君は死なせない

秋元智也

文字の大きさ
上 下
20 / 32

20話

しおりを挟む
身体がふわふわした感覚がする…。

まるで他人が身体を操ってでもいるような感じがした。
どう言うわけか、家の中にいる気がする。

霧島はさっき確かに駅のそばにいたはずだった。
そして上田が来て、兄の永人が……?

肝心なことが思い出せない。
一体何があったのだろう?

自分の部屋に向かうはずが、なぜが父の書斎へと来ていた。
本棚を押すと、奥に扉が開く。

『うそっ………何これ……』

全く知らなかった。
自分の家なのに…こんな仕掛けがあったなんて。
でも、確かに今自分は自分の足で歩きながら家にきている。

父は今、日本に帰ってきている。
いつ家に帰ってくるかわからない。
それなのに…いいのだろうか?

足はすでに先に進んでいく。
まるで導かれるように階段を降りていく。

そこには永人の行動や、どんな人間と連んでいるとかがぎっ
しりと書かれていた。素行調査でもされていたのだろう。

そして横の書類は雅人のことが書かれていた。


交友関係……無し
学歴…………問題なし
家での態度…問題なし
女関係………無し
オナニー……自室にて


多くの情報が書き続かれていた。
知りたくもないことまで事細かに書かれていた。

「こんな事………プライベートもないじゃないか……」

すると、上で話声が聞こえてきた。
降りてくる気配がする。

「まずい……どうしよう」

勝手に入った事がバレるのも良くないし、なぜここの事を知っ
ていたかと問われると困る。

本当に、どうしてか自分でもわからないからだった。

あたふたとしている間に、父の顔が見えた。

目の前を素通りしていく。

「……父さん………これは………?」

話しかけても、全く反応しない。
まるで見えていないかのような反応だった。

横にいるのは秘書だろう。

「雅人はどうだ?」

「いまだに目覚めていません」

「そうか………、役に立たない息子だ。永人はそのまま牢獄で
 自殺に見せかけて殺せ。絶対に感じられるなよ?」

「はい、では、雅人さんは?」

「そうだな………まだ利用価値があったんだが、しばらくその
 ままでいい。目覚めないようならそのまま、死なせてやれ」

「分かりました」

聞きたくなかった。
父親のこんな言葉、できる事なら一生聞きたくなんかない。

父に認められたくて頑張ってきたのに…。
それなのに……。

「僕は父さんにとって、どうでもいい存在なの?」

「全く、あの女の子供はどっちも役に立たなかったな……」

「父さん……答えてよ……父さん………」

涙が溢れ出てくる。
それでも気づいてさえもらえなかった。

机のモノを引っ掛けると、ガシャンと音がした。

「誰だ?誰かいるのか?」

モノが落ちた事で、父は誰かの存在に気づいたらしい。

「父さん………」

「雅人……お前どうして?今病院にいたんじゃ……」

「父さん……僕は父さんにとって何?母さんと一緒でいらなく
 なったら殺すの?」

「違うんだ…雅人、お前は俺の自慢の息子だぞ?いい子だ。だ
 から、さっきの事は忘れるんだ?いいね?」

そう言うと、いきなり近くにあった物で殴りかかってきた。

目を見張ると殴りつけたはずの場所には雅人はいなかった。

そう、今、確かに殴られたはずだったのだ。
だが、それは身体をすり抜け地面に勢いよく落下したのだった。

「それが答えなの?……父さん………」

「違うんだ……なぜだ、なぜ当たらない………雅人お前は一体……」

自分でもわからない。
いきなり手を前に伸ばすといきなり父が壁に向かって勢いよく
ぶつかっていた。

衝突した勢いで壁にかかったモノが落ちてきていた。

「げほっ…ごほっ……やめてくれ、雅人……」

『お前は……いらない………』

自分の声であって、自分じゃない声。
誰が言ったのだろう。
雅人は驚きながら周りを振り返る。
そこには誰もいなかった。

目の前にガラスに映る自分だけだった。

それも自分そっくりな誰か…だった。

白目の部分が真っ黒で、黒目が白い。
こんなの自分じゃない!

そう思った瞬間、目の前にあった父親だった者がひしゃげて逝く
のを目撃してしまったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オニが出るよ

つぐみもり
ホラー
僕は喘息の治療のため、夏休み中は田舎の祖父母の家に泊まることになっていた。 山道で出会った、狐面をした虹色の髪の少年が警告する。 「帰れ、お前のような奴が来る所じゃない」 遠くで、甲高い悲鳴のような鳴き声が響いた。

冴戸さん

郷新平
ホラー
高校生の綾瀬浩介は友達にからかわれた怒りで嘘を吐いた。 そこで出てきた女性の名前、彼女は実在しているのか? 浩介の犯した罪は?

気まぐれホラー

黒色の猫
ホラー
作者の気まぐれ、ホラーっぽい話 今の所、予定はないですが、もしかしたら、今後も投稿するかもしれないので、完結にはしてません。

魔の巣食う校舎で私は笑う

弥生菊美
ホラー
東京の都心にある大正時代創立の帝東京医師大学、その大学には実しやかにささやかれている噂があった。20年に一度、人が死ぬ。そして、校舎の地下には遺体が埋まっていると言う噂があった。ポルターガイストの噂が絶えない大学で、刃物の刺さった血まみれの医師が発見された。他殺か自殺か、その事件に連なるように過去に失踪した女医の白骨化遺体が発見される。大学所属研究員の桜井はストレッチャーで運ばれていく血まみれの医師を目撃してしまう……。大学の噂に色めき立つオカルト研の学生に桜井は振り回されながらも事件の真相を知ることになる。今再び、錆びついていた歯車が動き出す。 ※ライトなミステリーホラーです。

ヒジガミ様

白雪 アリス
ホラー
ハジマリのハジマリ ある日俺らは開けてはならない何かを開けてしまった… あの時俺らがあんなことをしなければ… あんなことにならなかったのに ~5人組の運命はいかに~

こわくて、怖くて、ごめんなさい話

くぼう無学
ホラー
怖い話を読んで、涼しい夜をお過ごしになってはいかがでしょう。 本当にあった怖い話、背筋の凍るゾッとした話などを中心に、 幾つかご紹介していきたいと思います。

殺したはずの彼女

神崎文尾
ホラー
 異様な美少女、平岡真奈美。黒瀬柚希はその美少女を殺した。だというのに、翌日もその翌日も彼女は学校に来て、けらけらと笑っていた。  故意ではなかったものの間違いなく自分が殺してしまったという罪悪感と、加害者としての意識にさいなまれながら、被害者である真奈美がすぐそばで笑っている異常事態に心身を病み始める柚希だったが、ある日からその周辺で異様な事態が起こり始める。田舎町を舞台に繰り広げられるホラーストーリーの最後はいったいどうなるのか。神崎文尾の新境地、ここに完成。

童貞村

雷尾
ホラー
動画サイトで配信活動をしている男の元に、ファンやリスナーから阿嘉黒町の奥地にある廃村の探索をしてほしいと要望が届いた。名前すらもわからないその村では、廃村のはずなのに今でも人が暮らしているだとか、過去に殺人事件があっただとか、その土地を知る者の間では禁足地扱いされているといった不穏な噂がまことしやかに囁かれていた。※BL要素ありです※ 作中にでてくるユーチューバー氏は進行役件観測者なので、彼はBLしません。 ※ユーチューバー氏はこちら https://www.alphapolis.co.jp/manga/980286919/965721001

処理中です...