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32話 世界一可愛い弟
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夏休み中はずっと部屋にこもって勉強の毎日だった。
美咲がたまに邪魔しにきたが、すぐに親に呼ばれて
出て行った。
「美咲ちゃん今日も元気だね~」
『邪魔されるのは困るんだよ…歩夢との二人っきり
の時間だっていうのに……あぁ、押し倒したい』
「………」
いっそ美咲にいてもらった方がマシだと思える毎
日を過ごしていたのだった。
たまに触れてくる手が、あきらかに普通じゃない。
勉強中に左手を絡めてきたり、膝を触ってきたり
と身体へのボディタッチが増えてきた気がする。
いつも美咲が郁也にやっている事と一緒だった。
触れられる方としてはゾクッとするので、やめて
欲しいものだった。
「歩夢、恋人いないって言ってたよね?いっそ俺
と付き合わない?」
『歩夢の恋人になりたいな~。そうしたら○○を
○○したりできるのにな…』
規制がかかりそうな単語に、聞き覚えはなくとも
それが卑猥な事に違いないだろうと思う。
「そういえば、明日オープンキャンパスあるけど
行くでしょ?」
『一緒に行くの、楽しみにしてたんだ~』
「まぁ……でも、一人で行くからっ!」
「危ないかもしれないから、一緒に行こう?」
『こんな可愛い歩夢を一人になんかしたら猛獣に
食べられたら大変だからね~。絶対に危険だ!』
どんな風に見えているのだろう。
結局郁也が一人で行く事を認めはしなかったのだ
った。
案内がいる事には嬉しいのだが……それ以上に周
りからの視線が非常に痛い。
『誰だ?あいつ。山尾先輩の横に並ぶなんて…非
常識な奴だなー』
『きっと粛清されるぞ?あんなに堂々と歩けば当
たり前だよな~』
『平凡な顔付きして生まれたくせに山尾先輩の横
に並ぶなんて身の程知らずだよな~』
笑い声や、蔑む声が聞こえてくる。
やっぱり一人できたかった。
歩夢自身、郁也に押し切られて一緒にきてしまっ
たが、後悔しかない。
「もうちょっと離れて歩いてもらえますか?」
「なんで?家族なんだしいいじゃん。」
『あれ?照れてる?可愛い~~~俺の歩夢って最
高に可愛い』
この脳天までお調子者を殴ってやりたいと、今日
ほど思った事はなかった。
いきなり手を握ると、案内した場所があると、歩
き出した。
殺気立った視線があちらこちらからする。
このまま無事に家に帰れるのか不安になるほどだ
った。
「なぁ、本当に離してほしいんだけど……」
「ここ、俺が入ってるサークル。映画研究会へよ
うこそってね。俺はさ、取られる側じゃなくて
取る側になりたいんだ。だけど、この見た目だ
ろ?結局は映像に映る側になっちゃったってわ
け……もし、ここに来るようなら…見てほしい
って思ってさ」
「……」
「お、郁也お前来てたのか?ん?その子が今の
彼氏か?」
じぃーと眺めると、フッと笑った。
「なんかめっちゃ普通だな?」
「違うぞ?歩夢は可愛いんだ。俺が初めて自分
から好きになったんだからな!俺の世界で一
番、可愛い弟だ!」
「………!」
可愛い……弟………?
郁也は胸を張って友人に自慢したようだったが、
歩夢には聞こえていなかった。
毎日のように言ってくる「好き」は家族として
だろうか?
少しだけ、心が傾いていたせいだろうか。
一瞬心に刺さるものがあった。
ズキっとした痛みはじわじわと蝕む。
「ちょっとトイレ……ついてこないでよ!」
「あ、おい!」
「あんまり揶揄うなよ?それに郁也親衛隊が黙
ってねーだろ?早く捕まえとけよ?」
「あぁ、わかってる」
そう言って郁也は後を追いかけるように走って
いった。
美咲がたまに邪魔しにきたが、すぐに親に呼ばれて
出て行った。
「美咲ちゃん今日も元気だね~」
『邪魔されるのは困るんだよ…歩夢との二人っきり
の時間だっていうのに……あぁ、押し倒したい』
「………」
いっそ美咲にいてもらった方がマシだと思える毎
日を過ごしていたのだった。
たまに触れてくる手が、あきらかに普通じゃない。
勉強中に左手を絡めてきたり、膝を触ってきたり
と身体へのボディタッチが増えてきた気がする。
いつも美咲が郁也にやっている事と一緒だった。
触れられる方としてはゾクッとするので、やめて
欲しいものだった。
「歩夢、恋人いないって言ってたよね?いっそ俺
と付き合わない?」
『歩夢の恋人になりたいな~。そうしたら○○を
○○したりできるのにな…』
規制がかかりそうな単語に、聞き覚えはなくとも
それが卑猥な事に違いないだろうと思う。
「そういえば、明日オープンキャンパスあるけど
行くでしょ?」
『一緒に行くの、楽しみにしてたんだ~』
「まぁ……でも、一人で行くからっ!」
「危ないかもしれないから、一緒に行こう?」
『こんな可愛い歩夢を一人になんかしたら猛獣に
食べられたら大変だからね~。絶対に危険だ!』
どんな風に見えているのだろう。
結局郁也が一人で行く事を認めはしなかったのだ
った。
案内がいる事には嬉しいのだが……それ以上に周
りからの視線が非常に痛い。
『誰だ?あいつ。山尾先輩の横に並ぶなんて…非
常識な奴だなー』
『きっと粛清されるぞ?あんなに堂々と歩けば当
たり前だよな~』
『平凡な顔付きして生まれたくせに山尾先輩の横
に並ぶなんて身の程知らずだよな~』
笑い声や、蔑む声が聞こえてくる。
やっぱり一人できたかった。
歩夢自身、郁也に押し切られて一緒にきてしまっ
たが、後悔しかない。
「もうちょっと離れて歩いてもらえますか?」
「なんで?家族なんだしいいじゃん。」
『あれ?照れてる?可愛い~~~俺の歩夢って最
高に可愛い』
この脳天までお調子者を殴ってやりたいと、今日
ほど思った事はなかった。
いきなり手を握ると、案内した場所があると、歩
き出した。
殺気立った視線があちらこちらからする。
このまま無事に家に帰れるのか不安になるほどだ
った。
「なぁ、本当に離してほしいんだけど……」
「ここ、俺が入ってるサークル。映画研究会へよ
うこそってね。俺はさ、取られる側じゃなくて
取る側になりたいんだ。だけど、この見た目だ
ろ?結局は映像に映る側になっちゃったってわ
け……もし、ここに来るようなら…見てほしい
って思ってさ」
「……」
「お、郁也お前来てたのか?ん?その子が今の
彼氏か?」
じぃーと眺めると、フッと笑った。
「なんかめっちゃ普通だな?」
「違うぞ?歩夢は可愛いんだ。俺が初めて自分
から好きになったんだからな!俺の世界で一
番、可愛い弟だ!」
「………!」
可愛い……弟………?
郁也は胸を張って友人に自慢したようだったが、
歩夢には聞こえていなかった。
毎日のように言ってくる「好き」は家族として
だろうか?
少しだけ、心が傾いていたせいだろうか。
一瞬心に刺さるものがあった。
ズキっとした痛みはじわじわと蝕む。
「ちょっとトイレ……ついてこないでよ!」
「あ、おい!」
「あんまり揶揄うなよ?それに郁也親衛隊が黙
ってねーだろ?早く捕まえとけよ?」
「あぁ、わかってる」
そう言って郁也は後を追いかけるように走って
いった。
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