52 / 75
52話 牽制
しおりを挟む
舞台の幕が降りると電気がついた。
その頃には郁也は体育館を出ていた。
自分の見た目で騒がれるのが嫌だったからだ。
お面を被ってはいても騒ぎにならないうちに立ち
去るのが一番だった。
それは分かっている、いるのだがつい足が向いて
しまうのは控え室の方だった。
少しでも歩夢に会えるだろうかと、期待してしま
う。
きっと軽蔑されるかもしれない。
それでも、『良かったよ。』と伝えたかった。
裏手に回ると、一番近いトイレの前を通ると、
そこで、何か揉めているような声が聞こえて来た
のだった。
その頃。
舞台を終えて、化粧を落としたくて一番近くのト
イレへと駆け込んでいた。
歩夢にしてはずっと化粧をしたままなのが少し気
持ち悪かった。
嗅ぎ慣れない化粧の匂いに、軽く頭が痛くなる。
クレンジングを貸して貰うと、手に馴染ませてか
ら、バシャバシャと洗う。
「ふぅ~、やっと落ちたかな……」
歩夢はクンクンと匂いがしない事を確認して鏡を
覗き込んだのだった。
そこにはいつもの自分が写っている。
舞台上にいた自分はもういない。
やっぱり慣れ親しんだ自分だった。
「化粧って本当にすごいな……」
「あれ~?さっきのシンデレラちゃんじゃん?
どうしたの?今一人なの?」
「すぐに退くので、使ってもらっていいです…」
洗面所を占領している事を言ってきているのだと
思うと、荷物をまとめると出ていこうとした。
「待った、待った~!」
目の前を遮るように立たれると、出て行けない。
「そこ使っていいですよ?」
「せっかく似合ってたのに~、化粧落とさなくて
も良かったのにな~。そうだ、この後一緒に回
ろうよ?俺、どっちでもいけるクチなんだよ」
『男でも、これならイケるな……』
「あの…言っている意味がわからないんですけど?」
意味がわからないと言って再び出て行こうとすると、
今度は腕を掴み掛かられた。
今は一般人も来ているので、この見知らぬ男の
目的も全く見当もつかない。
「付き合ってよ?今から暇でしょ?その格好の
ままでいいからさ~、それとも脱がせて欲し
かったりするの?」
「結構です。あの。悪いんですけど、暇じゃ無
いんでこれで失礼します」
握られた手に力が籠った。
「ちょっ、痛いんですけど……」
「逃げようとするからだろ?それとも彼女でも
待ってるの?なら、一緒に呼んじゃう?」
『簡単に連れ帰れそうだな。力も弱いし……』
「本当に離してくださいっ!」
「やーだ!君が付き合ってくれたらいいぜ?」
「悪いが、その子には先約がいるんだ。離して
もらおうか?」
後ろから耳覚えのある声がしたと思うと、掴ま
れた腕が自由になった。
「郁也兄さんっ!なんで……」
「歩夢、遅くなったな?さぁ、行くぞ」
そう言って郁也に引かれるようにその場を離れ
た。
「ちょっと、どうしてここにいるんだよっ!」
「あのままだったら…危なかっただろ?少しは
警戒しろよ!」
来た事を責めようとした歩夢を、郁也は逆に叱
りつけた。
身の危険すら感じていなかった事に、腹を立て
たのだった。
その頃には郁也は体育館を出ていた。
自分の見た目で騒がれるのが嫌だったからだ。
お面を被ってはいても騒ぎにならないうちに立ち
去るのが一番だった。
それは分かっている、いるのだがつい足が向いて
しまうのは控え室の方だった。
少しでも歩夢に会えるだろうかと、期待してしま
う。
きっと軽蔑されるかもしれない。
それでも、『良かったよ。』と伝えたかった。
裏手に回ると、一番近いトイレの前を通ると、
そこで、何か揉めているような声が聞こえて来た
のだった。
その頃。
舞台を終えて、化粧を落としたくて一番近くのト
イレへと駆け込んでいた。
歩夢にしてはずっと化粧をしたままなのが少し気
持ち悪かった。
嗅ぎ慣れない化粧の匂いに、軽く頭が痛くなる。
クレンジングを貸して貰うと、手に馴染ませてか
ら、バシャバシャと洗う。
「ふぅ~、やっと落ちたかな……」
歩夢はクンクンと匂いがしない事を確認して鏡を
覗き込んだのだった。
そこにはいつもの自分が写っている。
舞台上にいた自分はもういない。
やっぱり慣れ親しんだ自分だった。
「化粧って本当にすごいな……」
「あれ~?さっきのシンデレラちゃんじゃん?
