫でられた。
 湯上り後は夕子さんから、浄化と手厚いマッサージを受けやっと疲れた身体がほぐれた気がする。

「わぁ……きれい」

 リビングが優しいキャンドルの炎で、照らされていた。
 どうやら四天王達が、桃花の動揺している心を心配してリラックスのために用意してくれたらしい。
 良いアロマの香りもする。

「……茜ちゃん。五年生でやったキャンドルサービスみたいだね」

「だね~ほんと、みんなが桃花を心配してたよ」

「少し、此処で休んでいけ」

「そーだ地味子、ホットミルク飲めよ」

「ほんの数日なのに、姫がいないことが異常に思えたな」

「まじでねー☆けっこー焦っちゃったし」

「お姉ちゃん~もういきなりいなくならないでね」

「みんな心配かけてごめんね。キャンドルとっても嬉しい」

 しばらく、みんなでリビングで過ごしホットミルクを飲んでいると気持ちも落ち着いてきた。
 うとうとして茜の肩にもたれてしまった。

「そろそろ眠ったらどうだ桃花」

「うん……そうだね」 

「姫、今日はお疲れ様でした」

「桃花ちゃん、つらくなったら俺のとこ来なよね」

「地味子、ゆっくり休めよ!」

「お姉ちゃん、おやすみなさい」

「うん、おやすみなさい」

 今日は部屋に、茜も泊まってくれる事になった。
 クイーンサイズの大きなベッド。
 二人で寝てもまだ余る広さだ。
 
「私は一階にいたけどさ、夕子さんが大慌てで連絡してきてびっくりしちゃったよ」

「説明する時間もなくて……ごめんね」

「飛鳥様に守ってもらった?」

「……うん……」

 怖かったけれど、紅緒に抱き上げられていた時はどこか安心していた。
 それが当然のような、安心感。

「(今は……離れちゃって……逆に変な感じ。同じ家にいるのに……)」
 
「飛鳥様と離れて寂しくなった?」

「えっ……ち、ちがうよ」
 
「好きなら好きって言わなきゃ~」

「だ、だからぁ~~私はまだわかんないだもん……って茜ちゃんこそ好きな人とどうだったの!?」

 複雑な、この感情の正体はまだわからない。

「えへへ~実はね!」

 茜の恋バナが始まった。
 茜がこんな話をするのは、きっと寝る前に桃花が悩まないようになんだろうと気付いた。
 おかげで深く考えずにいつの間にか桃花は眠ることができた。

 その晩、紅緒と四天王は行方不明になった小坂麗子を朝まで探していたことを桃花は知らない。
 そして残酷な知らせが入る。
 
 起きた朝、苦い顔をした紅緒から『あのスマホの持ち主……二人目の行方不明者だ』と告げられた。
 

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