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23話 お兄ちゃん

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試験も終わって、夏休み前の宿題と課題。
諸々のセットを貰うと、こっちのがため息が出そう
だった。

受験生にくらい、宿題を減らしてもいいと思う。

今から忙しくなるというのに…。

一式鞄にしまうと、体育館で校長の挨拶を聞いて午
前中には学校を後にしたのだった。

「水城~、ちょっとゲーセン寄ってかね~?」

「いや、今日は図書館でしばらく勉強してくよ。」

「真面目だな~、俺はもう勉強はいいや。補習だけでも
 うんざりだしさ~」

綾野は手近な大学を受けると言っていた。
もし、受からなければ、実家を継ぐ。

酒屋の息子である綾野はどうにも高校卒業して実家を継
ぐか大学まで行ってから実家を継ぐかで暫く親と喧嘩し
た事があるくらいだった。

地元ではそこそこ有名な酒蔵で跡取りは綾野家には長男
と長女の二人しかいないと聞いていた。

綾野自身、酒に興味がなく、跡を継ぐ事に反対だった。
長女はその逆で、すぐにでも継ぎたいと今中学生ながら
にお酒について勉強を始めているときく。

父親がそれを認めるまでは、綾野自身のらり、くらりと
かわすつもりだという。

「本当にそれでいいのか?」

「いいんだよ。俺は別にやりたい事もねーけどさ、あい
 つが継ぎたいっていうなら、それを譲るのが兄っても
 んだろ?」

「そっか…」

「そういえば、水城も兄ちゃんできただろ?俺のよう
 に優しい兄ちゃんか?」

「それはどうかな…変な人だよ。確かに頼りにはなるけど」

「ふ~ん。ま、いいや。じゃ~、またなっ!」

綾野と別れると市の図書館へと向かった。
静かで勉強に向いていた。

前に郁也が言っていた自習室に来ると個室っぽいせいか、
静かで誰も居なく感じて勉強には最適だった。

窓から差し込む光は強い紫外線を帯びていて、カーテンを
締める。

窓はクーラーをつけるよりは自然の風のがいいと思うと少
し開けておく。

「うん、結構快適かも…」

久しぶりに一人で自習している気がした。
家ではなんだかんだと、理由をつけては郁也が側にいたし、
手が止まれば必ずと言っていいほど、歩夢の手元を見て説
明をしてきた。

「本当に、あの人は何がしたいんだろう……」

自分に興味がなさそうな歩夢が気に入らないのだろうか?
妹の美咲は一目で兄の郁也にべったりになったし、街を歩
けば知らない女性から声をかけられていた。

歩夢の存在は珍しく思ったのだろうか?

だったら……そっとしておいて欲しいのに。

あまりに勘違いしそうなほど、じっと見つめられたり、毎
回可愛いなど、男の歩夢には似つかわしくない言葉だった。

それを何度も言われれば流石に恥ずかしくなる。
勘違いだと分かっていても、思い上がりそうになってしま
う。

歩夢自身、人に気持ち悪がられるこの力のせいで誰も信じ
る事ができずにいた。

みんな、嘘ばっかり………。

昔からそう思ってきたのだ。
だから、今は嘘を言われない綾野とつるむ事が多いのだ。

平凡な歩夢には周りからちやほやされる人の気持ちなど分
からなかった。
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