どうしたの?今一人なの?」
「すぐに退くので、使ってもらっていいです…」
洗面所を占領している事を言ってきているのだと
思うと、荷物をまとめると出ていこうとした。
「待った、待った~!」
目の前を遮るように立たれると、出て行けない。
「そこ使っていいですよ?」
「せっかく似合ってたのに~、化粧落とさなくて
も良かったのにな~。そうだ、この後一緒に回
ろうよ?俺、どっちでもいけるクチなんだよ」
『男でも、これならイケるな……』
「あの…言っている意味がわからないんですけど?」
意味がわからないと言って再び出て行こうとすると、
今度は腕を掴み掛かられた。
今は一般人も来ているので、この見知らぬ男の
目的も全く見当もつかない。
「付き合ってよ?今から暇でしょ?その格好の
ままでいいからさ~、それとも脱がせて欲し
かったりするの?」
「結構です。あの。悪いんですけど、暇じゃ無
いんでこれで失礼します」
握られた手に力が籠った。
「ちょっ、痛いんですけど……」
「逃げようとするからだろ?それとも彼女でも
待ってるの?なら、一緒に呼んじゃう?」
『簡単に連れ帰れそうだな。力も弱いし……』
「本当に離してくださいっ!」
「やーだ!君が付き合ってくれたらいいぜ?」
「悪いが、その子には先約がいるんだ。離して
もらおうか?」
後ろから耳覚えのある声がしたと思うと、掴ま
れた腕が自由になった。
「郁也兄さんっ!なんで……」
「歩夢、遅くなったな?さぁ、行くぞ」
そう言って郁也に引かれるようにその場を離れ
た。
「ちょっと、どうしてここにいるんだよっ!」
「あのままだったら…危なかっただろ?少しは
警戒しろよ!」
来た事を責めようとした歩夢を、郁也は逆に叱
りつけた。
身の危険すら感じていなかった事に、腹を立て
たのだった。
1
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
エスポワールで会いましょう
茉莉花 香乃
BL
迷子癖がある主人公が、入学式の日に早速迷子になってしまった。それを助けてくれたのは背が高いイケメンさんだった。一目惚れしてしまったけれど、噂ではその人には好きな人がいるらしい。
じれじれ
ハッピーエンド
1ページの文字数少ないです
初投稿作品になります
2015年に他サイトにて公開しています
当たって砕けていたら彼氏ができました
ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。
学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。
教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。
諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。
寺田絋
自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子
×
三倉莉緒
クールイケメン男子と思われているただの陰キャ
そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。
お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。
お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。
消えたいと願ったら、猫になってました。
15
BL
親友に恋をした。
告げるつもりはなかったのにひょんなことからバレて、玉砕。
消えたい…そう呟いた時どこからか「おっけ〜」と呑気な声が聞こえてきて、え?と思った時には猫になっていた。
…え?
消えたいとは言ったけど猫になりたいなんて言ってません!
「大丈夫、戻る方法はあるから」
「それって?」
「それはーーー」
猫ライフ、満喫します。
こちら息抜きで書いているため、亀更新になります。
するっと終わる(かもしれない)予定です。
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる