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紅緒のお迎え

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 一階に降りるとロビーで紅緒が待っていた。

「べ、紅緒くん」

 少し離れていただけなのに、彼を見るとホッとすると同時に心臓がドキドキする。
 
「桃花、おつかれ」

 慌てて駆け寄ると、紅緒は微笑む。

「あの! 忙しいのに! わざわざ、ありがとう」

「あぁ。茜に言われたんだけど……大丈夫か?」

「えっ?」

「俺が迎えに来て」

「も、もちろんだよ! ……ありがとう、あの……嬉しいです」

 恐れ多いと桃花はペコペコ頭を下げる。
 まだ桃花の存在を知らない人達が、不釣り合いな男女を見てパスで通過していく。

「それなら良かった。礼なんかいらねーから……あ~腹減ったな」

「た、たしかに」

 おばあちゃんから貰ったお菓子はとっくに消化してしまって桃花もお腹が鳴りそうな空腹だ。

「夕飯もあるけど、ちょっとコンビニ寄って帰るか~雨も上がったしな」

「えー不良っぽい!」

 桃花の驚いた顔に、紅緒が苦笑する。

「ただのコンビニだし、まだ20時だぞ」

「こんな時間に村ではやってる店もなかったし出歩いたこともないの」

「そうか、じゃあ新体験だな! 行くか」

「うん」

 ビルを出ても輝く街。
 二人で歩き出す。
  
 まだ人が混み合う学園都市には様々な人が行き交う。
 モノレールに乗る前に、コンビニで買った肉まん。
 食後のデザートも買った。
 ベンチに座って、アツアツの肉まんを頬張る。

「わぁい、コンビニの肉まんだーあつあつ!!」

「コンビニが嬉しいのか?」

 苦笑しながら紅緒は既に肉まんを食べ終えて、アメリカンドックを食べている。

「うん。村には商店しかなかったし! コンビニの肉まん憧れてたんだ」

「そっか。……村から出て、寂しい気持ちはあるのか?」

「えっ……うーん、まだあんまり実感ないんだよね」

「そうだよな。まだ3日……桃花、あのさ……」

 一瞬、紅緒が言いにくそうな空気で言った。

「紅緒くん……?」

「お前、実際……村に恋人とかいたの?」

 ハムっと肉まんを頬張った桃花は『!?』となる。

「こ、恋人なんか……いっいるわけないよ!!」

「そうか。昼間の話聞いて、俺はそういうの何も考えずにいたなって気付いてさ……当たり前のように桃花が、俺の……」

「え?」

「いや、ホットドッグ食いながら言うことでもないな。じゃあ、今はいないんだな?」

「いないよ! っていうか過去にもいた事なんかないっ!!」

「わかった……そぉか」

 バグバクと紅緒はホットドッグを頬張っている。
 ちょっと安心したような……顔。 

「あ、あの……私も気になってたんだけどね」

「なに?」

「あの……紅緒くん……私達って!!」

「あぁ」

「私達って……!!」

 鬼気迫るような桃花の顔に、紅緒も少し身構える。

「ん……?」

「あの、お友達だって……思ってもいいんだよね?」

「え」

 紅緒が止まる。

「やっぱり……だ、だめ……? 他の人に聞かれたらなんて答えたらいいのかなって、ずっと考えていたんだけど」

 色々考えていた桃花だが、まずはこう答えてもいいのか紅緒に聞きたかったのだ!
 紅緒が数秒固まった。

「べ、紅緒くん……?」

「あ……いや、いいけどさ……」

「あ、ありがとう! 嬉しい!」

 桃花がパーッと笑顔になったのを見て、紅緒も少し目を丸くした後に笑った。

「桃花が嬉しいなら、まぁいいか」

「えっ無理してる?」

「そういう事じゃねーよ。じゃあ行くか。肉まん美味しかったか?」

「うん、すごく!」

「今度はバイクで迎えに行ってやるよ」

「えぇ! 怖いから無理だよぉ~~」

「はは」

 帰りのモノレールはすごく混んでいた。
 紅緒はどこでも目立つ存在で、みんなが彼の美少年っぷりに注目する。

「桃花、潰れないように此処にいろ」

「あ、ありがとう……」

 桃花が潰れないように、腕の隙間に入れてくれる紅緒。
 
「(紅緒くん……優しい……)」

 紅緒は桃花より、ずっと背も高い。
 目の前に見えるのは第二ボタン。
 
「次で降りるからな」

「うん……あっ」
 
 初めての満員電車に戸惑う桃花の手を紅緒が握る。
 
「駅内も混んでるから、掴んでろ」

「う、うん……ありがとう」

 なんとか人に揉まれながら降りる事ができた。

「都会、すごい……はぁクラクラ~村ですれ違う1年分、今日で更新した感じ」

「はは、そうだな。でも慣れるさ。何もなければ迎えに来てやっから、修行頑張れよ」

「う、うん……!!」

 改札を抜けても手は握ったまま、寮へ向けて歩き出す。
 
「(こ、これって……都会じゃ普通……?)」

「夕飯なんだろな~~」

「(紅緒くんは……手を繋いでても……普通だけど、こっちはなんだかドキドキしちゃうよ~~)」

「夕子さんの飯はなんでも美味いから」

 あれだけ食べても、紅緒はすぐにお腹が空いたようだった。
 そして少し歩いたところ、暗いモノレールの高架下から何か聞こえた。

 瞬間、空気が緊張する――!!


「……悲鳴だ……!」

「えっ」

「行くぞ!」

「は、はい!」

 走り出す紅緒に、桃花も走り出す。
 公園のようなスペースだった。
 真っ黒な霧が見える。
 
残穢ざんえか……」

「うっ……!」

 桃花が口を押さえる。

「大丈夫か?」

「う、うん……」

 吐き気がする黒い霧。
 紅緒が刀を出現させて一振りすると、黒い霧は消えた。

「妖魔はいない……でもこの……気配は……」

「あ、あれは……」

 暗い公園にボウ……っと何か光っている。
 警戒しながら紅緒が近づいて、拾い上げた。

「……スマホだ……」

 
 
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