君は死なせない

秋元智也

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8話

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どうしてこんな…。

ただ脅して弟に怪我させたいだけだった。

「裏の駐車場で何かあったらしいですね~」

騒がしくなるのを横目に上田は霧島の事を離さなかった。

「あの……離してくれないかな?」

「うん、いいけど…離したら逃げるでしょ?」

「それは……」

『うん』とは答えられなかった。
やっぱり雅人といると危険な目にあう。
それが今さっき実証されたのだ。

それなのに、まだ一緒にいるとでも言うのだろうか?
そんな人はいない。
自分が一番大事なのに……なのに……。

「どうして逃げようとするの?怖いのか?俺が怪我すると
 思って?」

「別に……そんな訳じゃ……」

見透かされている。
そう思うと、余計に言葉が出てこなかった。

上田は大きく息を吐くと雅人の腕を掴んだまま歩き出した。

「おいっ…どこ行くんだよ……」

「保健室。怪我したんだろ?」

言われてみれば、頬を掠めたのか手で拭いとると血が付いた。

「ほら、そんなんで拭くなって…ちゃんと綺麗なガーゼで消毒
 するから待ってて」

さっきまでの事故がなかったかのように、普通に話してくる。
こんな関係を求めてはいたけど、実際にそうされると少し気恥
ずかしくなるのだった。

保健室には担当医がおらず、たまたま席を外しているらしかっ
た。

上田は手慣れた手つきで保健室の備品を漁ると消毒液とガーゼ
を持って来て消毒すると綺麗に拭き取り、薬を塗りつける。

新しいガーゼを当てるとテープで止めた。

「これで、よしっと!」

「あ……ありがと」

「うん、言えるじゃん。俺は素直なままの霧島のがいいと思う
 よ?」

「それって……どう言う」

にっこり笑うとぎゅっと抱きしめられていた。
人の体温ってこんなに温かかったのだろうか?と感じてしまう
ほどに、心地よくて温かかった。

人と接するのを極力避けて来たから、こんなに誰かが歩みよっ
て来てくれたのは初めてだった。

あの時の子みたいだ…。

今は思い出せない、ずっと雅人にべったり側にいてくれた、あ
の子……。

「君は……一体………」

「俺は戻るけど、霧島はどうする?少し休んでく?」

「うん…ちょっと休んでいくよ…」

「分かった。先生に言っとく。ゆっくりしててよ」

こんなに安心出来るのも不思議でならない。
ベッドに横になると瞼を閉じた。

別にたいして眠くもなかったはずなのに、しっかり眠ってしま
っていた。
起きた時には、すでに帰りの時間だった。

「……今……何時……」

「おぉ、目が覚めたか?もう下校時間だぞ?」

「えっ!うそっ……」

時計を眺めるとすでに時間がだいぶ経ったのだと気付かされた
のだった。
養護教諭の先生も起こしてくれればいいのに、声すらかけてく
れなかったらしい。

慌てて帰って来たが、父から言われた経営学を教えてくれる先
生はとうに帰ったあとだと言う。

「………」

これは何を言われるかと悩んだが、こればっかりはどうしようも
なかった。
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