僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也

文字の大きさ
上 下
37 / 75

37話 お泊まり

しおりを挟む
水戸を置いて走り出す歩夢を追いかけて大学を出
ていた。

街の中では飛び出して危険な場所は幾つでもある。
早く見つけなければと焦れば焦るほどに遠ざかる。

「待ってくれ……歩夢っ!」

先回りして駅に向かうか?
このままだとすぐに見失いそうだった。

人混みに紛れればもう後を追えない。

一旦道を逸れると駅へと向かった。
改札口で見張る事にしたのだった。


その頃、歩夢の方はといえば、がむしゃらに走っ
たせいで息切れしていた。

人に紛れるように人通りの多い道を選んだ。

どうせ家に行っても先回りされていそうだったので、
1区間分歩くことにした。

家に帰らず綾野に電話して今日だけでも泊めてもら
えないかと電話をかけたのだった。

「お!水城じゃん、どうした?勉強のやり過ぎで疲
 れたのか?」

「ごめん、今日だけ泊めてもらえないかな……」

「ん?どうしたんだよ?何かあったのか?」

「うん……ちょっとね……」

「ま、いいぜ。昨日から親も旅行でさぁ~飯は外
 でもいいか?」

「それなら僕が作るよ」

家族の事でなんて言えない。
突然の訪問にも、快く許してくれる綾野には本当
に感謝している。

家に行っても、何も聞いてこなかった。

「おう、いらっしゃっい。勝手に上がっていいぞ」

「ありがとう」

「ゲームでもするか?」

「うん…そうだね、気分転換にいいかも」

「そうこなくっちゃな!」

綾野の部屋にくるのはいつぶりだろう。
何も変わっていなかった。

乱雑に並んだ本棚に、テレビの前に無造作に置か
れたゲーム機。
さっきまでやってましたと言わんばかりの温もり
が感じられた。
あきらかに勉強していなかった事を指している。
勉強ではなく、遊んでいた事がバレバレだ。

「補習は大丈夫か?」

「それを言うなって、思い出さないようにしてん
 のによ~」

「ははっ……やっぱり綾野といると落ち着くよ…」

「……よし!気を取り直してゲームやろうぜ、この
 前買った奴がさ~二人プレイなんだよ。手伝えっ
 て~の」

「うん」

まだ明るいうちからテレビゲームに熱中するなんて
一年の時以来だろうか。

スーパーに寄ってきたので食材はある。
夕方になると適当にフライパンや、そこにある調味
料を借りて食事を作ったのだった。

「マジで器用だよな~。うまっ!」

「普通だよ。いつもやってるし……」

「でも、新しい母ちゃん来たんだろ?あっ…言い
 たくないならいいんだけどさ」

「いや、平気。まどかさんはすっごく気を使って
 くれて僕にばかり負担がないようにってしてく
 れてる…」

それでも、家に帰りたいくない。
今だけはまだ、帰りたくないのだった。

それを察するようにそれ以上の追求はしてこなか
った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

処理中です...