僕を抱いて下さい

秋元智也

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28 君の邪魔になるなら…

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病院へと担ぎ込まれた涼介はしばらく点滴での栄養摂取となった。
栄養失調もあり、酷使しすぎた身体は無理が効かなくなっていたのだ。
熱も下がり意識を取り戻したのはそれから3日後だった。

ぼんやりした視界で周りを見回すと、本田の姿はどこにもなく、真っ白
な病室で寝かされていた。
起きあがろうにも全身に激痛が走り、動く事もできなかった。

 (ここはどこなんだろう?森を抜けようとして…足を滑らせて…)

思い出しながら真っ青になった。

 (そうだ、落ちたんだ!それからどうなったんだろう?)

すると、ドアが開き乾が姿を表した。

 乾  「…涼介…よかった」
 涼介 「乾…俺は…どうして…?」
 乾  「めーさました~…本当によかったぁ~」

涼介に近寄ると抱きしめてきた。
心配で眠れなかったのか、目の下に隈ができていた。
それから数日入院し、退院すると会社から呼び出しがかかった。
しかも社長室に直接来るようにとの事だった。
部屋の前には榊が待っていた。

 涼介 「あの~この間はありがとうございました。」
 榊  「頼まれた仕事をしたまでです。」

後から乾に聞いたのだが、榊が涼介の居場所などを調べてくれたらしい。
それに部屋に侵入し助け出してくれたのも彼らしい。

 涼介 「でも、榊さんのおかげで助かったのは事実です。」
 榊  「社長がお待ちですので。」
 涼介 「はい…。」

社長室には恰幅のいい人が座っていた。
中に入ると、後ろから付いて榊も入ると、そのままドアをしめた。

 榊  「荒川涼介を連れてきました。」
 乾真悟「君が荒川君かね。息子が入れ込んでいるようだが?」
 涼介 「あの…いえ…乾さんは同僚で…心配してくれたんだと…」
 乾真悟「言い訳はいい、毎日家に行ってるそうじゃないか?何をやっ
     てるんだ?」
 涼介 「えっと…料理を作ってるだけです…」
 乾真悟「本当にそれだけかね?榊!」
 榊  「はい。料理も毎日振る舞っているようです。それ以外にも
     ベッドでの関係も」
 涼介 「なっ…それは違っ…」
 乾真悟「否定するのかね?本田圭佑の家にあったものを全て押収した
     のだが、そこに映っていたのは君だろう?穢らわしいと思わ
     ないかね?男に抱かれてそんなによかったのかね?」
 涼介 「いえ…そういうわけじゃ…」
 乾真悟「これからの事だがね、隼人とは二度と会わないで欲しいんだよ。
     分かると思うが、跡取りでね。ちゃんとした婚約者と結婚して
     子供を作って貰わなきゃならんのだよ。男に入れ込んだなど恥
     でしか無いからな。それと、今日付けで、会社も辞めて貰う。
     一緒の職場など未練だろう?」
 涼介 「そんな…!乾には近づかないっ…だから仕事は…」
 乾真悟「そんな事信じるとでも?どうしてもと言うのなら、君にうってつ
     けの仕事を用意しようじゃないか?毎日変わるがわる男に抱かれ
     る仕事などお似合いだろう?」
 涼介 「…くっ…辞めさせて…貰います」
 乾真悟「聞き分けがよくて助かったよ。さぁ、榊おかえりだ。」
 榊  「荒川さん、こちらへ」

悔しくて涙を堪えながら榊について部屋を出ようとすると後ろから声が
かかった。

 乾真悟「そうだ、手切れ金を用意してある、それを持っていくといい。
     どうせ金に困るだろう?」

無常にも扉は閉められ、封筒に300万がつつまれていた。
その日の行事だけ終わらすと、荷物を片付けた。
乾は社長に呼ばれ、2時間は帰って来ないからそのうちに出ていくように榊
からの指示があった。

 湧井 「いきなり辞めるってどうしたんだ?この間の体調くずしたってやつ
     と関係あるのか?それともそんなに悪いのか?」
 涼介 「いえ、大丈夫です。一身上の都合なので。皆さんには…ご迷惑をかけ
     ます」
 湧井 「俺はいいが…顔色悪いぞ?」
 涼介 「平気なので、それに時間がないので…」
 湧井 「乾には挨拶しなくていいのか?同期で仲良かっただろ?」
 涼介 「もう、彼は知ってますよ。」

片付け終わると荷物を段ボールに詰め込み持ち上げた。

 涼介 「お世話になりました。どうかお元気で。」
 湧井 「あぁ、荒川もな!他のメンバーには伝えておく。みんな定時で帰ったしな
     それに、もっと早くいって欲しかったな~。一緒に飲みにでもさ!」
 涼介 「すいません、家も引っ越したので、バタバタしてて。」

乾がもどらぬうちに会社を出た。
家も、も抜けの空にし他のアパートに荷物を運んである。
そこは榊が手配したせいか、すぐに終わらされた。

 涼介 「明日から仕事どうしよっかな~」

乾と話しているのは結構楽しかったが、それも今日で終わりを告げた。
仕事も失い、残ったのは自分だけ…虚しく誰もいない空間を眺めているうちに涙が
溢れてきた。

 涼介 「一人ぼっちかぁ~、こんなのいつもの事なのに…何で…」

 (何でこんなに心が痛いんだろう?)
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