君は死なせない

秋元智也

文字の大きさ
上 下
5 / 32

5話

しおりを挟む
いつからだろう。
誰とも話そうとしなくなったのは……。

「霧島~、きりしまく~ん?」

「うわぁっ………えっと、なんだっけ?」

「うわぁ~、俺と話しててそれ~?まぁいいけどさ~、ちょっ
 ぴり寂しいなぁ~」

「ご…ごめん………ちょっと考え事してて……」

「なら、今日は寄り道しよっか?学校終わったらこの周辺を案
 内してよ!」

「うん、それでいいなら…分かった」

上田の案内をかって出ると、帰りに久々の買い食いをしながら
話した気がする。

「なんでいつも皆遠巻きなんだろうな~。霧島って結構話しや
 すいじゃん?」

「あ………それは……」

話ずらい話題だった。
だけど、誰かから聞くより自分で言ったほうがいいと覚悟を決
めると、つい先日の事故の事をはなした。

「なんだよそれ!霧島のせいじゃないじゃん?」

「うん……そうなんだけど……」

「そう、思い詰めんなって!俺がついてるじゃん?これからは
 ずっと一緒だよ!」



『これからはずっと一緒だよ』




その言葉が一瞬忘れかけていた記憶を思い出した気がした。

「ずっと……」

「あぁ、俺ら友達だろ?」

「う…うん。そうだね…」

初めて出来た友達。
それが雅人には一番嬉しかった。

もちろん家に帰れば、いつも通り日常が待っていた。

「ちょっと、遅くまで何やってたのよ?」

母親代わりのキャサリンは今日も機嫌が悪かった。

「さっき直人さんから電話があって、あんたに話があるって言う
 のに。部屋にもいないんだから……風呂に入ってるって言って
 おいたわ。また電話があったらちゃんと合わせてよね!私の生
 活がかかってるんだからっ!」

「…はい」

この人にとっては、自分はどうでもいい存在なのだ。
なら、いっそ消えてくれればいいのに…。

一応母親という事になってはいるが実際はただの他人。

父親の直人でさえも、年に数回会うだけの存在だ。
一番近くにいるはずの兄は最近では悪い連中と連んでいるせいで
帰りも遅い。

キャサリンに言われた通りに電話を取るとさっきまでお風呂に入
っていたと弁明したのだった。

「そうかなら仕方がないな、だが、私の時間を無駄にするな!い
 いな?」

「はい…………」

「本題に入るが、勉学以外にも経営学も学んでもらう。明日から
 先生が家に来るようにしたから帰りはすぐに帰ってきなさい。
 質問は受け付けない。全てを完璧にこなしたなら質問に答える
 としよう。以上だ」

まるで業務連絡のような会話が終わるとすぐに切られたのだった。
忙しい人であるのは知っていたが、これは息子に話す内容ではな
かった。

「今日も疲れた……上田……綾くんか………」

一緒に話していると安心する気持ちになった。
それがなんなのか未だわからないけど、息苦しい毎日からやっと
見つけたオアシスのような存在だった。

だが、明日からそんな時間さえも奪われてしまう。

「もっと彼と話したかったな~」

目を瞑ると彼の事を考えていた。
すると、するりと誰かに抱きしめられる気がした。


『大丈夫だよ。雅人くん、僕がずーっと一緒だよ?必ず護って
 あげる』


毎度見る夢に中で温かい温もりに触れた気がしたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オニが出るよ

つぐみもり
ホラー
僕は喘息の治療のため、夏休み中は田舎の祖父母の家に泊まることになっていた。 山道で出会った、狐面をした虹色の髪の少年が警告する。 「帰れ、お前のような奴が来る所じゃない」 遠くで、甲高い悲鳴のような鳴き声が響いた。

冴戸さん

郷新平
ホラー
高校生の綾瀬浩介は友達にからかわれた怒りで嘘を吐いた。 そこで出てきた女性の名前、彼女は実在しているのか? 浩介の犯した罪は?

気まぐれホラー

黒色の猫
ホラー
作者の気まぐれ、ホラーっぽい話 今の所、予定はないですが、もしかしたら、今後も投稿するかもしれないので、完結にはしてません。

魔の巣食う校舎で私は笑う

弥生菊美
ホラー
東京の都心にある大正時代創立の帝東京医師大学、その大学には実しやかにささやかれている噂があった。20年に一度、人が死ぬ。そして、校舎の地下には遺体が埋まっていると言う噂があった。ポルターガイストの噂が絶えない大学で、刃物の刺さった血まみれの医師が発見された。他殺か自殺か、その事件に連なるように過去に失踪した女医の白骨化遺体が発見される。大学所属研究員の桜井はストレッチャーで運ばれていく血まみれの医師を目撃してしまう……。大学の噂に色めき立つオカルト研の学生に桜井は振り回されながらも事件の真相を知ることになる。今再び、錆びついていた歯車が動き出す。 ※ライトなミステリーホラーです。

ヒジガミ様

白雪 アリス
ホラー
ハジマリのハジマリ ある日俺らは開けてはならない何かを開けてしまった… あの時俺らがあんなことをしなければ… あんなことにならなかったのに ~5人組の運命はいかに~

こわくて、怖くて、ごめんなさい話

くぼう無学
ホラー
怖い話を読んで、涼しい夜をお過ごしになってはいかがでしょう。 本当にあった怖い話、背筋の凍るゾッとした話などを中心に、 幾つかご紹介していきたいと思います。

殺したはずの彼女

神崎文尾
ホラー
 異様な美少女、平岡真奈美。黒瀬柚希はその美少女を殺した。だというのに、翌日もその翌日も彼女は学校に来て、けらけらと笑っていた。  故意ではなかったものの間違いなく自分が殺してしまったという罪悪感と、加害者としての意識にさいなまれながら、被害者である真奈美がすぐそばで笑っている異常事態に心身を病み始める柚希だったが、ある日からその周辺で異様な事態が起こり始める。田舎町を舞台に繰り広げられるホラーストーリーの最後はいったいどうなるのか。神崎文尾の新境地、ここに完成。

ハンニバルの3分クッキング

アサシン工房
ホラー
アメリカの住宅街で住人たちが惨殺され、金品を奪われる事件が相次いでいた。 犯人は2人組のストリートギャングの少年少女だ。 事件の犯人を始末するために出向いた軍人、ハンニバル・クルーガー中将は少年少女を容赦なく殺害。 そして、少年少女の死体を持ち帰り、軍事基地の中で人肉料理を披露するのであった! 本作のハンニバルは同作者の作品「ワイルド・ソルジャー」の時よりも20歳以上歳食ってるおじさんです。 そして悪人には容赦無いカニバリズムおじさんです。

処理中です...